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図書館といっしょ!  作者: 雪ノ音
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警備員は異世界に立つ!

 空気が澄んでいる。大きなガラス張りの窓から眺めれば、宇宙の果てまで見えそうな空にハッキリと浮かび上がる満月の光が目に映る。


 ここは町から少々離れた場所に最近建てられた県立図書館。

 お陰で町の光から多少、空の夜景は守られている。

 本来なら住民の利便性を重視するところなのだろうが、この少々不便な土地に建設地に選ばれたのは財政難という理由の他に、最近騒がれだしたエコという言葉も大きな役割を果たしていた。


 お陰で無駄ではないかと思えるほど、テクノロジーが満載の造りとなっている。

 例えば、今見ている景色を通している正面メインガラスも、ただのガラスではない。

 最新式のソーラパネル式ガラスで、この建物の電力の98%以上を賄っている。必要のない電力を節約すれば余裕で100%も超える事だろう。仮に、もし不足したとしても緊急設置可能の風車により、いつでも問題解決は出来る。


 また施設内の水についても地下水を使用しており、他にも雨水を利用するたための、ろ過装置も完備されている。

 災害時には避難所としても考えられた、この過剰な設計は立てこもる事も可能な要塞に近い。

 もちろん、大量の毛布や非常食も500人単位の人間が1ヵ月は困らない程の量が貯蓄されている。


 更にピラミッドをイメージしたような先鋭的で無駄に思えるデザインは、県内の有名デザイナーが協力という形で関わっているらしいが、一般市民からしてみれば嘘くさい話で、きっとどこかで大きな金の流れはあるのだろうという疑いは消えない。

 

 兎にも角にも至れりつくせり。これらの費用があれば、もっと良い土地を買収出来たのではないかと疑問に思える。


 世の中、妙な気遣いと市民に納得出来る理由が整ってしまえば、どれだけ異常な金の流れがあろうと追及は緩くなる。そうして、ここのような箱モノは建て続けられるのだ。



 ちなみに俺は、その恩恵のオコボレを受けて職にありついた「斎藤 翼」23歳。

 大きめの優しい瞳を持ついい男のはずだ。その証拠にバレンタインデーでチョコを貰った事がある。幼少の頃に一度だけだが。

 髪型は最近流行りのラグビーの太郎だか五郎だか、そんな名前の選手の真似をしている。きっと更に男前度が上がっているに違いない。


 そんな翼は3カ月前まで巷で言われる自宅警備員として生きていた。一大発起して就職活動した結果、この県立図書館の夜間警備員として勤務している。同じ警備員でも2文字違うだけで世の中からの評価は随分と変わるものである。それも仕方がないと言えば仕方がない。


 そして先週で研修期間も終わり、今週から1人で夜を過ごす日が訪れたのだった。


 もちろん、本来なら競争率が激しいはずの就職先に潜り込めたのにも理由がある。それはこの建設地に問題があったから。


 何百年も前から、ここは神隠しが繰り返されてきたと噂されている土地だからである。多い時には集落の人間が突然に半分近くが消えた事もあったという。知る人ぞ知る呪われた場所で恐怖のスポットとしてTVでも放映された事があるのが影響したのだろう。


 お陰で随分とライバルは少なかった。真面な職歴のない俺でも就職出来たのは、そんな情報社会の下らないネタ話が広まっていたからだ。


 そして、迷信や幽霊を信じない俺にとっては全く関係のない話だと思っていた。この時までは。




 それは突然の出来事。

 日が昇る前の定期見回りを終えた俺が、監視室へと足を向けた時に起きた。


 最初は視界が、ぼやけた様な感覚を感じた。

 次は足がなんでもないはずの場所で躓く。

 そして床に手をついた時に、それが揺れのせいだと理解する。

 

 地震か?


 これは地震の多い日本に住んでいれば普通に辿り着く思い。

 だが、それを否定するかのように揺れは細かく早い。まるで巨大な電気ドリルが大地を揺らすが如く。


 これは地震ではないのではないか?


 その答えを確認する間もなく、次の瞬間に視界がズレるのを感じた。

 経験した事ない感覚に襲われると、人の脳は正気を保つために自動的に遮断を選ぶ。


 その例に漏れる事無く、翼の記憶はそこで途切れた――



 

 どれくらい意識を失っていただろうか?

 ソーラパネル式ガラスから漏れた光が俺を優しく起こしてくれていた。

 確か自分が見回りをしていたのは太陽が昇る前。今の太陽の高さから考えると2~3時間は倒れていたのかもしれない。


 とりあえず、ざっと周囲を見渡す限りは図書館内に被害はないようだ。

 建造物が多少壊れた所で自分に責任はないし、自分に出来る事はない。

 しかし、約150万冊ある本が揺れで落ちていたら、とんでもない作業が発生する。その場合は間違いなく、その作業に加えられていた事だろう。恐ろしい話だ。


 ただ、どうやら今回はその心配はないようだ。

 大した事がない揺れなのに、変な迷信や孤独感から体が過剰反応を起こしたのかもしれない。

 外の空気でも吸って、一度落ち付くべきだと判断して、足をメイン扉の方へと向けた。


 そして外に出た時――

 体の反応が正しく、頭で考えた事が間違っていた事を思い知る。

 外の世界は自分の知る世界ではない事に。


「どこだ……ここは……?」

 

 この時、翼はまだ全てを理解していなかった。150万冊の本と共に、この県立図書館という建造物ごと「神隠し」により異世界に飛ばされていた事実を。

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