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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第4章 リザードマン編
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お前はいつも詰めが甘い

 「お初にお目にかかりますじゃ、「下弦の弓月」を束ねております、ハクジャと申します、ジャー」

 僕の前には、目尻に深い皺を刻んだ老齢のリザードマンが正座していた。彼がこの部族の族長であり、お嬢のお祖父さんのようだ。

 「あー、そんなに畏まらなくてもいいですよ。こちらもまだ駆け出しですから」

 「そうも参りません。ワシらにとってダンジョンマスター様は天上人と同じゆえに、ジャー」

 なんか調子狂うね。恐れられるならわかるけど、敬われるのには慣れてないし。

 「リザードマンの部族では、皆そういう扱いなんですか?」

 「いえ、お恥ずかしいことですが、ウチの若い者の中には躾の行き届いていない者もおりまして、ジャ」

 ああ、お嬢とかね。

 「まずこの地底湖はご自由にお使いください。その上で、ワシのステータスを見てもらえば、分かっていただけるかと、ジャー」


 「それじゃあ、遠慮なく。コア、地底湖を領域化して。同時に族長さんとお付の人達をゲスト認証で」

 「うん」

 「それから族長さんから許可がでたから、スキャンしてあげて」  「ん」

 族長の膝下から白い光の帯が立ち上った。しかしそれを見て動揺するリザードマンがいない。

 あれ、これってもしかして・・・


 フロスト・リザードマン・チーフ:凍結蜥蜴人 族長

種族:亜人 ランク5 眷属化コスト125

HP35 MP15 攻撃力6(+武器修正) 防御力6(+防具修正)

技能:槍、冷気耐性、弓、半水棲、部族支配

特技:クレセント・アロー(朔矢)

備考:朔矢 使用MP2 射程60m 単体(範囲) 一度に3本の矢を放つ。対象は1-3体を選択

   はぐれ個体


 あ、やっぱり、はぐれ個体だね。

 「族長の他には?」

 僕の質問の意味を悟って、族長が頷きながら答えた。

 「古参の者にあと二人ほど。残りは戦いの中で果てました、ジャ」

 「そうでしたか、以前のマスターは?」

 「すでに亡くなったと聞き及んでおります、ジャー」

 

 それからハクジャさんの、昔話が始まった。

 ダンジョンの中に突然、召喚されたこと。徐々に仲間が増えていったこと。

 やがてマスターが重い病気にかかったこと。治療法が見つからず、ダンジョンを閉鎖することになったこと。

 仲間と共にこの地に居住地を定めたこと。暫くして新たなリザードマン達が移住してきたこと。

 餌場の問題で、抗争に発展したこと。その中で起きた後継者夫婦の事故死のこと。

 そして現在に至るらしい。


 「ワシら年寄はダンジョンマスター様のお力をよく存じております。例え今は力を貯めておられる時期だったとしても、やがてはこの地方を治めるに違いありませぬ、ジャー」


 いやあ、どうなんでしょうね。まだたまに残りDPが二桁になったりするんですけど。


 「ワシらの居住区もご入用なら差し上げますので、どうか孫娘と若い者だけは見逃していただけませんでしょうか、ジャジャ」

 「いや、そこまではしませんよ。話の分かる隣人でいてくれるなら、それで」

 「ありがたいお言葉ですが、ワシらがここに居られる時はそれほど長くはないかと、ジャー」

 「例の抗争相手ですか?」

 「そうですじゃ、「三日月の槍」と名乗る新興部族で、数十年前に移住してきました。前の居住地をアイス・サーペントに襲われたらしく、着の身着のままで避難してきたので、ワシらも受け入れたのですが、ジャー」

 「やがて我が物顔で餌場を荒らすようになったと」

 「まだ先代の族長は話のわかる男で、義理堅く恩義を感じていてくれたのですが、今代の女族長に代わってからは手のひらを返したように、武力抗争に明け暮れてこの有様です、ジャー」


 なるほどね、このままでも部族存亡の危機なわけだ。とはいえどうしようか・・・


 僕が悩んでいると、地底湖に1人のリザードマンが駆け下りてきた。

 「族長、奴らが一斉に攻め込んできやしたぜ、ジャー」

 「なんだと、ベニジャはどうした?ジャー」

 「若い者連れて迎え撃つと、ジャ」

 「馬鹿者、戦って勝てる相手ではないわ、ジャジャ」


 どうやら部族抗争の真っ只中に出くわしたようだね。見捨てるのもなんだから、少し手を貸そうかな。

 「ハクジャさん、部族の全員をこの地底湖に避難させてください。後は僕らがやります」



   その頃、「下弦の弓月」の居住区では

 「姐さん、下弦の奴ら居住地の出入り口にバリケード張って立て篭もってやすぜ、ジャー」

 「かまわないよ、力ずくで突破しな!」

 「ヘイッ!ジャー」

 槍の穂先に三日月型の刃の付いた、円月槍を振りかざして、侵攻部隊はバリケードに突入していった。


 「来たよ、よく狙って撃て、クレセント・アロー!」

 「「クレセント・アロー!!」」 

 バリケードの中から一斉に放たれた矢は、驟雨の様に侵攻部隊の前衛に降り注いだ。

 だが、6人の一斉射で倒せたのは一人だけだった。次の斉射でさらに2人を倒したが、その時点でバリケードへの接近を許すことになる。


 「懐に潜ればこっちのものだぜ、クレセント・スィング!」

 円月槍を使う侵攻部隊側の特技は、前方への横薙ぎ攻撃だ。バリケード毎、隠れている弓兵を刈り取っていく。


 「だめだ、お嬢、ここはもうもたねえ、ジャー」

 「仕方ない、次のバリケードまで下がるよ、ジャー」


 「そうは参らぬでござる」


 「誰だい!ジャー」

 振り返ったお嬢の目には、袈裟懸けに切られて倒れいく手下の姿が映っていた。

 「貴殿らに恨みはないが、一宿一飯の恩義を果たさねばならぬのでな」

 そこには、黒い刃の剣を振りかざす、人食い鬼が立ちはだかっていた。


 「クソッ、奴らの助っ人かい、ジャー」

 「お嬢、ここは引き受けやす、急いで奥に、ジャー」

 「御免!」

 剣鬼が、間に割って入った若い衆を一太刀で切り伏せる。

 「お嬢、早く!こいつはあっしらが止めてみせやす、ジャー」

 「お前達・・・」

 「お嬢!早く!!」

 突き飛ばすように自分を押しのけて、剣鬼に斬られた手下は、それでも奥へは行かせまいと尻尾を振るって足払いを掛けようとした。


 「奥義、逆居合い」

 剣鬼は、左手で右に差していたもう1本の剣を引き抜くと、手下の尻尾を切り離して平然と立っていた。


 「あ、あ、あ、」

 目の前で手下全員を惨殺されたお嬢は、ただその場に立ち竦んでいることしかできなかった。


 「忠義者達の見事な覚悟でござった。ゆえに苦しまずに後を追うが良い」

 剣鬼が2刀を鞘に納めると、腰溜めに構えをとった。

 「奥義・・・」


 だが、剣鬼の奥義が炸裂する寸前に、お嬢の姿が目の前から消えうせた。

 「不覚!」


 お嬢のいた場所にはポッカリと大きな穴が開いていた・・・


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