なめたらいかんぜよ
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
ヘラジカの湖の南に、割と大きな湖沼が3つ連なって三日月型を形成している場所がある。
そこは三日月湖または三日月の3姉妹と周辺の亜人達からは呼びならわされていた。
三日月をつくる三つの湖のうち、2つは、あるリザードマンの部族の領域になっており、残りの一つは別のリザードマンの部族が住み着いていた。
大きい方の部族は「三日月の槍」と名乗り、小さいほうの部族は「下弦の弓月」と名乗っていた。
もともとこの地域は「下弦の弓月」の領域であったが、いつの頃からか、三日月湖の端に、はぐれリザードマンが住み着き、やがて勢力が大きくなると、「三日月の槍」を名乗りだした。
何度かの抗争ののち、手打ちとなって、湖の1つを「三日月の槍」が支配することで決着がついた。
はずだった・・・
やがて年月が経つと、2つの部族の勢力バランスが崩れはじめ、やがて中央の大きな湖も、「三日月の槍」に支配されるようになった。
現状では、最後の湖も奪われようとしている。
「爺ちゃん、もう我慢できねえ。こうなったら一か八かで殴りこみかけるしかねえぜ、ジャー」
若い娘のリザードマンに声を掛けられた老齢の戦士が、首を横に振った。
「無駄じゃ、すでに向こうの勢力は我らの3倍、戦っても勝てるわけもないのジャー」
「じゃあ、このまま黙って奴らにシマを明け渡すのかよ、ジャー」
「それも止む無しジャ」
「そんなの、はいそうですかと納得できるわきゃねえだろ、ジャー」
いきり立つ孫娘の怒りはもっともなのだが、それを宥めることしかできなかった。
「だいたい、生簀に囲い込んでおいた紅鮭が、高波で逃げ出したのだって奴らの嫌がらせにちがいないんだ、ジャーー」
「確かに、あれで蓄えておいた食糧が、かなり減ったのう、ジャ」
「漁場を失ったオレらが地下水路の魚を捕ってることに気がついて、妨害工作してきやがったんだ。このまま泣き寝入りしたら、部族の名折れだぜ、爺ちゃん、ジャー」
「奴らの工作かどうかは置いといて、原因の究明と、逃げた紅鮭はどうにかしたいのう、ジャ」
「だろ、オレが若いの連れて探してきてやるよ。ついでに奴らのシッポをふん捕まえてきてやるぜ、ジャジャー」
威勢よく飛び出していった孫娘の背中を目で追いながら、老戦士はため息をついた。
「せめて大人しい性格だったなら、どこかの有力部族に輿入れもできただろうに・・・」
鉄火肌の孫娘は、少なくなった若い衆をかき集めると、地底湖に潜っていった。
その頃の「三日月の槍」は、
「姐さん、どうやらアイスオークとエルフ達の戦争は、痛み分けに終わったようですぜ、ジャー」
「そうかい、こっちの目論見どおりだね。これで北に邪魔な奴らがいなくなった」
「ヘイッ、ヘラジカの湖まで、うちのシマに取り込めやす、ジャー」
「だけど、目障りなのがまだ残ってるしねえ」
「そうですが、先代の遺言で「下弦の弓月」を潰すことは禁じられてますぜ、ジャー」
「わかってるよ、そんなことは。あの爺さんも耄碌して、余計な冥土の土産を置いていったもんさ」
「で、どうしやすか?ジャ」
「下弦の連中はまだ、出て行く気配はないのかい?」
「なんでも最近、地下に造った生簀が波に流されたそうで、ウチに難癖つけてきました、ジャー」
「ハッ、いい気味だよ。落ち目になると僻み根性がついてヤダヤダ。なんでもウチの所為にされちゃ、敵わないよ。まあ、不幸な事故の大半はウチの仕業なんだけどね」
姐さんと呼ばれた、妖艶な女リザードマンがニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「身に覚えの無い悪行の濡れ衣を着させられたんだ。それなりの詫びを入れてもらうのが筋ってもんだよねえ」
「ヘイッ、ジャー」
「あっちのご隠居に繋ぎを入れな。「この落とし前、どうなさるおつもりですか?」ってね」
「ヘイッ!ジャジャ」
初夢
「やばい!」 「ばい!」
突然叫びだした僕を皆が一斉に見た。
「何か攻めてきたっすか?」
「DPが尽きたのか?」
「キュキュ?」
うん、監視用のバッタをこっそり食べるのは止してね。でも今はそれじゃないから。
「新年の最初の話なのに、このままだと僕らの出番がないよ」
「ああ、いつもの事だろう」
「3話ぐらい平気で他の話をするっすからね」
「皆、慣れっこになってるけど、主役は僕らだよね?」
「ん」
「いや、最近の出番で行くと、ロザリオさんと親方がメインっす」
「なんですと」 「ぴゃあ」
「ふふふ、そうか私の時代がやってきたというわけだな」
「キュキュキュ」
「ならば仕方ない、隠密ゴブリンに密命を・・・」
「おいら達は逆恨みじゃ動かないすっよ。どうしてもって言うなら御前を通してくださいっす」
「御前?」
「キュキュ」
「「えっ!」」
隠密ゴブリンを影で支配する謎の旗本の正体は、親方だった・・・




