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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
序章もしくはチュートリアル
9/478

ここから始まる

 降りしきる小雨の中で、僕は小さな子犬を抱えて立ちすくんでいた。帰り道の途中で、草むらに置かれたダンボールの中で、寒さに凍える小さな命を僕は見なかった事にはできなかったんだ。

 でも予想通り、家で飼う事は許してもらえなかった。元の場所に戻してくるように叱られたけど、それができれば最初から拾ったりしないよね。一度その温もりを両腕に感じたら、それをまた冷たい雨の中に打ち捨てていくことは、見つけたときに素通りするより難しいってこと。僕は腕の中で心配げに見上げる真っ白な子犬に、安心させるように声を掛けた。

 「大丈夫、雨宿りできるとこを探すから。お金はないけど、なんとかなるよ。でもこんな僕らを追い出すなんて、血も涙もないよね、姫は」

 「ん」


 「誰が冷血漢の鬼ですって?」

 ここはチュートリアルダンジョンのコアルーム、目の前にはこめかみの辺りに井桁を浮かべたオーブが、怒りのオーラを放っていた。

 僕の手の中には、丁度手のひらに乗りそうなサイズの真っ白なオーブが包まれている。命名に成功した直後に、台座の上のオーブから分離してふわふわと漂ってきたので、両手でキャッチしたんだ。

 少し冷たかったけど、すぐに体温で温まったらしく、今は握力を込めないと手に持っている事を忘れそうになるぐらい馴染んでいる。僕のコアだ。


 「君の名前はコアだ」

 ・・・・・・・・・・・ ・・・ ・

 「ん」

 どうやら命名に成功したらしい。ダンジョンコアに、そのままの名前をつけた先人は、この世界にはいなかったようだ。

 コアは何度かゆっくりと明滅すると、驚くことに台座のオーブから抜け出して、ふわふわと僕の方へ近づいてきた。

 「うわ、ダンジョンコアって独立移動可能なんだ。なんていうか巣分けの一種?」

 「私達を羽蟻かなにかと間違えてませんこと?」

 コアが分離したからか、姫が復活して話かけてきた。

 「あ、まだいたんだ」

 「怒りますわよ!」

 「そうじゃなくて、僕が「コア」を選択したときに姫の役目が終わったことになって、どこか遠くに帰ってしまったと思ったから。ずいぶん親身に相談相手になってもらったのに、お礼も言えずに寂しかったから・・・」

 「まあ、どうしましょう・・・私としたことが貴方の気持ちも考えずに辛く当たってしまって・・・御礼なんてよろしいのですわよ、貴方を導くことは私に与えられた使命ですもの」

 「じゃあもう怒ってない?」

 「ええ、もちろんですわ」

 ちょろいな。

 「ん」


 姫が復帰した理由は、これから新しいダンジョンの設置場所を決めるためらしい。

 「本来ならばダンジョンに適した設置場所の中からランダムで決まるのですが、貴方の場合は例外で、少しだけ希望が反映されますわ。それでも選べる地域が環境的に若干厳しい亜寒帯に指定されていますので、ランダム配置より有利なわけではありませんの。正確にはランダムでは選ばれない難易度の高い地域というわけですわね」

 「温帯や亜熱帯が住みやすいから除外されるのはわかるんだけど、熱帯や冷帯は選べないの?」

 「準ヘルモードでもよろしければ」

 「遠慮しときます・・・」 「・・」

 この世界はダンジョンマスターに優しくないらしい。


 亜寒帯かー。前世の世界だとヨーロッパ北部、ロシア中南部、中国北部、カナダ南部あたりかな。

 ちょっと知識があやふやだけど、要は冬はかなり寒くて、農耕も限定され、動物は種類が少ないのかな。

 ダンジョンの中は外気温には左右されないだろうけど、雪に閉ざされれば外来者は来なくなるだろうし、外で狩猟や収穫もできなくなるのか。なるほど、これは思ったよりきついな。

 「そしたらせめて、広葉樹の森林のなかにある淡水魚の生息している湖の側の岩山とかは?」

 少しでも条件を良くしようと欲張りな注文をしてみる。広葉樹林なら木の実がとれるだろうし、それを餌にする鳥や獣が多く住み着いているだろう。湖があれば水場と食料が確保できるし、岩山の中なら石切り場に不自由しないからね。

 「はっきりと申し上げて無理ですわね」

 姫は冷たく言い放つ。

 「先ほどの希望を叶えたとしても、針葉樹林の中にある丘の中腹で少し離れた場所に沼がある、が精一杯ですわ」

 「しょぼ」  「ん」

 「これでもかなりの譲歩はしているのです」

 「でも、すっぱ」  「ん」

 「貴方だけを特別扱いするわけには・・・」

 「姫と僕らの仲なのに」  「ん」

 「・・・わかりましたわ。沼でなく湖でいかが?」

 僕とコアの同調攻撃に姫が折れた。

 「やったー、さすが姫、ありがとう!」  「ん!」

 「おだててもダメですわよ」

 そういう姫だけど嬉しそうに明滅していた。


 「では、これよりダンジョンの設置場所まで転送を開始します。2人のダンジョン生活に幸多からんことを」

 姫が歌うように呪文を唱えると、僕たちは一瞬の浮遊感とともに別の場所に転移された。

 そこは姫にお願いした通り、針葉樹に囲まれた、遠くに湖の見える丘の中腹だった。

 僕はその丘の上で呆然としながら冷たい雨に打たれていた。

 「え?なんで屋外?ダンジョンは自分で最初から掘るの?」

 「ん」

 ・・・ハードだ。





 


 

やっとダンジョンが掘れます。

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