こっちの水は甘いぞ
ピンポーン
ダンジョンの中に場違いな玄関チャイムの音が響いた。
「何の音?コア、警報がわりに玄関チャイムでもつけた?」
「ぷる」
ピンポーン ピンポーン
やっぱり鳴ってる。誰か来たのかな。
「はーい、どなたですか?」
コアルームで宙に向けて問いかけてみた。すると、
「宅急便ですニャ」
どこからともなく、少し訛った共通語で答えが帰ってきた。
ダンジョンに宅急便が届くのかよ、とか、誰が出して料金どっちが払うんだろう、とか、幾つか疑問点はあるけれど、一番大事なのは・・・
ニャだよニャ。
これはあれかな、猫耳娘が宅急便屋のコスチューム着て、優しく手渡ししてくれるんだろうか。
「にゃにゃハン、にゃにゃ台、お待たせしたニャン」
とか早口言葉で言って欲しい。
ちなみに僕は黒推しで。
「おいらは白っすね」
コアにゲスト指定してもらって、コアルームまで誘導してもらう。というかどっから入ってきたんだろうね。
コアルームの扉を開けて入ってきたのは、黒い猫だった。大きさも普通のただのしゃべる猫。
「黒猫ジジの宅急便ニャ」
あちこちからクレームの来そうなネーミングはやめて欲しい。
「大丈夫ニャ、訴えられたら夜逃げするニャ」
裁判で勝ち目ないんだ。
「あれ?荷物は?」
黒猫は宅急便という割には何ももっていない。というかこの体格だと封筒ぐらいしか運べないような気がする。お腹に異次元ポケットでも隠しているんだろうか・・・
「背中にコンテナ用のハッチがあるニャ」
「まさかのQべー方式!?」
「うそニャ」
この黒猫、腹の中も黒いらしい。
「ここにサインして、受取人にニャってよ」
宅急便の荷物は、配送所から直接転送してくるのだそうだ。ジジはそのランドマーカー役らしい。すぐにコアテーブルの上に魔法陣が現れて、見慣れたダンボールの箱が出現した。
割と大きい。上面に受け取り票が貼られていた。
「ここにサインか肉球押すニャ」
肉球でいいんだ。
代理で親方の肉球を押してもらった。
「代金引き換えニャ」
「え?着払いなの?」
「そうニャ」
「差出人、誰だよ」
「コールセンターの「姫」となってるニャ」
あーーー、あの時の援助物資が今、届いたのか。すっかり忘れてた。 「うん」
「それで、お幾らなんでしょうか」
「162DPになるニャ」
「「たか!」」
確かに人里離れた辺境のダンジョンまで届けようとしたら、それぐらいの代金はかかるんだろうけど、なんで着払い・・・
困窮してるダンジョンマスターに援助物資送って首絞めるとか、新しい嫌がらせかなんかだろうか。
「これ本当に「姫」が送り主?」
「さあ、そこまでは分からないニャ。ただ発送担当者はえらくそそっかしい人で、宛名5回も間違えていたニャ」
「・・ドジっ子だ」
すごい嫌な予感がしてるけど、配送業者さんに罪はないし、仕方なく162DP払った。
「えらい半端だけど、距離や重量で細かく計算するの?」
「一律150DPニャ、12DPは税金ニャ」
「消費税かかるんだ!しかも8%!」
黒猫のジジが帰ったあとで、ダンボーの顔が描かれたダンボールの箱を開けた。
中身は・・・青汁とクロレラとミドリムシが1年分入っていた・・・
「これクーリング・オフできないかな・・・」
「にがぁ」
「うわっ、激マズっすね、でももう1杯」
個別包装も開けちゃったんだ、
「ギャギャ(この抹茶入りは飲みやすいですよ)」
「ギャギャギャ(ミドリムシと言っても虫には見えないが)」
飲んじゃったんだね。まあ、野菜が足りてないから、栄養を補うには良いのかな。
僕も抹茶入り青汁を飲んでみた。
「グヘエ、TVショッピングで宣伝してるのと一緒だね、一緒」
砂糖か蜂蜜を入れないと僕には飲めそうもなかった。
「主殿、このクロレラというのは薬か?」
「いや、携帯食に近いかな。満腹感はでないけど、栄養があるんだよ」
「ふむ」 ボリボリボリ 「なるほどな」
「わかるの?」
「まったく、わからん」
「だろうね。原料は藻なんだけど」
「ならば鮭達の餌にするか?」
「さすがにそれはもったいないよ。数もそんなに無いし」
「だが、水牢の底には何も生えていなかったし、やがては餓死するのではないかな」
そういえば紅鮭の餌も考えた方がいいね。たまに昆虫をあげるとしても、自生する藻や貝類がいるに越したことないしね。
「コア、水中に設置できる藻の類ってある?」
「ん~~~」
コアが悩んでから送ってくれたリストは、
設置リスト:環境(水中)
マイクロ・ビオトープ 3mx3mx3m 極端に狭い水槽の中で、生態系が保たれている。
100DP
漁礁(淡水用) 9mx9m 倒木と水草でできた、淡水魚の漁礁 繁殖に+10%修正
300DP
ドローイング・ウィード 9mx9mx1m 水草の群生に見えるが、近づくと巻き付かれて溺死する。
500DP
ケルプの巣 9mx15mx3m 深く生い茂った水草の群生。 低確率でケルプが住み着く。
1000DP
サルガッソー(船の墓場)1kmx1km 年中霧が立ち込める難破船の墓場。海草が密集して生えてい て、うかつに接近すると船ごとからみつかれる。
3000DP
うん、最後のは、あきらかに違うね。 「むう」
この中だと、やはり漁礁かな。ケルプの巣も魅力的だけどDPが高いから。これなら精霊の泉を作った方が良いかも。
「コア、水牢の水底に漁礁(淡水用)を設置して」 「ん」
ついでにやっておこうかな。
「コア、精霊の泉(低級)を設置するのにお勧めの場所は?」
「ん?」
「欲しい精霊は治癒か水属性かな」 「ん」
送られてきた情報によると、
癒しの毒リンゴの木の根元 治癒狙い ただし毒精霊の可能性もあり。
癒しの泉の側 治癒狙い 成功率高い
水牢から地下水路でいった洞窟 水属性狙い 成功率高い
淵のそば 水属性狙い ランクが低いのが来るかも
以上の3箇所だった。毒精霊が来ると困るので、治癒なら癒しの泉の部屋になるけど、あそこに3つも集中するのもどうだろう。
水属性を呼ぶなら水路の先の洞窟がいいかな。淵の側は行くのに楽だけど、ランク低いのだと寂しいからね。
「よし、コア、水路の先の洞窟に精霊の泉(低級用)を設置して。奥の方でいいから」
「ん」
さあ、これであとは優しい精霊が宿ってくれるのを待つだけだ。
「たまに水没者の幽霊が来たりするらしいぞ」
「ぴゃー」
「ロザリオ、変なフラグ立てないで」
「ハハハハ」
DPの推移
現在値: 2604 DP
手数料:黒猫宅急便 -162
設置:魚礁(淡水用) -300
設置:精霊の泉(低級用) -1000
残り 1142 DP




