盤上の敵
動き出したのは、ほぼ同時だった。
「大地の精霊よ、潜む悪意を暴きたてよ!ディテクト・ピット」
レンガのウウがドルイド系の呪文を唱える。
「コア、小部屋にスケルトンファイターを3連続召喚!」 「ん!」
こちらは拠点防御で衛兵を3体召喚する。
床に連続した魔法陣から現れた骸骨の兵士に驚いて、小隊長が特技を発動した。
「アイス・ストーム!ブヒィ」
狭い室内に吹き荒れる氷の嵐で、スケルトンファイターは一瞬にして全滅した。そしてアイスオーク達は、その嵐の中で平然としている。
「みたか、ブヒブヒ」
鼻息荒い小隊長をウウが諌める。
「使わされたのです。今のが2回目なら、今日はもう打てないでしょう?」
「ブヒィ!?」
衛兵を3体囮にして、小隊長のMPを削った。ウウと同時に使われると、最悪だからね。
でもウウは冷静だ。さっきかけたのは床にあるトラップを見抜く呪文のようだ。目の前の落とし穴や両脇の槍衾を避けるように指示している。
「扉が3つあって、左右にはトラップ。ということは正面が当たりですね」
そういって元コアルームに通じる扉を開けてきた。
「大事な方に罠を仕掛けるのでは?ブヒィ」
部下の一人が質問してくると、ウウは答えた。
「これが罠が一つならそれで正解ですね。でも2つあるなら残りが本命でしょう。召喚も正面を塞ぐように行われましたし」
「あっ」
コアが無意識に来て欲しくない場所に召喚したのを見抜くとはね。
いや、これは召喚場所を指定しなかった僕のミスだ。
レンガのウウ、さすが3兄弟の頭脳担当なだけはある。
「隠密ゴブリンは作業部屋に移動。ディアハンターは外回りで麦畑に潜んで」
「了解っす」 「バウ」
「コア、武器庫にアイスオークを1体ずつ召喚。先頭を挟撃させて」 「ん」
さあ、冷気が効かない相手はどうする?
ウウは隊列の2番目で先頭を行く戦士を誘導していた。
「この十字路の先に罠ですね。その先も何かあるのか・・・これだけ厳重だとやはりコアルームがありそうだ。手前の落とし穴は、体重をかけすぎないように踏んで作動させてください」
「了解でブヒィ」
慎重に歩を進める戦士が十字路に差し掛かった。それと同時に両脇から戦斧を持った亜人が襲いかかってきた。
「お前らは!ブヒィー」
混乱の叫び声をあげながら、先頭の隊員が防ごうとするが、左右からの挟撃で致命傷を受けて倒れた。
「アイス・ストーム!」
呪文より確実に早く発動する特技でアイスストームを2体に放つが、敵は素早く両脇の部屋に隠れてしまった。
「やっかいですね、手応えがなさすぎる。冷気耐性持ちということは、同族殺しをさせようって魂胆ですか」
そうなると氷系の呪文がほぼ効かなくなる。ドルイド呪文には火炎系もあるにはあるが、オイラとは相性が悪すぎて発動しない。
「小隊長、ここは頼みます。突破できればなんとかしますから」
「おまかせを、ブヒ」
ウウと入れ替わりで小隊長が前に出てきたようだ。
「歳重ねし大樹の樹皮を纏わん、バーク・スキン!ブヒ」
ドルイド系の防御強化呪文を唱えて、小隊長は前進してきた。
再び両脇から戦斧が振り下ろされるが、片側を完全に無視して、もう片方を迎撃した。後ろから攻撃は確実に命中したはずだが、わずかしかダメージを与えていない。1対1を強要されたアイスオークは、何度か斬りあった末に倒されてしまう。
ここまでに挟撃で小隊長に与えたダメージは、ウウが治癒呪文で治してしまった。
「隠密ゴブリン、ヒット&アウェイ」 「ごー」
小隊長とウウの意識が前方に向いてる隙に後衛を削る。
通路が狭くて順番待ちをしていたアイスオークの部隊に、奇襲をかけた。
ズサッズサッズサッズサッ 「ピギャアア」
4人で1体を狙ったのだから、確実に倒れる。任務が完了したら、ウウが気付いて範囲魔法を撃ってくる前に逃走する。
「散!」 「「「ギャ」」」
後を追われない様に3人は、3方向に分散して逃走した。
小隊長の怪我を治療している隙を突かれて、後衛の戦士が瞬殺された。
「ウウ隊長、追撃は?ブヒ」
「無駄です、追えば敵の術中にはまります。警戒を密に」
「ブヒ」
これで2名脱落ですか。なんとかコアルームを探し出して破壊しないと・・・
小隊長がもう片方も倒してくれたようです。この通路は危険ですから早く抜けなくては。
足元の罠に気をつけながら、小隊長が正面の木製の扉を押し開けた。
そこは普通の大きさの部屋になっており、床にはびっしり罠の反応がある。
「なんだ、この足の踏み場も無いトラップルームは」
うかつに部屋に入ろうとした小隊長を呼び止めて、召喚魔法を唱える。
「森に住まう小さな友人よ、我が声が届くなら、来たりて、力を貸したまえ!サモン・アニマル」
ウウが召喚呪文を唱えている。詠唱から動物を召喚するタイプだとわかった。敵味方ともに召喚魔方陣に意識が集まったときを狙って、奴が動いた。
キュピーーン
「忍法、影刃っす」
さっき奇襲を掛けたのは4人、だけどあの場所から逃げ出したのは3人だけ。ワタリは3人の派手な逃走に紛れて、リンゴの木の裏に隠れていたんだ。
クリティカル・ヒットが首筋に突き刺さり、また1人、部隊の兵士が倒れた。
ウウは召喚呪文の詠唱中なので、反撃に呪文は飛んでこない。ワタリは悠々と現場から立ち去った。
「三途の川の渡し守っす」
後方で隊員の悲鳴があがった。だけど今、詠唱を止めると呪文がキャンセルされる。魔力の浪費は可能な限り避けたい。心を鬼にして詠唱を継続した。
召喚が成功し、魔方陣の中には8匹のフェレットが出現した。
「よし、散らばって偵察に行ってこい」
「「チチチ」」
扉の隙間から続々とフェレットが元コアルームに侵入していった。
「もふ!」
「え?毛皮が侵入してきた?ウウのサモン・アニマルか」 「ん」
フェレットとは渋い選択だね。僕らをネズミに例えて巣穴から追い出そうっていう作戦か。
「ちゅー」
「主殿、今、応援にいくぞ」
フェレットと聞いて、ロザリオが俄然やるきになったらしい。
でもそのフェレットは元コアルーム(現在の呼称は罠部屋)の罠にかかってバタバタ死んでるんですけど・・
DPの推移
現在値:1419 DP
召喚:スケルトン・ファイターx3 -120*
召喚:アイスオークx2 -180
残り 1119 DP




