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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
序章もしくはチュートリアル
8/478

選ばれたのは

 晩秋のカフェテラスで、綺麗な素足を高く組みながら、物憂げに紅茶を飲むセレブな令嬢。彼女は深い溜息をつきながら目の前の僕に語りかける・・・

 「もう「ドジっ子」に決めればよろしいのでは?」


 妄想から我に帰ると、そこは薄暗いダンジョンの1室で、台座の上のオーブから放たれる弱い光だけがあたりを照らしていた。

 「人の人生の重大な選択を、そんな投げやりな態度で決めないでくださいよ」

 僕が、チュートリアルコアの「姫」に抗議すると、彼女は疲れた声で返事をしてきた。

 「ですけど、もう2時間もそうやって悩んでいるだけではないですか。いっそ、6面ダイスでも振って・・・」

 「ダメです、それで「ヤンデレ」がでたらどうするんですか?」

 「よろしいじゃありませんか。彼女とてマスターに仕える使命に燃えたコアの一員です。情熱の炎に身を焼かれるのも一興でわなくて?」

 「嫉妬の炎で焼死するのは確定なんですね・・・」

 「・・・過去に3名ほど・・・」

 「うわあ・・・」


 でも確かにここで悩んでいても問題は解決しないね。僕はコア候補達の性格は置いておいて、能力で判断することにした。

 「じゃあまあ彼女達のスペックを教えてもらってもいいですか?」

 「やっと前向きに考え始めてくれたのですね。では情報開示制限に抵触しない程度のデータをお教えしますわね」

 姫は嬉しそうにコア達の比較を語りだした。


 「ダンジョンコアの能力は、情報量,演算速度、コア容量、戦闘力、親和度の5つで表されます。情報量は保有している情報・知識の範囲と精度、演算速度は情報を処理する速さですわね。コア容量とはダンジョンポイントを貯めておける最大量のことです。戦闘力はダンジョン内での配下モンスターや罠の強度を示し、親和度はマスターや配下モンスターとのコミュニケーション能力を表しますの」


 コアにもRPGでいうところの能力値みたいなものがあるんだ。聞くのがなんだか怖いけど、それぞれの数値を教えてもらおうかな。

 「コアの個別の能力を数値化して教えてもらえるのかな?」

 「あくまで今回の5人の比較でしたらABC評価でお教えしてもよろしくてよ。その他のコアとの比較は情報開示制限に抵触するようですわ」

 「それで良いからお願いするね」

 「こほん、では・・・」


 ヤンデレ 情報C 演算B 容量B 戦闘A 親和D

 ドジっ子 情報C 演算C 容量A 戦闘B 親和B

 無口   情報B 演算A 容量C 戦闘B 親和C

 男の娘  情報B 演算C 容量B 戦闘C 親和A

 貴腐人  情報A 演算B 容量B 戦闘C 親和C


 「一つ質問いいかな?」

 「はい、どうぞ」

 「ABC評価なのに、ヤンデレの親和度がそのカテゴリーからはみ出してるのは、ありなんだ」

 「・・・ありです・・・」

 「うわ、開き直ってるし」

 「私はアーカイブのデータをそのまま伝えてるだけですわ。普通なら評価Cに収まらない能力値などメンテナンスの対象になるはずなのに、非常識にもほどがありましてよ」

 逆切れした姫をなだめつつ、僕は5人の相対評価を検討してみた。


 「ヤンデレ」は戦闘特化で人の話を聞きそうにない感じだね。

 「ドジっ子」はお馬鹿で腹ペコキャラかー。

 「無口」は、なるほど情報・演算・戦闘はハイスペックだけど、容量が少ないのがどれくらい響くのかな。

 「男の娘」は癒し系だね、戦闘になったらあたふたしてそうだ。

 「貴腐人」はさすがの情報量だけど、それが戦闘には生かされないのかー。

 総合評価は皆ほぼ横並び(ヤンデレは除く)で、僕がコアに何を望むのかが決め手になりそうかな。さてどうしよう・・・


 しばらく思考の海に沈んでいた僕が、やがて心を決めて顔をあげると、姫が声を掛けてきた。

 「選択を終えたようですわね」

 「うん、決めたよ」

 姫は僕の次の言葉を急かすことなく静かに待ち受ける。

 「僕はパートナーに「無口」を選びます」


 その声と同時にオーブが眩しく光り始め、やがて目を開けていられないほどの光量が部屋を満たした。


 光の氾濫が治まったあとには、規則正しく明滅する真っ白なオーブが台座に乗っていた。きっとこれがダンジョンコアのコードネーム「無口」なんだろうね。

 僕はそっと手を伸ばすと、指先で優しくオーブに触れた。

 「ん」

 オーブから僕の想像通りの少女の声が聞こえた。

 「よろしく、僕が君のマスターだよ」

 話しかけると2度ほど点滅したあとに返事があった。

 「ん」

 きっとアーカイブへの確認のアクセスや、生体情報の適合検査、さらにはマスターへの挨拶など、そのすべてが一言に集約されていた・・・・・と思うんだけ本当のところどどうなんだろう?


 「コアの名前はマスターがつけるみたいだから、君の名前は僕が決めるよ?」

 「ん」

 問題ないようなので、すっと頭に浮かんだ名前を選んでみた。

 「君の名前は「ユキ」だ」



 ブブー

 部屋のどこかでブザーが鳴った。

 「え?もしかして気に入らなかった?」

 「んん」

 「それは否定でいいんだよね、そしたら名前は英数含めて8文字以上とかの規定があるとか?」

 「んん」

 「実は男の子だとか?」

 「んん!」

 あ、少し反応があった。強い否定だからやはり女の子扱いでいいみたいだ。

 「だとするとなんだろう?もしかして誰かと重複したとか」

 「ん」

 「まじですか、かぶり禁止とかハードル高いな」

 「・・」

 無反応という反応もあるのか。答えに困るとか、質問なのか独り言なのか判別できないときに、こんな雰囲気になるのかも。

 「じゃあ「シノブ」で」

 ブブー

 「だったら「ルリルリ」」

 ブブー

 「こうなったら「ゴーウェン」!」

 ブブブブー

 「んん!」

 あ、やっぱり怒ったね。

 「しかしこんなにかぶるほどコアっているんだ」

 「ん」

 「君は希望する名前はないの?」

 「ん」

 さてどうしよう。前世のアニメやラノベから引用するのは無理そうだね。そして僕的には短い名前の方が好ましいし・・・


 「君の名前は・・・」



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