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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第3章 オーク編
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かかったかなと思ったら

 「あれ?特殊技能って詠唱必要だったっけ?」

 「とくには必要ないっす」

 「でも、今、2人とも詠唱してたよね?」

 「その場のノリってやつですかね」

 「詠唱したほうが威力があがるとか」

 「ないっす」

 「病をこじらせてるだけかあ」

 「くわっ」

 コアには7つの封印された力が眠っているらしい。

 「それって開放されてない機能がまだ7つあるとかのオチじゃないよね?」

 「ぴゅー」


 遺跡の階段に後詰の部隊が侵入してきた。本体の後衛がやっていた、枝道の歩哨を交代する為のようだ。

左右の枝道に2人ずつ、階段の入り口に2人という具合に分散した。末弟はその中には居なさそうなので、この機会に狩らせてもらおう。


 「隠密ゴブリンは作業部屋にこっそりと移動。ディアハンター部隊も作業部屋にひっそりと移動して」

 「了解っす」 「バウ」

 「コア、玄関ホールに群体を2つ召喚。縦列で階段をゆっくり登らせて」  「ん」

 鉄格子は降りたままだけど、群体なら通過できる。これで枝道の歩哨の目晦ましと誘導を仕掛ける。



 それを最初に見つけたのは左の枝道の歩哨だった。

 「何か下から上がって来るブヒ」

 通路いっぱいに広がったそれは、大きな羽音を立てながら、ゆっくりと階段を上に移動している。

 「羽虫の群体だ、召喚術士がどこかにいるぞ、ブヒィ」

 ドルイド系に昆虫の群体を召喚して使役する呪文がある。LVが上がると毒を付与してくるタイプもあるので、嫌がらせには効果が高い。歩哨達は、上にいる味方に警戒を出しながら、自分のいる横道には入ってこないように祈った。

 羽虫の群れはゆっくりと階段を移動していく。目の前を通り過ぎる時には、自然と横道の奥へと後ずさっていた。そしてそれは作業部屋に潜んでいる隠密集団に姿をさらすことになる。


 作業場に4つの刺突音と3つの噛み付き音が響いた。続いて何か重たいものが倒れる音が2つ連なったが、それらは羽虫の群れのたてる羽音でかき消されてしまう。

 「任務完了っす」

 「そのまま癒しの泉への道を見張ってる2人も始末して。後ろの群体が援護するから」

 「らじゃあっす」


 先頭の群体はそのままゆっくりと階段をあがらせる。でも後ろの群体は泉の分岐で留まったままだ。後ろに下がって見守る歩哨には、羽虫の群れが延々と続いているように見えているはずだ。

 やがて羽虫の後続が切れて全部が上に上がっていくと思われたときに、最後尾が戻ってきて横道に侵入し始めたらどうするか?


 「羽虫がこっちに折り返しきたブヒ」

 「まずい、この奥は行き止まりだブヒィ」

 二人の歩哨はお互いの顔を見合わせると、両腕で顔を庇いつつ群体を突き抜ける策にでた。いまなら階段の下り方向には何もいないはず。いるとすれば羽虫を操っている召喚術士のはずだ。そいつを倒せば羽虫も散り散りになる。

 そう考えて群れの中を突っ切った2人は、あっさりと羽虫のいない階段に抜け出せた。

 確かに羽虫はいなかった。

 だが、いるはずのないゴブリン族と灰色狼の群れがいた。

 「「ブヒィ?」」

 再び7つの攻撃音と2つの卒倒音が通路に響いた。

 「任務完了っす」


 その時、階段の最上部から羽音に混じって、詠唱が聞こえてきた。

 「まずい、隠密全員退避!」 「よけっ!」

 反応のすばやい隠密集団は、全員が泉の分岐に飛び込んだ。

 通路に転がりながらワタリが尋ねる

 「なんなんすか?!」

 その答えは敵がだしてきた。

 直前まで戦闘していた階段に、氷の嵐が吹き荒れる。それは左右の通路にも影響をおよぼし、メンバーの何人かにダメージを与えた。

 「氷の範囲魔法すか・・歩哨ごと巻き込むとか無茶苦茶っす」

 「いや、アイスオークには冷気耐性があるから、ほとんど効かないんだと思う」

 「うわっ、やっかいっすね」

 「だね。小隊長クラスで範囲魔法を打ってくるのは想定外だよ。これからは巻き込み範囲攻撃にも注意して戦って」

 「注意ってどうやるすか?」

 「小隊長以上がいたら固まって戦わない・・・ぐらいかなあ」

 「とほほ」


 実際に、味方には被害を及ぼさない範囲攻撃を放つ術者がいると、手の打ち様がないよね。

 範囲内に固まらない、術者を先に倒す、術を出させないのが基本だ。でも狭いダンジョンで、術者が兵士より強くて、呪文か特技か分からないけど阻害する方法が今はないから、MPが切れて打てなくなるまで我慢することになる。奇襲で先に倒せると楽なんだけどね。


 「隠密部隊で怪我したメンバーは癒しの泉で回復を。無傷のメンバーは階段から見えない位置で待機。横道は群体で封鎖して様子を見よう」

 「ん」 「ういっす」 「バウ」


 階段の上の小隊長の動向に注意していた僕らの元にアップルから報告があがった。

 「ギャギャギャ(槍衾と落とし穴が戻りました)」

 クーリングタイムが過ぎて、罠が復帰したようだ。中央ホールへの道が開けたってことだね。

 「騎牙猪兵は突撃用意。隊長が扉を開けると同時にホールに突入せよ!」

 「せよ!」  「「ギャギャー(ラジャー)」」



 「フウ隊長、1人やられました、ブヒ」

 「予備を回せ、浮いてる骸骨戦士をつくるな、ブヒィ」

 ホールでの戦闘はジリ貧だった。隊員と骸骨戦士は1対1だと互角、2対1のとこがやっと優勢。しかし倒しても次が湧くという無限ループだ。

 これまでに2体倒したが、その間にこっちにも1人被害がでた。斬りつけた戦斧が相手の盾から抜けなくなって、あせってるところに剣で切り刻まれた。

 これで完全にタイマンだ。だがこちらが疲れて動きが鈍くなっていくのに対して、奴らは疲れ知らずで襲ってくる。いつかはミスが出て、倒れる隊員がでるだろう。

 そうなったら1対2の組み合わせが発生し、そこからすぐに連鎖して負けが決まる。逆転するには俺がこのリーダーらしき骸骨女騎士を倒すしかねえんだが・・・


 「テメエ、しぶてえぞ。とっとと墓に戻りやがれ!ブヒィ」

 「生憎、自分の墓は作っていないのでな。墓に入るのはお前が先のようだぞ!」

 何度目、十何度目かの斬り合いも決着が着かない。奴の特技は防御系らしく、盾で受けられるとこっちの攻撃は完全に防がれる。逆に向こうの攻撃を戦斧で受けると、少しずつダメージが抜けてくる。

 仕方なく回避主体で戦うが、受けるより難しい分、避け損なって重い一撃をくらった。それだけで耐久力の半分を持ってかれたようだ。

 このままだと負ける。そう感じた俺は奴の盾に的を絞った。所詮は木の盾だ、全力で斬れば破壊できるはず。盾さえ奪えば逆転の目もある。

 「そこだあああ、ブヒィ」

 俺の渾身の一撃は、目論見通りに盾を真っ二つにした。

 だが、振り下ろした戦斧に伝わった反動があまりに軽かった為に、勢い余って体が前のめりになった。

 「そうくると思ったぞ」

 寸前で盾を手放し、素早く回り込んだ奴が不敵に笑った。

 「盾が無い戦いも経験したんでな。おかげでこだわりがなくなった」

 奴の剣が俺の横腹を貫いていた。


 負けた・・・

 この腹の傷は致命傷だ・・・

 だが、最後にやらなきゃならねえ仕事が残ってる・・・


 「野郎・・ども・・、撤退・だ、ウウに・・知らせ・・ろ」

 俺は意識を手放す寸前に、最後の特技を発動させた。

 

 その瞬間、フウを中心に吹雪が吹き荒れた。吹き寄せる雪と風が辺りの視界を完全に塞ぐ。

 それを合図にホールに残っていたアイスオークの戦士達が次々に撤退を始める。骸骨戦士達は、目標を見失って立ちすくんでいた。

 「まずい、逃がすな」

 ロザリオが叫ぶが、吹雪の中の骸骨戦士にはどちらの方向に扉があるかもわからない。追いかけたつもりで、壁に激突するものまでいた。


 密集して離脱を図る戦士達の前で、両扉が大きく開いた。

 後詰の部隊の増援か!

 だが安堵する戦士達が見たものは、牙猪にまたがる二騎の騎兵だった。

 「ギャギャ!(突撃!)」 「グヒィ!」

 アップル隊長の号令で、騎兵が突進してくる。不意を突かれた戦士達は、次々に牙の餌食になっていった。

 唯一、突進をかわした戦士が、扉を抜けようとしたが、そこにはアップル隊長が立ち塞がっていた。


 フウ中隊は全滅した。

 


 召喚リストその32

 アイスオーク・レンジャー:氷豚人 野戦兵

種族:亜人 召喚ランク5 召喚コスト250

HP30 MP15 攻撃力6(+武器修正) 防御力6(+防具修正)

技能:斧、冷気耐性、両手斧、警戒、罠解除、隠密

特技:アイスシャープ、ホワイト・アウト(雪吹雪)

備考:雪吹雪 使用MP4 半径10m以内の視認不可 索敵-40%

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