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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第3章 オーク編
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策士、策を読みすぎ

 アイスオーク部族「貪欲の氷斧」侵攻部隊本隊


 フウ隊長率いる3個小隊は、湖畔の野営地で後続の部隊を待っていた。やがて後詰の末弟の部隊が到着すると、すぐに隊長みずから会いにいった。

 「遅いぞ、ウウ。いつまで待たせる気だ、ブヒィ」

 末弟のウウ隊長は、部下に小休憩を命じると、次兄のフウ隊長に話かける。

 「すいませんね、途中でヘラジカの群れを見つけまして。部隊の補給もオイラの仕事なもんで」

 「ブウ兄貴がピンチかも知れねえのに、なに暢気に鹿狩りしてんだよ、テメエは、ブヒィ」

 フウはこのインテリ気取りの末弟が昔から気に食わなかった。確かに頭の切れは兄弟でも断トツだ。同じ親から生まれたとは思えないほどだった。

 だが、オーク訛りの無い流暢な帝国語をしゃべり、何かにつけてデキの違いを見せつける弟が目障りでしかたない。なにより長兄のブウが、この頭でっかちの弟を可愛がっているのが無性に腹が立つのだ。


 「先遣隊からの連絡は、ありませんか?」

 「ない、ブヒ」

 そっけない次兄の返事を気にも止めずに、ウウは周囲を観察した。

 「ブウ兄さんもここで野営したようですね」

 「なんでわかる、ブヒ」

 「フウ兄さんの部隊は野営の痕跡もできるだけ残さないようにするクセがあります。オイラが見てわかるぐらいの跡は先遣隊が残したものでしょう」

 確かに本体は野営も偵察も、オークの部隊とは思えないほど整然と行っていた。それは隊長のフウの薫陶の賜物であり、職業的なクセでもあった。

 フウの職業は「レンジャー」、とは言っても戦隊を組んだり、ダンスしたりするわけではない。野外を主戦場にする斥候兵種である。

 その技能は多岐に渡り、偵察、待ち伏せ、奇襲などをこなす万能型であり、従来なら遊撃を担当するこの隊が先遣されるはずだった。ところが末弟のウウが、何を思ったのか先鋒を志願してきたので誰が行くかでもめた。その結果、仲裁案として長兄のブウが先遣隊として派遣されたのだ。

 

 「目標の状況は?」

 「先遣隊が突入したと思える入口が一つ、その反対側に亜人の住居跡らしき横穴が一つ、自生っぽい麦畑の影に横穴が一つ、穴熊の巣穴の出口が3あった、ブヒィ」

 「穴熊の巣穴は無視しましょう。亜人の住居跡というのが気になりますが、特定できてない以上、住人は目撃もされてないんですよね」

 「あたりまえだブヒ。半日見張ってても何も出入りしないから、住居跡らしいって報告があったブヒィ」

 「なるほど・・・麦畑の影の横穴は?」

 「そっちは麦の穂が邪魔で遠くからだと見えないブヒ。確実に視認できる位置まで近づいたらコッチの動きも丸見えになる、ブヒィ」

 「了解しました。兵士達に食事を配給してから動きましょう」


 「オイ、兄貴を見捨てるのか、ブヒィ」

 「もう突入から丸一日は経ってます。今、無理をしても先遣隊の生存確率はあがりません」

 「お前はそうやって、なんでもかんでも数字や確率で決めるが、俺の勘が兄貴がピンチだっていってんだよ。俺は先行くぜ、ブヒィ」

 本隊に行軍の指示を出していると、ウウの野郎がこれみよがしに溜息をつきながら後詰の部隊に指示を出し始めた。


 「ついてくるのは勝手だが、救出部隊はうちが務めるぜ、ブヒィ」

 「ええ、お願いします。オイラの部隊は後詰ですから、外からの挟撃の警戒と、逃走ルートを塞ぎます」

 先鋒に拘った割には、今度はあっさり譲りやがる。

 「ウウ、お前、何を考えてやがるんだ」

 しばらく黙ったあとで、逆に聞き返してきやがった。

 「フウ兄さんは、今回の遠征をどう思ってますか?」

 「どうって、族長の命令だ、黙って従うしかねえだろうがブヒィ」

 さらに黙ってからウウは囁いた。

 「オイラは、この遠征はするべきではなかったと思ってます」

 「なんだって?」

 こいつ族長に逆らう気か?

 「そもそも、族長の夢枕にたったのが、ドン・ヨーク様の亡霊というのがオカシイのです」

 「族長が嘘ついたっていうのか?」

 「いえ、族長は嘘をついていません(つくほどの知恵を持ってません)」

 「じゃあ亡霊が嘘ついたって言うのか?」

 「もしもドン・ヨーク様の亡霊だったとしたら、女エルフの騎士に自分の墓所を荒らされて、末裔の部族に泣きついてくるでしょうか?」

 そう言われると、古代オーク帝国で、エルフ千人斬りの異名を持つ男爵様にしては弱腰な気もしてくるが・・・

 「誰が、男爵様の名を騙って、俺たちを動かして得するんだよ、ブヒィ」

 「東の森のエルフ、南の沼のリザードマン、もしくはアイスオークを餌にする何かですかね」

 「・・・・」

 俺達がいない間に部族の拠点を襲撃するつもりってことか。最後の奴は嘘臭いが・・・

 「なら、なぜ止めなかった、ブヒィ」

 「族長命令ですからね」

 肩をすくめて答えるウウに、なぜかいらっとする。

 「だから急に先鋒に名乗りでたのかよ、ブヒ」

 「オイラが先遣隊になれば、適当にエルフでも狩って、濡れ衣着せて族長に捧げようと思ってました」

 こいつの言うことは、いつも筋が通っていやがる。後で聞けば誰でも納得するんだが、いざその時には臆病風に吹かれてるようにしか聞こえないのが問題だ。

 アイスオークの中で、馬鹿は可愛がられるが、臆病は嫌われる。こいつの頭なら部族の参謀をやっていてもおかしくないのに、いまだに中隊長止まりなのは、そういうことだ。

 そして俺は・・・


 「なんにしてもブウ兄貴は助ける。それでいいな、ブヒィ」

 「ええ、それで構いません」

 「よし、本隊は俺と一緒に先遣隊の跡を追うぞ、ブヒィ」

 「「ブヒブヒ」」



 フウ兄貴が3個小隊を引き連れて、丘の中腹にある開口部に進軍して行った。うちの3個小隊は、3箇所の出入り口を封鎖するように展開するとしようか。

 最初の策が崩れたので、次善として3個中隊を囮に、敵対勢力をおびき寄せて挟撃する作戦だったのだが、予定が狂った。本拠地には何も現れず、先遣隊が未帰還。まさか最後の予想が的中するとは・・・

 ブウ兄貴と筋肉野郎17名が、誰一人戻ってこないとなると、敵はダンジョンマスターの可能性が高い。

死霊術を使って偽情報を送り、送り込まれる部隊を各個撃破するとは、恐るべき陰謀家だ。

 唯一の勝機は、フウ兄貴の部隊がダンジョンマスターの天敵だという点だけだ。

 もし、フウ兄貴でも勝てない相手なら・・・そのときは・・・


 レンガのウウは、遠く離れた里に残してきた恋人に心の中で謝った。

 「ごめん、トンコ、約束は守れないかも・・・」

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