姫という名の
やっとダンジョンコアを発見して、その起動に成功したけど、なぜか現在の僕は正座のまま30分以上もお説教を聴かされています。
何か間違えたのでしょうか?心当たりは無い・・・こともないです、ごめんなさい。
「だいたい私は本来ならこんな役目を任されるコアでは、ないんですのよ!」
銀の台座の上で、オーブが激しく明滅しながら話しかけてくる。
疲労から意識が朦朧としている僕には、金髪の前髪縦ロールの美少女が、正座している僕を見下ろして説教しているような幻覚が見えている。
「これはこれでありだね」
「何がありなんですの?反省を促されているのにニヤニヤして、この変態仮免マスター見習い候補生」
目をつぶって声だけ聞いていれば、業界では立派な御褒美です。
「て、まだ仮免なの?さっき生体情報も登録終えたのに」
そう、すったもんだした挙句にダンジョンコアの再起動と生体情報の登録は済ませたはずなんだけど。もちろんその前にオーブは磨かされました。
「先ほどから何度も説明してさしあげたでしょう。私は今回だけカルマ0の特別天然記念転生者に、マスターの初期情報だけレクチャーするように任命された・・」
「いわゆるチュートリアルさん?」
「お黙りなさい!」
オーブから放たれる光が光度を増して、威圧感にも似たプレッシャーを与えてくる。戦闘力が上がっただと!?
「本来であれば、私のような由緒正しいコアは正当な手順でダンジョンマスターに転生した人の前にしか現れることはないんですの。イレギュラーな貴方には、他に担当するコア達が用意されています」
「コアに由緒があるんだとか、コア達っていう複数系なのとか、突っ込みどこはいくつもあるんだけど、一番の疑問は、そしたらなぜ用意されたはずのコア達でなく君がいるの?」
普通に考えればハードモード専用コアのどれかがチュートリアルもやれば問題ないと思うんだけど。そしたらじゃがいもの皮でこんなに怒られないだろうし、正座もしなくて良かったような・・・
「姫です」
「え?」
「ですから私のコードネームは「姫」です」
「ああ、なるほど、命名はダンジョンマスターがするわけだから、通称みたいなものがあるんだね」
「ちなみに私が、こうやってわざわざ貴方にお話をしている訳は・・・」
「訳は?」
「ハードモードのコアだと、それすら満足にできない可能性があるからですわ」
「なんですとーー」
オーブから語られる声色が、哀れみのトーンを帯びているのは気のせいだと思いたい。
「転生者がダンジョンマスターを選ぶと、イージーモードでは最もマスター候補者と相性が良いと思われるコアが派遣されます」
「お勧めってことかな」
「ノーマルモードだとランダムに選ばれたコアが派遣され、一度だけ変更することが可能です」
「チェンジは1回までってことね?」
「何か失礼なことを想像してませんか?」
く、妄想に対してのつっこみが的確だ。これが「姫」の実力なのか。
「そしてハードモードですが、過去にマスターから苦情がでてランダムから除外されたコア達が・・」
「ちょっと待ったあーー、なにそのガチャのはずれだけ集めたような罰ゲームは?」
「失礼な!あの子たちもやればできる・・はず・・・とにかくそういう決まりですから」
「OK,OK,姫さん、ちゃんと相手の目をみて話そうか」
オーブの光が心なしか先ほどより弱まっている。
「あのですわね、その、とにかく貴方は提示されたコア達の中から一人を選ぶことができます。そう、そうですわ!候補者がコアを選べるのはハードモードだけですわ、光栄なことでなくって?」
「それってせめてものお慈悲に聞こえますけど・・・」
じと目で見る僕の視線にいたたまれなくなったのか、姫は早口で説明をし始めた。
「貴方が選べるコアのコードネームは「ヤンデレ」「ドジっ子」「男の娘」「無口」「貴腐人」の5つですわ」
「おい姫、ちょっと待て」
急に口調の変わった僕に怯える姫は、恐々返事をした。
「な、な、なんですの?」
「そこに正座」
「はい?」
「いいからそこに正座する」
僕の迫力に気圧されたのか、台座の上でオーブが居住まいを正した気配がした。
「ダンジョンコアの主な役目をいってごらん?」
「はあ?ええ、まあそれぐらいならよろしくてよ。ダンジョンコアとはダンジョン内でマスターを補佐する役目を持ち、ダンジョンポイントの収集、貯蓄、消費を管理します。同時にダンジョン内の監視、維持、修復を請け負い、敵対的な侵入者があった場合にはマスターと共にそれらの排除を指示するオペレーターとして・・・」
姫の得意げな説明口調が途中からだんだん小さくなってきた。
「僕の認識とずれがなくって良かったよ。で、何が言いたいかもわかるよね、姫なら」
「な、な、何をおっしゃってるのか私には・・・」
あきらかに挙動不審な明滅を繰り返すオーブをさらに追い詰める。
「じゃあ、はっきり聞こう。管理と維持をするコアが「ドジっ子」てどういうこと!?」
「それは、その、彼女の個性であって、悪気があるわけでは・・・」
「あったら問題でしょう。あれ?まさか悪意をもってマスターの足をひっぱるコアもいるの?」
「失礼な!私たちはマスターを支える事に誇りを持ってお仕事してますわ!」
「じゃあ「ヤンデレ」も?」
「も、も、もちろんですわ。彼女は全身全霊、己の魂までも捧げてマスターに尽くしますですわ」
「うわあ、重いね。それでマスターがお気に入りの召喚モンスターでも呼ぼうものなら・・・」
「前線送りか、休息時間を削って重労働ですわね・・」
「「はああ・・・・」」
僕と姫のため息がなぜか重なった。
「次に監視と指示のオペレーターが「無口」でどうするの?」
「でも彼女は演算能力も高いし、処理速度もトップクラス、優秀なコアでしてよ」
「でも意思の疎通ができないからチェンジされちゃうと・・・」
「・・・・・・」
姫が他のコアのことを可愛がっているのはよくわかるんだ。でもこっちも人生かかってるから地雷を押し付けられても困るしね。嫌な予感しかしないけど残りの2人も聞いてみるかな。
「ところで「男の娘」は、まあ僕的には一人称が被りそうなので除外なんだけど、一部には愛好家もいるんじゃないのかな?」
「ですわよね!あの娘は努力家で、真面目ですし,なにより可愛いですし、それに・・」
はしゃぐ姫にポツリと質問する。
「なんでハードにいるんです?」
「あう・・・・・そのですね、あの娘はマスターとすぐ仲良くなれてですね、それで気安くなったマスターが下世話なジョークを振ってきてですわね、それを聞かされてウブなあの娘がパニックを起こして・・・」
「・・・コアの機能が停止してるあいだに冒険者に攻略されてしまうことが多く・・・」
「1回じゃないんかい!」
「はい・・」
これはどうしようもないね。自慢じゃないけど僕も可愛い「男の娘」が懸命に話しかけてきてくれたらセクハラすれすれのジョークを会話に挟むに違いないよ。
「鬼畜ですわね」
まずい、せっかく勝ち取った優位性が、本音が漏れて押し返されてる。
「ごほんげふん、さて、最後の「貴腐人」だけどこれ僕の脳内変換でこうなってるわけじゃないよね?」
「ええ、女伯爵とか男装の令嬢と呼ばれるコアはいますが「貴婦人」というコアはおりません。ハードで選択できるのは「貴腐人」ですわ」
「そんな爽やかに紹介されても嬉しくないんですけど、つまり「腐女子」の上級職ですよね?」
「あらよくご存知で。知識もキャリアも格上で、コアとしての能力は保証いたしますわ」
「その代わり、夏と冬は1ヶ月ずつ仕事ほったらかしで趣味に没頭するんですよね?」
「よくご存知ですこと・・・・」
「「・・・はあ・・・・・」」