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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第3章 オーク編
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リンゴはいかがかな?

 「ブウ隊長、第三小隊の偵察兵が目標らしき丘を発見したでブヒィ」

 「やっとか、待ちくたびれたぞ、ブヒィ」

 休憩をとりつつ周囲に斥侯を放った先遣隊は、湖の湖畔で彼らの報告を待っていた。

 「これより偉大なるドン・ヨーク男爵様の墓所を荒らした、エルフの討伐に向かう、ブヒィ」

 「「オークックックッ!」」


 湖からさほど離れていない場所に、その丘はあった。偵察兵が見つけたのは、最近掘られたと思われるトンネルの開口部だ。周囲に試し掘りの穴が幾つか残っているのは、墓所を探していた痕跡だろう。

 「地下への階段が続いております。見張りは見当たりませんブヒィ」

 「エルフ共が気づいてないなんてことはありえん。離れて監視してるか、墓所の奥に篭っているはずだブヒィ」

 そう言われて視力に自信のある隊員が周囲を見渡すが、丘の反対側に麦の自生地があるだけで、エルフの姿は見えない。まあ森の中でエルフを見つけるのは困難なので、気にするだけ無駄である。

 「第一小隊から順に2列縦隊で侵攻するブヒィ」

 「出口の確保はいかがしますか?ブヒ」

 「下手に残すと遠距離から矢で射殺されるから、全員で突入するブヒィ」

 「了解でありまブヒィ」


 地下への階段を降りていくと、途中の壁に横穴が開いていた。

 「ブウ隊長、横穴が開いていますブヒィ」

 「分岐か?ブヒィ」

 「いえ、状況から見て、盗掘用の通路かとブヒ」

 本当は意図せず掘った先に偶然遺跡があったのだが、古地図を頼りに墓を暴きにトンネルを掘り繋げたように見えなくもない。

 「ふむ、エルフ以外にも墓泥棒がいるかもなブヒィ。よし、第二小隊は横穴を探索、墓泥棒がいたら捕まえて奴隷にするブヒィ」

 「了解しまブヒィ」

 第二小隊の6名(小隊長を含む)が本体から分かれた。


 横穴に入った第二小隊は、すぐに作業場に入った。狭い(彼らからすれば)部屋には造りかけの土器が散乱していて、部屋の隅には窯もある。

 「どうやら亜人が住み着いてたようだブヒィ」

 第二小隊長が隊員に話しかける。

 「部屋の奥(彼らから見れば)に木製の扉がありますブヒ」

 「向こう側の状況はわかるか?ブヒィ」

 「静かで何かがいる気配はないですブヒ」

 「よし、注意しながら扉をあけろブヒ」

 ぎいいいいいーーーー

 木の扉が軋みながら開いた。そこはさらに狭い部屋で、何故か中央に果樹が生えていた。

 部屋を覗き込んだ隊員が報告する。

 「何もいません。果樹があるだけです、ブヒィ」

 警戒しながら小部屋に移動すると、今来た扉以外に前と左に2つ扉があり、右は通路が延びている。

 果樹には紅く熟れた果実が五個成っており、一つが地面に落ちていた。

 小隊の全員の視線が果実に集まっている。誰かの腹の虫が大きな音をたてた・・・

 「お前、その落ちている果実を食べてみろブヒィ」

 小隊長は、手近な隊員に毒見をさせようとしたが、命令された隊員は嬉しそうに果実を拾って、土を払うとかぶりついた。他の隊員も羨ましげに涎をたらしながら見ている。

 「シャリシャリ、問題ありませんブヒィ、シャリシャリ」

 食べ終わって満足げにゲップをする隊員の様子を確認して、小隊長も手近な果実をもぎとった。

 「いいか、お前ら、この果樹には何も成っていなかった。我々は何も見つけていない、ブヒィ」

 「「もちろんであります、ブヒ」」

 「食べて良し、ブヒィ」

 わっと果樹に群がって思い思いの果実をもぐと、我先にかぶりついた。そして・・・


 運の悪かった3名が毒に侵された。

 小隊長もそのうちの1人である。

 顔色は紫色になり、激しい腹痛と絶え間ない嘔吐で行動不能。さらに徐々にHPが減っていく。

 「ほ、本隊に合流する、ブゲェ」

 このまま本隊に戻れば、戦利品を無断で盗み食いしたことがばれる。最悪、降格の上に便所掃除一ヶ月だが、死ぬよりはましだ。小隊長は吐きながら指示をだした。

 元気な3人が、それぞれ一人を担いで戻ろうとするが、扉の前で何かを踏んだ感触とカチッという音がした。

 来るときは何もなかったはずの床から槍衾が突きあがり、同僚を背負って前屈みの隊員に容赦なく突き刺さった。

 「「オゴッ」」

 槍の何本かは防御力を貫き、確実に手傷を負わせた。さらに未探索の2つの扉が勢い良く開き、その陰からゴブリンらしき戦士が4体、襲い掛かって来た。

 「なんだ貴様らは!ブヒィ!」


 「隠密ゴブリン心得の條」  ザクッ

 「ギャギャ(武門の儀、あくまで陰に)」 グサッ

 「ギャギャ(我が命、我が物と思わず)」 ドスッ

 「ギャギャ(御下命いかにしても果たすべし)」 トストス

 「なお、死して屍拾うもの無し」 サクッ

 「「ギャギャ(死して屍拾うもの無し)」」 グサッグサッグサッ


 「おのれ卑怯な、口上の最中に切りかかってくるとはブヒィーー」


 アイスオークが戦闘体勢に入るには、背負った仲間を下ろして、腰に下げた戦斧を構える必要があった。

だが、隠密ゴブリン(自称)が正直にそれを待つはずもなく、しかも誰と問われて答えながらの乱暴狼藉である。

 結局、第二小隊は一合もやりあわずに全滅した。3人は毒死だったが。


 では何故こうなったか。少し時間を遡ってみよう。


 「チョビが来たっす」

 リンゴ部屋のワタリから連絡が入った。

 「チョビに癒しのリンゴを鑑定してもらって、1つだけもいで地面に転がしておいて」

 「ういっす」

 「それが済んだら、チョビはトンネルの出口にいるケンと合流して外の警戒を」

 「ん」 「バウ」

 「ワタリはちょっと危険だけど、アイスオークが来るまでは作業部屋への扉の前に立ってて欲しいんだ」

 「うえっ?槍衾の罠の上っすか?」

 「そう、もちろん眷属には作動しないから」

 「でもクーリングタイムが過ぎるまで、奴らにも反応しないっすよ」

 「それが狙いだからさ。直前に合図を送るから、そしたら他の扉の後ろに隠れて、奇襲の準備をよろしく」

 「了解っす」 


 どうやら毒リンゴ作戦はうまくいったようだね。食い意地の張ったオークなら、人数分あるリンゴはばれない様につまみ食いすると踏んだんだけど当りだった。小隊長が毒入りを食べたのは運だけど、最初の地面に落ちた奴は毒見させるだろうから、残り5個のうちの3個なら6割の確率だしね。

 槍衾の罠を作動休止にさせたのは、最初に発動してしまうと、警戒されて本隊に報告に行かれるのを防ぐためだ。できるだけ、ダンジョンであることは隠しておきたいからね。


 次は本隊だ。


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