銀の鍵、銀の扉
夢を見ていた・・・
砂漠で、一人で砂を掘っている夢を・・・
掘っても、掘っても、熱砂を吹き渡る砂塵が、新たな砂を運び込んで、せっかく掘ったダンジョンを埋めていく・・・掘っても、掘っても・・・・・・
「やってられるかーーーー」
自分の寝言で目が覚めた。
あたりを見回せば真っ暗闇で、手探りで荷物を探したら、何か丸い物が掴めた・・・じゃがいもだ・・
そっか、あの後、床に引くためにじゃがいもの袋を2つほど中身をだして敷いたんだっけ。
枕にしてた背負い袋から、松明と火打石を取り出すと、なんとか火を灯すのに成功した。部屋が食料で満載で、空間が狭いから酸欠が怖くて、寝る前に明かりを消したんだけど。いろいろ問題あるね、次は広い部屋でランタンはつけっぱなしにしよう。
さて無限地獄みたいな夢をみたけど原因は、この強烈な喉の渇きだと思う。水場に戻りたいけど、それには2回扉をあけることになるね。
ゴブリン複数体、ネズミ沢山、もしくは武装スケルトンかー。どれがましなんだろう?
数が増えないからやっぱりスケルトンが一番楽かな。ゴブリンは最後にしたいなー。ネズミは次は埋伏の計でいってみようかな。
僕は喉の渇きを我慢しながら、下準備を始めた・・・
よし準備完了。背負い袋に道具と3食分のお弁当を入れて、右手にスコップ、左手にずた袋に入れた新兵器を持って、いざ出陣!
今回の作戦の肝はスピードです。ネズミに追いつかれないように走れるかどうかで決まります。では。
食料庫である北西の角部屋の東の扉を引き開けると、向かいのネズミ独房の扉も確かめずにダッシュ!!
目標は水場である北東角部屋の西側の扉だ。ネズミはすぐに独房の東の扉からあふれだしてくる。ここで邪魔なズタ袋を廊下に置き去りにして、さらに加速する! 水場の扉をタックルする様に押し開けた。
うわ、2匹入ってきた!スコップで叩く、叩く、叩く。
何度か足に噛み付かれたけど、ブーツとバンテージが良い仕事してくれて怪我はしなかった。ネズミに噛まれると感染症が怖いからね。現状で病気とか完全に詰んでるから。
水がうめーー、水袋にも積めてっと。う、ずっしり重い。
水は1リットルで1kgだからなー。水が飲み放題だから、ここで朝飯にしちゃおう、朝か夜かわかんないけど。もしゃもしゃ・・・
さて食事も済んだし、スケルトンと1戦しますか。それで埋伏の計の結果もわかるしね。
フレイムランス(仮)は廊下に立てかけてあるんだけど、取りに行って火を着ける時間がないかもしれないから、ここは松明と油の瓶で戦おう。避けられたらランスまで走る、OK?
水場の南扉を開けて、スコップをストッパーにかまして、武装スケルトンを待つ。すると出てきたのはラウンドシールドを構えた古兵っぽい雰囲気のスケルトンだった。
「こいつただのスケルトンじゃなくなってない?ウォーリアーとかソルジャーとかついてそうなんですけど!」
今までのスケルトンとは違い、慎重な足運びでこちらの出方をうかがいながら間合いをつめてくる。たぶん、こいつだとフレイムランス(仮)じゃ勝てない、そう判断して右手の油瓶を投げつけた。
武装スケルトンは素早い反応で油瓶を盾で受けるが、その衝撃で瓶が割れて盾とスケルトンの足元に油が飛び散る。続けて火の着いた松明も投げつけると、これも盾で受けたが、盾と床の油に火が燃え移った。
「ちっちっちっ、燃えただろ」
決め台詞を放って勝ち誇る僕の前で、炎に身を焦がしながらスケルトンが剣で切りかかってきた!
「なんで死なないのーーあ、もう死んでるか、いやそうじゃなくて雑魚スケルトンなら即、燃え尽きてるでしょう!」
パニックになりながら逃げ惑う僕、追いかける炎の骸骨戦士。だがその逃走劇は骸骨戦士が力つきて崩れ落ちたところで終わった。
「はーはーはー、通常の3倍ぐらい強かったよあれ。指揮官専用機なら角つけておいて欲しいよ、まったく」
「はーはー、とにかくもうスケルトン独房はやばい、あれ以上強かったら勝てないよ」
何回目のリポップでランクアップしたか数えなおして、他の独房も3回を限界に定めよう。装備を回収してズタ袋を置き去りにした廊下まで戻ってみた。
そこにはズタ袋からはみ出した豚肉や黒パンをかじってピクピクしている6匹のジャイアントラットがいた。よしよし埋伏の毒はきいたみたいだ。野生動物はこういう毒物を察知する能力が高いから、ダメもとで試してみたんだけど、効果があってよかったよかった。
死にはしないと思うけどしばらくは腹痛で動けないだろうから、このままほっとこう。
え?毒なんてどこで手に入れたって?んーー良い子が真似するといけないから、わかる人にはわかるってことでよろしく。
さあ、コア探索も大詰めだ・・・大詰めだよね?行ってない部屋に下り階段があって、「ここは1階です」とか看板が立ってたらどうしよう?・・・不貞寝するしかないな。
どっちの独房を先に調べるかというと、南の方からだね。音がしないから、もしかしたら空っぽの可能性も・・・ないねー、ハードだしねー。でもどうせ開けるならこっちからだね。
扉の前でスコップ構えて、足元に明かり用の松明置いて、もう一度聞き耳たててみたけど、音はしないねー。それでは、おじゃましまーす。
予想に反してこの部屋は空っぽだった。大きさは9m四方で天井までは5mぐらいと、標準な造りで、床に魔方陣がある。
これから何かが湧いてくるのかと身構えたけど何もおきない。部屋の中を見回すと南の壁の中央に、怪しいレバーが突き出しているのが見えた。
「いやいや怪しすぎるでしょう」
思わずつぶやくけど誰も答えてはくれない・・・レバー以外は他の部屋と特に違うところはなく、床が妙にきれいなのが印象に残るぐらいだ・・・床がきれい?・・・
その瞬間、僕はスコップを頭に掲げて後ろに飛び退いた。一瞬遅く、スコップになにかが伸しかかってきた。あわててスコップごと部屋の中に投げ捨てる。
スコップには緑色の粘液状のモンスターがまとわりついていた。スライムだ!危なかった、音がしないわけだよ。
スライムに天井から奇襲をかけられて、頭を包み込まれたらソロだと詰みだ。 だけど気づいていれば対処はできる。僕は大活躍のフレイムスピア(仮)に炎を灯すと、スライムを焼き殺した。
スライムは1匹だったようで、慎重に独房の中を照らして探したが他にはいなかった。これ、数が増えるのかな?、それともバブルスライムとかに進化するんだろうか?見てみたい気もするけど、調子に乗ると墓穴を掘りそうだから、ここは我慢我慢。
側によって調べてみたけど、レバーはレバー。罠があるかも知れないし、コア探しには関係ないかも知れない。でも作動させてみるしか判断の方法がないんだよね。よし、レッツチャレンジ!
下に降ろせばいいみたいだから離れた場所から10フィート棒で作動させてみる。
ん?以外に重い。錆てるのかな?せえの!
ガチャンと音がしてレバーが下がった。すると遠くてギャリギャリギャリという鎖を巻き取るような音が響いてきた。慌てて音のする方に向かってみると、そこは最初の部屋で、ゆっくりと天井が元に戻っていく途中だったんだ。
やがてズンという振動音とともに天井が元に戻った。部屋の中には石の台と拾い残した松明が2本転がっているだけ。
「これ、中にまた入れってこと?」
すごい怖いんですけど。廊下から中を照らしてよくよくよく観察すると、石台の表面に小さな窪みがあり、その中に光を反射するものが挟まっているのが見えた。
「うわ、あれを取れってことだよね」
天井を見上げて、床を見下ろして、また天井を見上げて・・・そうか最初から匍匐前進しとけばいいのか。
なんとか石台の横まで来れました。ここから腕を伸ばしてひょいと光るものを掴んで戻ればミッションクリアです。ダンボールがなくても大丈夫なんです。別に宝を盗んだからといってまた天井が落ちてくると決まったわけでもないんです!
逝きます!
膝立ちになって石台の上を見ると、窪みに挟まっているのは銀色をした鍵のようだ。つまみ出すとどこかで「カチッ」という破滅の音がした。
「やっぱりこうなるよなーーーーー」
叫びながらうつ伏せになると同時に轟音を響かせて釣り天井が落ちてくる。
「天井の天丼とか、うまいこと言ったつもりかよーーー」
恐怖心を紛らわせるために意味不明のうわごとを唱える僕の頭上に槍衾が落ちてきて止まった・・・・
怪我はなかった・・・でも精神力が削られた・・・そろそろ疲労と寝不足で意識が朦朧とし始めてる今日この頃です、いかがお過ごしでしょうか?
でも銀の鍵が手に入った。寝てる間にやばいとこに通じる扉が開きそうな鍵だけど、きっとこれがコアに通じる扉を開けてくれるに違いないんだ。違ったら・・・・3日ぐらいショックで寝込むかも。
もう体力も限界に近いし、気力の方が先に尽きそうなかんじだし、たぶん最後の部屋だし。
ゴブリン独房はおびき出して、逃げ回ろう。目に付く廊下の先にネズミが食いかけた豚肉とか置いて、奴らが気をとられてるあいだに独房に忍び込んで調査だ。たぶん、戦ったら負ける。というかもうスコップを振り回す気力が残ってないよ。
装備をできるだけ軽くして、十字路にそれぞれ松明を灯して床に設置する。僕は松明持たないと暗くて走れないけど、その明かりを追われると作戦失敗だしね。
武器は松明と油瓶の残りが3本。いざとなったらこれで戦うしかない。
準備は終わった。あとはやるだけ・・・なんか最後が成り行き任せっていうのがすごく悔しいんだけど、ここらがソロの限界です。相棒プリーズ。脳筋でもいいです、というか今こそ脳筋が活躍する場面なのに。
いくぜ相棒、まかせろ相棒、脳内でサムズアップするとゴブリン独房の前の扉を押し開いた。
呼応して開く青銅の扉・・・中からは2体のゴブリンと思われる亜人が、棍棒を振りかざしながら独房から出てきた。
「よく考えたらゴブリンかどうかなんて鑑定できなきゃ判別つかないよねー」
でもきっとゴブリン、ていうかゴブリンであって欲しい。それ以上強い奴だったら勝てないし、武器もってるし。足はそんなに早くないのが救いです。
あ、1匹飯テロにかかった。もう1匹はまだ追ってくるな。
あれ?いつの間にか居ない。と思ったら突き当たりに置いた豚肉に引き寄せられてこっちに曲がらなかったのか。ラッキー、今のうちにぐるっと回ってゴブリン独房の中を拝見・・・
やはりありました。ゴブリン独房の西側の壁の中央に銀の扉が。
ざっと見回して注意書きとか書かれてないか確認した後、鍵穴を探して銀の鍵を差込ます。カチャリと小さな音がして、扉がゆっくりと奥へ開いていきました。その先はコノ字型をした廊下が続いていて、入れない南西の角部屋に通じているようです。
ゴブリンが戻ってこないうちに隠し通路を急いで進むと、南西の角部屋の中央に銀の円筒形の台座があり、その上に光り輝くオーブが置かれていました。
「ダンジョンコアだ・・・やっとたどりついた・・・・」
ふらふらと覚束ない足取りで銀の台座に近づくと、ゆっくりとオーブに手をのばす・・・
「なんてね、ハードモードがこんな簡単に終わるわけないよね」
僕は台座の周囲をぐるぐる回ると、何か危険な罠がないか観察し始めた。
「部屋の中には他にめぼしいものはないし、隠されてる様子もない。これがダミーで本物は別ってことはなさそうだね」
台座に文字が彫られている様子もないし、オーブの放つ光で天井に文字が映されてるわけでもない。
「となると、あとは接触型のトラップか」
ちょうど良さげなハンカチとかがないので、仕方なく背負い袋に紛れ込んでたじゃがいもの皮で代用する。ひょいと離れたい位置からオーブに向かって放るとうまい具合に天辺に乗っかった・・・・
「あれ?何もおきない??」
そう思ったとたんにオーブが点滅を始めて流暢な日本語をしゃべり始めた!しかもすこし怒っている様な女性の声で
「ダンジョンコアに接触を確認しました」
「え?」
「じゃがいもの皮をダンジョンマスターとして登録します!」
「ちょっと待ったあああああ」
「待ちません!じゃがいもの皮の生体情報を登録しますか?」
僕はその場で土下座をするとオーブにひたすら謝った。
「ごめんなさい、もうしません、ちゃんと磨いて綺麗にしますから許してください、お願いします」
「・・・・・・・いいでしょう。じゃがいもの皮の死亡を確認しました。マスター登録を初期化します」
あ、そこはちゃんとした手順を踏むんですね。
やっとコアを発見しました。次回からダンジョン製作です。