遺体の特徴から行方不明の・・
「影刃とは敵の死角から放つ黒い刃のことでござる。通常は囮となる攻撃に合わせて、見づらい影刃を隠して同時に攻撃するのでござるが、この度は隠密からの無防備な頭部への急所攻撃だったでござる」
ゾンビオークの意識が僕らに向いていたのも味方して、クリティカルな命中になったみたいだ。
ゾンビはクリットで頭部を破壊すると即死するのは、こちらの世界でもあるんだね。
とにかくワタリの起死回生の一撃が決まってよかったよ。
ただ・・・
「主殿、看守の部屋で牢屋の鍵らしき鍵束を見つけたでござる」
芸風は治ってないんだよね・・・
「ギャギャギャ(あんなのワタリさんらしくありません)」
なぜかアズサがプリプリ怒っていた。
「ギャギャ?(ワタリらしさって?)」
「ギャギョギョ、ギャ(もっとこう下っ端感が滲み出てて)」
酷い言われ方をしてる気がするけど、いつもみたいにワタリが通訳してくれないので、ゴブリン北方語の細かいニュアンスまでは汲み取れないや。話題の本人は気にもかけずに周囲の警戒をしている。
うーん、有能になったのは間違いないんだけど、ボケ役がいなくなるのは問題だね。あとアズサがモーニングハンマーを引きずって、ワタリの背後に忍び寄ろうとしているから止めておく。ショック療法で治るかどうかは五分五分だから。
そうだ、ワタリとアサマは怪我してるんだから、癒しのリンゴをあげないと。1個ずつ配って、最後の1個は念のために取っておこう。
看守の部屋は9mx6mx3mの小部屋で、兵士休息所と同じ大きさだった。この部屋を1人で占領してたんだから、オークとはいえ、ここの所有者には優遇されていたようだ。ただし私物の様なものは一切なく、壁にモーニングスターを掛けてあったウェポンラックが付いていただけだった。
この部屋で見つかった鍵束は、青銅でできた鍵が8個、鉄の輪にまとめてある。鍵はそれぞれ形状が微妙に違っているけど、数字や文字は彫られていない。片っ端から試してみるしかないのか。
3個目が覗き窓のある扉の鍵だった。
ゆっくりまわすと、さび付いた錠が軋みをあげて抵抗するが、やがてガチャンという音をたててロックがはずれた。
「さて、鬼がでるか蛇が出るか」
シナノがゆっくりと扉を押し開けた。
そこはまさに地下牢と呼ぶのに相応しい造りだった。
3mx6mx3mの通路に、3m置きに両側に鉄格子で閉ざされた牢屋が並んでいる。廊下の突き当たりも鉄格子で、その奥も牢屋になっている。
7つある牢のうち3箇所には、元の囚人が、手枷足枷をつけたまま白骨化していた。
話しかけてみたが、ただのしかばねのようだ・・・
「キュ」
戻ろうとしかけたときに親方が鳴いた。
咄嗟に振り向くと、左奥の牢屋でカタッという小さな物音がしたような気がする。
全員でその牢屋の前まで行くと、あきらかに白骨死体の姿勢が変わっているのに気がついた。
「さっき、足は組んでなかったよね?」
僕の問いかけに、その白骨死体は、やけに白い歯を見せながらニヤリと笑った。
「慣れヌ真似はスるものではないナ。武人ガ死んだ振りナどしても亜人ノ目さえ欺ケん」
声帯もないはずなのに、はっきりと共通語をしゃべっている。少し発音やアクセントに違和感があるのは、古い時代の言葉だからかも知れない。
「ドうした、とうとう私ノ順番が回ってきタということダろう。たトえ貴様の主がドんな仕打ちをシテこようとも、私ノ尊厳を踏ミにじることなドできヤしなイのだ」
うーん、どうしようかこの人。すごく面倒な性格してそうだよね。
「ギャギャ(ほっときましょう)」
「それでもいいかな」
僕らは見なかったことにして立ち去ろうとした。
「待テ!また放置プレイのツもりか。こんな生殺しヲいつまで続けルつもりだ!」
聞こえない聞こえない。
「どうせなら一思いに、クッ、殺せ!」
「くっ殺さん、きたーー」
「ギャギャ(もう死んでますけどね)」
鍵束を試すと6個目で鉄格子にある扉の錠が開いた。手枷、足枷の錠も同じ鍵ではずすことができた。
半信半疑だった囚われ人も、手枷を外し終わる頃には、僕らが外から来た冒険者だと納得してくれた。
長い間、枷をつけられていた為に痛むのか、手首(の骨)をさすりながら囚人は話をしてくれた。
「まずは助けてくれたことに礼を言わせてくれ。私は「静かなる冬の樹々」に所属する騎士で、名をロザリオという。家名は我が恥辱を晴らすまで、伏せさせていただく」
「そのクラン名だと、もしかしてエルフなの?」
「もちろんだとも。この特徴的な耳を見て、わからなかったのかな?」
いえ、耳ないんですけど・・・
「我がクランは、恒常的にハイランド・オークの帝国と紛争状態にあったのだが、偶発戦闘で捕虜となった同胞の奪還に、この地域の領主であるヨーク豚男爵の隠し拠点に単騎乗り込んだのだが・・・」
「返り討ちにあったと」
「まさか廊下の真ん中に落とし穴を作るとは、卑怯なオークに似つかわしい狡さよ」
「でもまんまと引っかかったわけですよね」
「クッ」
「それで助けに来たはずなのに一緒に囚われて、放置されていたと」
「ククッ」
「しかも関係ない僕らの事をオークの手先だと思って、虚勢を張ってみたと」
「クッ、殺せ!殺してくれー」
黒歴史をつつかれて、ロザリオ(骨)は身もだえしていた。
「ギャギャ(マスターが黒い)」
「ギャギャギョ(落とし穴を狡いと言われてカチンときたんだよ)」
「ギャ(なるほど)」
くっ殺さん弄りは程々にして、そろそろ所有者の顔を拝みにいこう。
「ロザリオはどうする?」
「許可してもらえるなら、同道してヨーク豚男爵に借りを返したいのだが」
「僕の指示に従ってくれるなら良いよ」
「感謝する」
しばらく話しをしているうちに、ロザリオの古典訛りにも慣れてきて普通に会話できるようになった。
「武器を貸してもらえないだろうか」
「得意は?」
「ロングソードかロングボウだ」
「なるほど、エルフだね。だけど今はどちらも手元にないね」
「ならば何でも構わない。使えないわけではないからな」
「さすが騎士様だね」
予備の石槍を手渡した。
「ふっ、オークに囚われた女騎士だがな」
ちょっと苛めすぎたらしい。




