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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第3章 オーク編
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光りあるところに

 拷問部屋の広さは9mx9mx3mで、左側に3mの廊下が伸びて行き止まりに青銅の片扉がある。右側は壁の中央に同じく青銅の片扉があるけど、それにはチュートリアルダンジョンで見た覗き窓がついていた。

 部屋の中には足の踏み場もないぐらいに、忌まわしい拷問器具が並べられている。壁には拷問用の鞭や焼き鏝が掛けられ、床の中央には炉が据え付けてある。

 この部屋の器具や道具だけが、古びていながらもその形を今も留めているのが、不気味でさえあった。

 「なんすか、ここ」

 「ここの所有者の暴かれたくない趣味の部屋かな」

 「狂ってるっすよ」

 「だろうね。この部屋だけ風化してないのは、犠牲者の怨念なのか、所有者の妄執なのか・・・」

 「ギャギャギャ(なんか寒気が)」

 「眺めてても気分良いものじゃないし、持って帰る気にもならないし、先へいこう」

 「了解っす」


 まず右側の覗き窓付扉から調べてみる。罠の探知をしてから、アサマがそっと覗き蓋を開けて隣を覗く。

 「ギャギャギャ(牢獄の様です。せまい通路に鉄格子が幾つか見えます)」

 ところが青銅の扉を開けようとしたが、開かなかった。

 「ギャギャ(鍵がかかってます)」

 青銅の扉は、あちこちがサビついてはいるが、壊すのは難しそうだ。

 鍵開けの技能を持ってるメンバーもいないし、素人が錠前破りの七つ道具も無しに成功するわけもないので、あきらめて左側に向かう。

 

 「こっちは鍵がかかってないといいっすね」

 ワタリが無造作に左手の青銅の扉に近づいた瞬間、背負い袋の親方が何かを察知した。

 「キュッキューー!」

 「ワタリ、戻って!」

 僕の叫びと、青銅の扉が轟音をたてて開くのは同時だった。


 ドゴオーン   「ぎゃ」  ビターーン


 ワタリは、力任せに蹴り開けられた扉と壁に挟まれて動かなくなった。扉の隙間から緑色の血が、ポタッ、ポタッと床に垂れている。

 「ワタリ!」

 声を掛けるが返事はない。ダメか・・・

 その向こうから、土気色の肌をした豚頭の亜人が、巨大なモーニングスターを構えながら、ゆっくりと近づいてくる。

 「オークのゾンビ?それにしてはデカ過ぎないか?」

 僕の知ってるオークは身長180cmぐらいで、こんな3mの天井に頭が届きそうな巨体じゃないんだけど。

 「ギャギャギャ(アイスオークでもこんなに巨大じゃありません)」

 どうやら変異種か改造種らしいね。それがさらにゾンビ化してるとなるとやっかいだ。

 「一度、引こう。階段まで釣れば支援が受けられるから」

 「ギャギャ(でもワタリさんが)」

 確かに、釣りが失敗したらワタリの生還は絶望的になるね。

 「あの状況で、生きてると思う?」

 「ギャ(はい)」

 「信じてるんだ」

 「ギャギャ(しぶとさだけは)」

 「いい答えだ。ここで迎撃するよ!」

 「「ギャギャバウ!(了解!)」」


 「ケンチームは回避主体で奴の足止め、コマンド部隊は遠距離から投槍で」

 「バウ」 「ギャギャ」

 本当はチーフ戦のときの三つ巴陣形で戦いたいんだけど、拷問器具が邪魔でできない。その代わり、奴の攻撃からの盾代わりにできるのでプラスマイナスゼロだ。

 ケン達の威嚇に注意がそれているゾンビオークに向かって、投槍が3本一斉に飛んだ。

 だが、その全てを身体に受けてもゾンビオークは平然としている。

 「ギャギャギャ(効かないのか?)」

 「いや、ダメージは入っていると思う。けど防御力が思ったより高いし、HPもゾンビだから多いはず」

 身体から槍を生やしたまま、ゾンビオークがモーニングスターを叩きつける。

 ケンは素早く回避したが、身代わりになったアイアンメイデンが信じられない速度で吹き飛んできた。


 「あぶない!」 「ギャギャ」

 鉄の棺桶を避け損ねて、アサマが肩に直撃を受けて横倒しになった。

 反撃でリュウとガイルが足首に噛み付くが、防御力に阻まれて効いていない。

 煩い狼を狙ってゾンビオークが武器を振りかぶると、ケンが一声吼えた。それを聞いた2頭は素早く相手の後ろに回りこむ。振り下ろされたモーニングスターは空を切って床に激突した。

 

 僕は背負い袋からランタン用の油を2本取り出すと、近くに居たシナノに1本渡してタイミングを計る。

それを見たアズサが武器を松明に持ち替えた。

 「くらえ!」 「ギャギャ!」

 的が大きいので、狙い違わず奴に直撃して、上半身に油を撒き散らした。

 「アズサ!」

 「ギャギャギャ(ワタリさんの仇!)」

 「ギャ(え?)」

 「ギャギャギャ(うそうそ、これはワタリさんの分!)」

 「いや、それも死んでるよね」

 「ギャ(てへ)」


 とにかくアズサの投げた松明は、ゾンビオークを火達磨にした。

 「炎の攻撃なら防御力無視で入るし、低級アンデッドには良く効くはずだ」

 見れば、あれだけ槍や牙の攻撃をくらっても平気な様子だったゾンビオークが、炎に巻かれた今は苦しげに暴れまわっている。

 このまま焼け落ちるかと見守っていると、奴は狂乱して巨大モーニングスターをめちゃくちゃに振り回した。

 「うわっ」 「「ギャー」」

 身長3m弱の巨体が、全長3m強のモーニングスターを振り回すと、狭い拷問部屋には逃げ場がなかった。拷問器具を盾にしても、バキバキと壊されてしまう。このままだと奴が燃え尽きるより先に、誰かが轢き殺されてしまうかも知れない・・・


 絶体絶命の窮地の最中に、青銅の扉がゆっくりと元に戻っていることに誰も気がつかなかった。

 そこには鼻血を滴らせながら片手で扉にぶら下がり、片手で黒曜石のナイフを握る影がいた。

   キュピーン

 謎の擬音とともに、黒光りする刃が宙を走り、ゾンビオークの後頭部に突き刺さった。

 ゾンビオークは仁王立ちのまま痙攣すると、その場でゆっくりと崩れ落ちていく。

 

 「忍法 影刃かげばでござる」

 頭を打ったワタリは芸風が変わっていた・・・

 

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