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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第3章 オーク編
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何かで磨いたような白骨が転がる

 長い、長い、永遠とも思える時を経て、今一度この世界と接点をもった遺跡の階段は、壁を崩して侵入した土の塊に覆われていた。僕らが照らした松明の明かりに驚いて、真っ白いコオロギが飛び跳ねて逃げていく。

 そしてそれを親方が追いかけようとする・・・

 首根っこをつかまえて、背負い袋に詰め直し、迂闊な行動を取らない様に厳重に注意した。

 「キュキュ」

 振り上げる手は勢いがいいけど、本当に理解してるのかな?

 「ん~」

 コアも懐疑的らしい。

 階段の直前までは僕らが掘ったんぼで、現在はコアの領域下になっている。問題はここから先だね。

 「コア、階段は領域にできる?」

 「・・・んん」

 「やっぱりダメか」

 「どういうことっすか?」

 ワタリが意味がわからないようで聞いてきた。


 「この遺跡が完全な廃墟なら、奥はまだしも目の前の階段はコアが領域化できてもいいはずなんだよね」

 「というと?」

 「この遺跡には所有権を主張する何かがいるってこと。それが生者か亡者かわからないけどね」

 「千年も埋まってたんすよ。生きてはいないと思うっす」

 「いや、出入り口がここだけとは限らないし、そもそもダンジョンマスターだったらなんでもありだしね」

 「ですかね」


 「コアはアップルチームとここで待機してて。それ以上階段に入るとリンクが切れてしまうから」

 「・・・ぶぅ?」

 「うん、心配しなくても危ないことはしないよ。もし手強いモンスターがいたらここまで釣ってくるから、そのときはよろしくね」

 「あぃ」 「ギャギャ」

 コア達と別れて、探検隊メンバーの9人で先へ進む。


 すべらないように、足元の土を掻き分けながら、階段をゆっくり降りていく。

 やがて目の前に観音開きの石の扉が現れた。いわゆるダブルドア(両扉)で、シンプルな文様が刻み込まれていた。

 「紋章や聖印の類はないね」

 「よくある石の両扉っすね」

 「誰か罠感知できる?」

 コマンド部隊がお互いに顔を見合すけど、誰も名乗りを上げなかった。

 「じゃあ誰が一番器用?」

 そう尋ねると皆の視線がアサマに集中した。

 「ギャギャ(やってみます)」

 アサマは扉をじっくり眺めたあとで、そっと触ったり軽く叩いたりしたあとに振り向いて言った。

 「ギャ(問題なさそうです)」


 よし、先に進もうかな。シナノとアサマが片方ずつ押し開けようと力をこめる。

 「ギャギャギャ(ぐぐぐ)」

 古い扉は蝶番がゆがんでいるのか、なかなか開こうとしない。

 「「ギャギィギョ(せいのっ!)」」

 ワタリとアズサがそれぞれに手を貸して、やっとの思いで押し開けることに成功した。

 扉の奥は普通サイズの石造りの部屋になっていて、よどんだ空気が流れだしてきた。

 「中はそんなに荒れてないっすねー」

 密閉されていたのが良かったのか、確かに部屋の中は埃が積もっているぐらいで、状態を保っているように見える。

 9mx9mx3mの四角い部屋の奥にはもう一つ両扉があり、床には元はサイドテーブルや椅子であったはずの木材の残骸が転がっている。壁にはタペストリーと思われる布の痕跡だけが、黒っぽいシミとなって両脇を飾っている。


 「なるほど、地下墓地とか古墳じゃなくて、何かが生活していたのか」

 「何かってなんすか?」

 「まだわからないよ。人か、亜人か、魔族かもしれないし」

 「おっかないのは勘弁っす」

 「そうは言っても、こちらの都合で先住者が決まるわけじゃないし」

 「優しいスノーゴブリンの賢者とか、どうっすか?」

 「あると思う?」

 静に暮らすために地下深くに石造りの住居をこっそり建てて、石工と大工を完成式の宴で毒殺して門の前に埋める優しい賢者・・・

 「ないっすね」


 部屋の中を手分けして調べてみたけど、特に目ぼしいものは見つからなかった。

 奥の両扉は、最初と同じ石造りで、外見もほぼ同じようだ。アサマに罠を探ってもらったけど、それらしいものもない。ただ、この扉はゆがみがないのか、一人でも力を込めれば開くことができた。

 その先は十字路の通路になっていて、正面にやはり両扉が見える。

 「左右を覗いてくるっす」

 「ちょっと待って」

 先を急ぐワタリを止めて、交差点の床をアサマに調べてもらう。

 「ギャギャギャ(何かありますね)」

 「落とし穴かな?」

 「ギャギョギャッギャ(だと思いますが、踏むと落ちるタイプではないです)」

 「罠3タイプかな?奥の両扉にうかつに触れるとパカっと」

 「それだと触った奴には効かないっすよ?」

 「後続と分断目的?確かにあの床が通れなくなると、侵入部隊は困るだろうね」

 落とし穴の床を斜めに跨いでアサマは罠の探知を続けている。左右は6mほど先で両方とも扉で終わってるらしい。こっちの扉は片扉だそうだ。

 奥の通路と両扉をじっくり見るアサマが何か見つけた。

 「ギャギャ(壁に槍穴が)」

 「よくわかるね?」

 「寝床がなくて槍衾の罠の上でも寝てたっすから」

 「ごめん・・」

 皆にいろいろ苦労をかけてたらしい。


 正面の両扉に触ると交差点の落とし穴が作動して中衛を処理する。それと同時に両扉の前の廊下に槍衾で前衛を倒す。だとすると残った後衛を処理するために、右か左の部屋から兵士がでてくるかんじかな。

 「じゃあ、先に右の通路をいってみよう」

 「了解っす」


 念のために右の片扉も調べてもらったけど、不審なところはなかった。アサマも本職じゃないから手探り状態なので、妄信するのは危険なんだけど、他に適任者もいないしね。まあ、見落として発動したら、一度もどって対策をとろう。

 右の片扉をシナノがそっと押し開けると、そこは9mx9mx3mの部屋で、左右に3mだけ廊下が突き出していて、その先の両方に片扉ある。

 そして床には兵士の白骨死体が3体ころがっていた。

 予想通り、ここが兵士の待機場所だったようだ。死体は鎖帷子にコイフ(円錐形の兜)を被り、円形の盾と金属の剣を手にしている。武具はどれも劣化していてサビでボロボロだ。問題は・・・

 「動くかな?」

 「動きそうっすね」

 「ギャギャ(いまピクっと動きました)」


 「先手必勝で!」

 「「ギャギャ(はい!)」」 「「バウ!」」

 不意打ちを掛けるために死体に偽装していたスケルトンに、こちらから奇襲を加える。ケンチームとコマンド部隊がそれぞれ集中攻撃した2体は、瞬時にバラバラになった。

 最後の1体だけ立ち上がって、剣と盾を構えることができたけど、数の暴力で押し切った。こちらに被害はまったくでなかった。

 「完勝っす」


 ただ、スケルトンに対して槍が効きづらいのが判明したので、コマンド部隊は武器を松明に変更することにした。

 スケルトンの武具は戦闘中でも打撃をうける度に、壊れていき、床に落下するだけで半壊してしまったので、放置しておく。


 「しかしスケルトンかあ」

 「アンデッドだったっすね」

 「無念の兵士が死してなお、って感じじゃないよね、あれ」

 「ギャギャギャ(死んだ真似してました)」

 「誰かに操られているっぽいね。ダンジョンマスターか、ネクロマンサーあたりかな」

 「ダンジョンにしては埃っぽいっす」

 確かにかなりほったらかしにしてあった様子だよね。そういう偽装だとしても、入り口が塞がってるのに廃墟の偽装って意味ないような・・・


 この場で考えても答えはでなかったので、もう少し探索を進めてみよう。

 この部屋の右の片扉を調べて開ける。するとそこは9mx6mx3mの少し狭い部屋に通じていた。

 部屋の両側には3段ベッドがそれぞれあり、いまも片側の3段には白骨死体が眠っている。いや眠っていた。

 扉の開く音で目覚めたのか、慌ててベッドから置きだして部屋の奥に立てかけられた装備を取りに向かう白骨死体達・・・あ、1人躓つまずいて転んだ。

 「やっちゃって」

 「ういっす」 「バウ」

 鎧も盾もないスケルトンは、足の骨を齧りとるケンチームと、無防備な背中を松明で叩くコマンド部隊に、あっという間に蹂躙されてしまった。

 「ここの支配者の意図が読めないよ」

 スケルトンの兵士に睡眠はいらないだろうに。単に昔の習慣を再現してるだけなのかな。

 「脳みそまで腐ってやがるっすかね」

 「早過ぎたんだ」

 「ギャギャギャ(この場合は遅すぎたんだと)」

 「「ですよね」」

 

 

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