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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第2章 女帝編
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飲んでも飲まれるな

 針葉樹林の奥深くに点在する湖沼群は、大小合わせて100を少し越えるという。その中で、広さで数えれば53番目、深さで数えると57番目という平均的な湖がある。

 名前は特についていない。地元の猟師でさえも、なかなかそこまで足を運ばない僻地であるし、幾つもある湖にそれぞれ名称をつける意味もない。ただ、その湖の周辺を縄張りにしている亜人達は、勝手に「ヘラジカの湖」とか「ニジマスのいる池」とか呼んでいるようだ。それさえも、他の部族には認識されていない俗称である。

 その、どこにでもある湖のそばに、小さな丘がある。

 それはどこにでもある丘だったはずなのだが、現在は周辺から一目置かれており、共通認識として呼び名も付けられている。

 曰く、「ライ麦の生い茂る丘」と・・・


 僕はダンジョンの出口を隠すように麦穂を実らせたライ麦畑を見渡してつぶやいた。

 「やってしまった」

 「った」

 「やっちまったっすねぇ」


 話は少し遡る・・・


 「それでわ、私は戻りますわ。皆様ごきげんよう。そして良いダンジョンライフを!」

 「さようなら、「姫」またいつか」 「ばぃ」


 「姫」は審判の役目を終えると、銀色の羽毛を撒き散らして、仕事場へと戻っていった。

 僕らはコアルームでダンジョンバトル祝勝会と慰労会を始めたんだけど、なぜかそこにマリアが我が物顔で居座っていた。

 「なによ、あたしは客よ。ちゃんと2時間分の料金は払ってあるんだから」

 ああ、あのモフモフサービスは有効だったんだね。この分ならDPも払ってくれそうだし、まあいいか。 お腹が空いているだろうメンバーの為に、虹鱒の炉辺焼きとヘラジカのステーキを変換した。マリアは当然のように両方ともお替りして食べていたけどね。

 「振舞われてばかりだと心苦しいので。こちらからも何か出そう。飲み物で良いかな?」

 良識派のボンさんがそういって紙コップに入ったビールやウーロン茶を変換してくれた。良い人だ。


 始めて飲むビールに、興味深々のスノーゴブリン達だったが、あっというまに気に入ってグビグビ飲みだした。そんなに気に入ったなら分解して・・・

 「ちょっと待った。あんたそれリストに載せたらDPもらうわよ」

 モフりに気をとられていたはずのマリアから鋭い叱責が飛ぶ。

 「え?いくら?」

 「そうね、醸造品はアンコモン扱いだから、相場で1000DPね」

 「高!」

 「あんたの価値観ではそうでも、ダンジョンマスター間の取引では安い方なの」

 「そうなんですか?ボンさん」

 「ああ、変換リストにない生産品などの取引値段は、最低でも1000からだね。なにせ一度リスト化できれば、あとは幾らでも変換できるから、種子1粒、酒類1滴でもその額になる」

 「ちょっと、なんでボンに聞くわけ?あたしがボッタクリでもするっていうの?」

 「あー、やんぼー・まーぼー縦回転で」

 「そんなことでこのあたしが誤魔化せるとでも・・・ちょっと、何これ、癒されるんだけど」

 どうやら釣られてくれたらしいね。

 その後はボンさんに幾つか注意する点を教わった。


 その1、この辺りにも猟師や冒険者は来るらしい。数は少ないけど、ダンジョン、それも出来たばかりだと知られるとやっかいなので気をつける。

 その2、ダンジョンマスターの中にはカルマが低くて、その返済の為にさらに悪辣な手段に訴えてくる輩も存在する。ごり押しのバトルや、変換リスト商品の押し売りには注意する。もし困ったら即座にコールセンターに通報すること。

 その3、コアルームは、やっぱり奥に作った方が良い。知能のある亜人の戦闘部隊だと、外からいきなり広範囲攻撃呪文を打ち込んでくることもある。


 そうこうするうちに2時間が経過して、ボンさんが帰り支度を始めた。けれどすでにアルコールの入った女帝は絶好調だった。

 「延長よ!1時間60DPで良かったわよね」

 「おい、長居は迷惑だろ。帰るぞ」

 「なによ、あたしはまだ癒され足りないの。ボンはそこの石器人と話ししてればいいじゃない」

 「誰が石器人だって?」

 「あんたよ、あんた。竪穴式住居に石の槍使ってる立派な石器人でしょ?石器人が嫌なら縄文人?」

 「せめて弥生人ぐらいにしておいて欲しいね」

 「だって農耕の一つもやってないじゃない。狩猟・採集しかやらないなら弥生は名乗れないわよ」

 「ぐぐぐ」

 「悔しかったら畑の一つも作ってみなさい」


 悔しいけど、今、農作物でリストにあるのはじゃが芋しかない。せめて米か麦をつくらないとマリアを言い負かすことが、できそうにない。

 「るぅ」

 それまで静かだったコアがぽわぽわと浮き上がって何か言った。言った内容よりも、薄っすら紅くなっているのが気になるんだけど、もしかしてビール飲んだ?そして酔っ払ってる?

 「よぉ~」

 酔ってる人は皆そう言うんだよね。誰だ、コアにアルコール飲ませたやつは。あそこでビール片手に土下座してる奴か。

 「っぷ!」

 コアが高らかに宣言すると、白い光りに包まれた。あ、これレベルアップだ。DPが1000を越えたからレベルアップの条件をクリアしたんだね。

 「~ん??」

 コアが機能の習得の許可をとりにきたよ。酔っ払ってるけど大丈夫なのかなー。

 「ぶぅ~」

 酔っ払いの「大丈夫~」ほど危なっかしいものはないよね。でもまあ選択肢は「拡張」しかないだろうからOKで。

 「えぃ!」

 え?いま「えぃ」って言った?僕は承認してないけど何かでちゃったよ?


 「あーー、ダンジョンコアにはマスターの不在中にダンジョンの防衛の為に自己判断で「召喚」や「設置」ができる機能があるんだ。この防衛の適用範囲はかなりあいまいで、基準を設定しておかないと、かなりの事が独断でできる・・・」

 「ボンさん、早く教えてくださいよ」

 「いや、彼女がこんなにしゃべるのも、楽しげなのも始めてなのでね。水を差すのに躊躇した、すまん」 ボンさんは以前のコアを知っているらしい。そして今の様子を好意的に感じているようだ。

 「君は彼女にとって得がたいマスターだったようだね」

 「そんな言い方されたら、止められないじゃないですか」

 「どうせ君は止めないだろ?」

 「ですね」


 そして、崖側の出口の先に、ライ麦畑が出現した。


 「キャッチャー・イン・ザ・ライ・・・それって500DPのやつじゃ・・しかも2面分も?」

 「うん♪」

 「うわ、賞金全額つぎ込んだのか。大胆だな」

 「あはは、やるわね!それでこそ江戸っ子よ!気に入ったわ、あんたの名前覚えておいてあげる」

 ご機嫌の江戸っ子女帝は浅葱の羽織の袂を奇妙に膨らませながら立ち上がった。

 「ボン、帰るわよ。お勘定はお願いね」

 袂がもぞもぞ動いて、中から「ギューギュー」という鳴き声が小さく聞こえた。

 「お客さん」

 「なによ、この店はアフターは無いの?店長を呼んでよ」

 「僕が店長ですけど、うちはお持ち帰りはやってないんですよ」

 「ちっ!」

 羽織の袂を破って、まーぼーが逃げ出してきた。

 「おいマスター、眷属の拉致・誘拐とかしゃれにならんぞ」

 「じゃあいいわよ、あたし、ここに住むわ!」

 「・・・ボンさん・・・」

 「いろいろ、すまん」

 「ん♪」  

DPの推移

現在値: 1492 DP

変換:虹鱒の炉辺焼き -15

変換:ヘラジカのステーキ -25

設置罠:キャッチャー・イン・ザ・ライx2 -1000

残り 452 DP

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