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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第2章 女帝編
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奥義vs忍法

 マリア陣営


 「敵1体を排除、角部屋を占有した。継続して侵攻中。角部屋に守備要員を配置するか?」

 「いらないわ、もう状況は最終局面だから。あっちもわざわざ空き部屋を踏みには来ないでしょう」

 「了解した、マスター」


 「それより本陣の護りを固めるわよ。ゴブシロウにビビって鉄砲玉を送り込んでくるだろうから」

 「まあ、主力を引きつけておいての、迂回攻撃は戦略の基本だしな」


 「ボン、残りのDPを全部使ってゴブリン・カスタムを召喚して。追加技能は回避と受けで。装備は鉄の短槍と硬革の盾・鎧にして」

 「了解した。召喚できるのは7体だが、コアルームに召喚していいか?」

 「いいわ、どっちから来るかわからないから、ここを固めておいて」

 「了解した、マスター」


 「あとはゴブシロウが無双するのを待つだけね」

 「だといいがな」

 「なによ、まだ相手に奥の手でもあるっていうの?」

 「いや、ないはずだ。俺の演算でもこちらの勝ちは揺るがない。だが、何か嫌な予感がする・・・」


 「ボンの予感は当たったためしが無いから、逆にあたしは安心したわ。もっとも侍マスターのゴブシロウにガチャで当てた妖剣と怨鎧を装備させてるのよ。倒し方があったら教えて欲しいくらいよ」

 「あれ、危なくないのか?」

 「侍しか扱えないし、怨敵がでてきたら暴走するかもしれないけど、ここだと有り得ないわね」

 「なら大丈夫か・・・」


 「だいたい心配症なのよ、ボンは」

 「マスターの代わりに不測の事態に備えるのもダンジョンコアの役目だからな」

 「それ、あたしが能天気の考えなしって言いたいわけ?」

 「めっそうもない、おっと、敵の侵攻部隊が来たみたいだぞ」

 「ふん、まあいいわ、後でゆっくり言い訳を聞かせてもらうから」

 「・・・苦しい戦いになりそうだ」



 ルーム8では、味方のスノーゴブリン・チーフと敵方の侍マスターが戦っている。

 いや、戦いにはなっていない。一方的に侍マスターが攻撃しているだけだ。


 最初の一撃でチーフの左腕が切り落とされてしまった。槍を両手に持てなくなったチーフは、攻撃を完全にあきらめて、柵と落とし穴をカバーにして防御に徹している。


 「初撃で勝負がついているというのに、悪あがきする愚か者と思ったが、お主の目は濁っておらん。どうやら主君の為に時を稼ぐ算段らしい」

 「ギャギャ(だったらなんだ)」

 侍マスターが刀を鞘に納めて、腰だめに構えを変えた。


 「その忠義に敬意を表して、我が奥義にて葬ってしんぜよう。御鰤流奥義「壁抜け」」

 キンッ と鍔鳴りがして、虚空に太刀筋が一閃した。


  ゲハッ チーフが口から血を流しながら倒れていく。侍マスターとの間に挟んでいた木の柵には傷一つついて・・・ついていた。太刀筋と同じところからスッパリ切り裂かれて2つになっていた。

 「・・ギャギャギョ(何が壁抜けだ、ただ柵ごと切っただけ・・)」  ドサッ

 「拙者も未だ未熟者故、許せ」

 侍マスターはチーフを退けて先へ進んでいった。


 「あう」

 「ルーム8も突破されたね。アップル達も防戦に徹しだした相手に苦戦しているみたいだし、これは間に合わないかな・・」

 「んん!」

 悲観的な予測をする僕を、コアが叱咤する。


 「ギャギャ!(まだ私たちがいます!)」

 「ピンチはいつものことっすよ」

 皆はまだ諦めていない・・・アップルチームも傷だらけになりながら前進している。弱気になってるのは僕だけらしい。


 「そうだね、諦めるのは最後の1DPが尽きてからだ。コア、76と通路を扉1で遮って」

 「ん!」

 「奴はすぐに来る。皆、配置について。コアは76に罠3-4を設置、起動は扉1で」

 「ん!」  「「ギャギャー!(ラジャー!)」」

 可能性は0じゃない。ダメージで倒せない敵でも、無力化すれば勝機があるはず。



 全員が配置についた直後に木の扉が蹴り開けられた。


 刀を八双に構える侍マスターの視界には、部屋の中央の床に土下座するワタリの姿があった。


 「命乞いか?」

 訝しげに尋ねる侍マスターに、3方向から槍が殺到し、足元には扉に触れたために発動した深い落とし穴が口を開けていた。


 「奥義「旋風斬」!」

 妖刀が弧を描き、必殺の三位一体攻撃を切り崩す。

 その余勢を駆って、落とし穴を跳び越そうとする瞬間を狙って指示を出した。

 「コア、スキャン!」  「ん!」


 土下座するワタリを唐竹割りにしようと宙に飛んだ侍マスターに、光りの輪が一瞬だけ視界を塞いだ。

 「ここっす!」

 土下座の姿勢から一足飛びにジャンプしたワタリが、後ろ腰から引き抜いた黒曜石のナイフで切りかかる。

 「変移抜刀霞斬りっす!」


 「愚かな、土下座しておるから腰の小刀が丸見えじゃ。奥義「交差法」」

 ナイフを弾いて、カウンターでワタリの首を切り落とすはずの刀が、空を切った。

 「変移するのはおいらっす!」

 

 空中で無理やり体勢を変えたワタリは、侍の足にしがみつくと、もろともに奈落の底に落ちていった。

 「稲妻落しっすーーーー」   グチャ


 深い落とし穴は底まで6mある。重い鎧を着た侍なら登ってこれないはず。

 

 「そう思うのも無理はあるまい」

 穴の底から浮かび上がってきた鎧武者が声をかけてきた。両肩には青白い人魂が浮かんでおり、呪われた鎧から禍々しい気配が漂ってくる。


 「本家なら生首を抱えて飛びまわれたらしいが、拙者の鎧は浮かぶのが精一杯。だがこうして井戸に落ちたときなどには役に立つ」

 コアルームに倒れ伏す4人の眷属を見おろすと、侍マスターは厳かに宣言した。

 「御主の負けを認めよ」



 僕は大きく息を吸って答えた。

 「勝ったのは僕らだ」


 「笑止!こちらの本陣はまだ落ちておらぬ。こうして御主の本陣が占有された以上、こちらの・・・」

 そこで侍マスターは違和感に気づく。


 「待て、拙者がこの部屋で倒した相手は3人のはず。4人目はまだ穴の底。だが死体はここに4体ある?」

 その声とともにルーム1から駆けつけて死体の振りをしていたスノーゴブリンがゆっくりと起き上がった。

 「おのれ姑息なまねを!だが雑兵なぞ一瞬で切り倒してくれる」


 殺意を顕に刀を振りかぶる侍に、どこからか声が掛けられた。

「マリア陣営のレギュレーション違反を確認。規定により強制排除いたしますわ」


 「なんだと!」

 侍の身体の周囲に銀色の羽毛が舞い散ると、その姿はコアルームから消えうせた。


 しばらくするとアップルチームがゴブリンカスタムを全滅させたらしく、ルーム3が占有されて決着がついた。

 僕らの勝利だった・・・




 「ちょっとまった、そんなんで納得できるわけないでしょ!」

 案の定、マリアがクレームをつけてきたね。つけないわけないよね。


 「なんであたしがルール違反したことにされてるの?ゴブシロウを勝手に退場させて、無理やり勝たせるとか、完全に八百長じゃない。どういうことよ!」

 「ですから、私こと「姫」が私情でダンジョンバトルに手心を加えたりいたしませんわ」

 「じゃあ、ちゃんと説明しなさいよ」


 「よろしいですわ、これが決着が着く直前にスキャンされたゴブシロウ選手のデータですわ」

 「はあ?ゴブシロウのスキャンデータ?あ、ゴブシロウ、ランクあがったんだ。もしかして侍ロードに成った?」


 「御意」

 「とうとうやったわね、侍マスターから侍ロードまでずいぶんかかったもんね。これから侍にしてロード、つまりブシロー「そんなことよりゴブシロウ選手の種族名をみてくださいな」ドって人の話に割り込むとかありえない」

 「まったく、種族名?そんなの亜人に決まって・・・あらここも変わったんだ、鬼人かーーなかなかカッコいい・・あれ?」

 そうダンジョンバトル中にランクのあがった侍のデータは、


 オリエンタル・オーガー・サムライロード:東方大鬼 侍領主  種族:鬼人


 に変わっていたんだ。日本の鬼は小鬼が歳を経て大鬼に変化する。そして大鬼はもうゴブリンではなくオーガー扱いに変わった。だからゴブリンウォーズには参加できない。


 「よってダンジョンバトル規則17条補則11-A項に基づき、ゴブシロウ選手は退場処分といたしました。何かご不満がありまして?」

 「ぐぬぬぬ」


 「やられたな、まさか時間かせぎで眷属をけし掛けているように見せかけて、ゴブシロウに経験点を積み込んでいたとは」

 「ボンは黙ってなさいよ」

 「そうもいかんだろう、うちのマスターがバトルの結果を承認しないと終われないんだからな」

 「ぐぬぬぬぬ」


 僕らの気配がコアルームに戻ってきたのを感じたのか、ケン達がぞろぞろと入ってきた。それを見たマリアが急にそわそわし始める。

 「いいわ、今回は負けを認めてあげる。でも次はこうはいかないわよ!」

 そう宣言すると、ケンとチョビを両脇に抱えてモフり始めた。


 「「姫」に質問。またマリアに勝負を挑まれたら受けなきゃいけないの?」

 「 一度勝負をしたら、お互いに1年の間はバトルを拒否することができましてよ。そうしないと負けが込んだダンジョンマスターの元に鮫のように群がるマスター達がいるので」

 「うわ、怖!」

 「とにかくこれで貴方の勝利が決まりましたわ。おめでとうございます」

 「ありがとう!」

 「姫」の祝福が素直に嬉しかった。


 「まずは委託金の返還ですが、このうち委員会がお貸しした600DPは回収させていただきますので、返却は400になります」

 「はい」 「ぁい」

 「さらに賞金として1000DPが授与されます」

 「やったー」 「たぁー」


 「それとバトルフィールドで召喚した眷属のうち、経験点を得た者は通常コストを払うことにより回収できますが、いかがいたします?」

 「えっと、最初から召喚してあってフィールドに呼んだ皆はどうなるんでしょう?」

 「彼らは特にコストを払うことなく戻ってきます。フィールド内で得た経験値もそのままですわ」

 「よかった。じゃあ回収できるメンバーは全部してください」

 「とはいえ、その中で戦闘に勝利したことのある選手はシナノ選手だけですわね」

 あとの皆は戦闘しなかったり、侍ロードに敗北しただけだったね。僕らの勝ちは彼らの犠牲があっての結果なのだけど、今は感謝することしかできないのか。


 フィールドに召喚したメンバーと一緒にシナノが帰還して、コアルームは戦勝ムードが漂った。

 その中で、負けたはずのマリアが一番はしゃいでいたのは、ここだけの秘密にしておこう。

 そして、ごねる彼女の機嫌を取る為に、部屋にモフモフを呼んだ方が良いと、こっそり助言してくれたボンさんに感謝を!



 「ちょっと、もう2時間たったの?延長よ延長!」

 「何よ、あたしは客よ。お客様は神様なのよ」

 「なんでアフターできないのよ、店長呼んでよ」

 「あたし、ここに住むわ!」


 「・・・ボンさん・・・」

 「すまん」


DPの推移(バトル内)

残存値 27 DP

設置:丈夫な木の扉 -5

設置罠:触ると深い落とし穴 -20

スキャン:x1 -1

残り 1 DP


マリア陣営

残存値:88 DP

召喚:ゴブリン(カスタム)x7 -84

残り 4 DP


バトル後のDP

現在値:2 DP

委託金返却:+400

賞金:+1000

召喚:スノーゴブリン・コマンド(シナノ) -90

サービス料:+120 (領収書宛名 マリア様)

サービス料:+60 1時間延長料金

残り 1492 DP


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