伝説の道具
ダンジョンマスターへの道は遠く険しい・・・なんでだろう?
北東の角部屋で水源を見つけた僕は、右腕の火傷を冷やしていた。
ずっと松明握っていたからね。あれって割と火の粉が飛ぶんだよ。アドレナリンが体内で、どばどば生成されてるときは無視できても、冷静になってくるとズキズキした痛みがぶり返してきた。そして喉の渇きが癒されると、次は空腹感が飢餓一歩手前まで押し寄せてくる。つまり・・・
「お腹減った」
というわけで次は食料を求めて探索開始です。途中でコア見つけたら拾っておくから心配しないで。
さて、食料が置いてありそうなのは北西角か南東角部屋なんだけど、南東の方が安全かな?
東の独房はスケルトンで確定だろうし、松明あればそんなに怖くないからね。北の独房はネズミだろうけど数が不明なんで一斉に襲い掛かられると、この紙装甲だとヤバイよね。ではさっそく。
ああ、そういえばこの北東部屋の木製扉は内側に取っ手がついていて、中からも開けられるよ。
それで思い出した。これ中から開けると向かい側の青銅扉はどうなるんだろう?
また新しいスケルトンが湧くのかな?1体倒せばその独房は安全とか、ハードモードだとありえないか。無限湧きだな、多分。せめてリポップタイムがあるといいけど・・・
水場の部屋の南の扉をそうっと開けて、さっき遺骨の散らばった廊下をうかがってみると・・・・よかった骨はまだ廊下に残ってるね。でも青銅の扉も開いているね。松明の明かりが独房の真ん中あたりまで照らしていて中が見える。
中央の床に召喚用らしき魔方陣が銀色の金属で彫刻されてる。あれがきっとリポップ用のジェネレーターなんだろう。簡単には壊せないように石の床に溝を彫ってエンチャントした金属を溶かし込んであるみたいだ。
独房の中に何か重要なものがないか角度を変えてのぞこうとしているとき、足元の骨が黒い煙となって蒸発していったのに気がついた。慌てて魔方陣を見ると、その中心に黒い霧が渦巻き始め、瞬く間にスケルトンを形作っていく。しかも今度のスケルトンは、その右手に剣を握り締めていた。
「あ、やばい、倒すほど強くなっていくタイプだ!」
僕は急いで廊下にでると十字路へ向かって走りだした。奴が独房から出る前に扉が閉まる事を期待したけど、閉じかけた扉に左手をすべりこませて重い青銅の扉をこじ開けてきた。
その時には僕は廊下の十字路を2つ曲がって、南東の角部屋の北側でタイミングを計っていた。奴が最初の十字路を南に曲がったころあいに、木製扉をちょっとだけ押して身体を南東の角部屋にすべりこませた。呼応して東独房の南青銅扉も開いたけど、さすがに2体目のスケルトンはいなかった。
この部屋に飛び込んだのは、剣を持ったスケルトンへの対策を考える時間稼ぎがしたかっただけで、他に安全に開けられる扉がなかったから。でも偶然にもこの選択は間違ってなかったみたいだ。ここは道具部屋だったんだ。
部屋の広さは水場と一緒で、東と南の壁には3mの高さの棚があり、多種多様な冒険に役立ちそうな道具が並んでいた。
南東の隅には受け具がついていたので、そこに松明を差し込むと、急いで物色する。勇者でもないのに人様の物を漁っていいのかって?これは緊急避難なんです、雪山の山小屋に置いてあるものは遭難者は自由にしてOKなんですよ。ええ、あとでちゃんと対価を払いますとも、受け取る管理者に出会えたらですけどね!
バックパック見っけ。水袋、大事です、3つ入れましょう。ランタンと燃料油まであるじゃないですか。
油6本、取り過ぎ?いっちゃえいっちゃえ。これなんぞ?革紐?バンテージなのかな?
あ、手足に巻くんだ、あるだけ入れよう、5本か。
これは、伝説の10フィート棒!これで勝つる!!
火打石と火口に、あ、松明の予備見っけ。1ダースあるけどこれは重さと相談だな。箱に入ってるから廊下に押し出しとくか。そうだそうしよう。
なぜか鶴嘴・・やはり壁を掘るのか?無理無理。
なんとスコップ!幻の万能武器きたーー両手武器だから松明もてないや、しょぼーん。
毛布かー欲しいけど持ち歩くには嵩張るなー。おっと陰からブーツ発見!サイズは少し大きいけど履けないことはないね。あとは・・・
うかれて荷物を漁る僕はすっかり奴の事を忘れていた。突然、部屋の北側の扉がガツンと大きな音を立てた。何かが扉を開けようと重いものを叩きつけているみたいだ・・・いったい何が・・・
ってさっきのスケルトンしかいないよね、やべえ、すっかり忘れていたよ。
物欲って恐ろしいね。でも値段を無視して冒険の装備選べるといったら誰でも時間を忘れるよね?
え?そんなことない?僕だけ?いやいやいや・・・バキョン!バキョン!やばい本気で壊しにきてるよ。
一度背負い袋に詰め込んだ革紐を一つつかみ出すと、予備の松明を箱から引き抜き、10フィート棒の先にきつく縛りつける。一度大きく振ってすっぽ抜けないことを確認したら、壁に挿した松明から火を移す。即席の火属性槍だ。
慎重に扉に近づき、取っ手を握り締めると、力一杯引き開けた。
目の前には剣を振りかざすスケルトンが立ちふさがっている。
急いで飛び退ると奴との距離をとる。もしかしてモンスターは角部屋には侵入できないかもと期待したが、あっさり中に入ってきた。ハードだなー
剣を構えているだけなのに、最初の素手スケより威圧感が数倍に感じられる。
身体が勝手に、切られたときの痛みに怯えて萎縮する。あのまま松明を棍棒代わりに近接戦闘を仕掛けていたら、リーチの差で負けていたと思う。だから勝機を得るために一か八か未知の部屋に忍び込んだのだ。そして今、10フィート棒の新たな伝説が始まる!
「くらえ!フレイムスピア(仮)!」
アウトレンジから何度か松明を押し付けると、やがてスケルトンは崩れ落ちた。
「勝った!」
なぜか脳内で「卑怯な」とか「せこ」とかブーイングが聞こえるが、勝てば官軍なのだ。
床に骨と一緒に落下した剣を回収しようとした瞬間、それも黒い霧となって消えてしまった。
「モンスターの装備は回収不可かー、良い物でてくるまでねばるのもありかと思ったけど、そう旨くは行かないか」
養殖はあきらめて装備の拡充にもどった。床置きできる松明用の燭台が見つかったので、予備を灯して壁の古いのは消した。火事になると怖いからね。
そのあとは松明の入った箱とスコップを、えっちら扉の前まで移動して、北の扉を開けると同時にストッパーとして挟んだ。向かいの独房でスケルトン3号がリポップしたけど、フレイムスピア(仮)で撃退、ちなみに今度のはヘルムをかぶってた。これ盾持ちがでてくると本格的にやばいね。そろそろ他の独房にもチャレンジしよう。次は北西角だ。
北西角の部屋に入るには北独房か西独房の囚人と戦う必要があるんだけど、まあここは順当にネズミ退治といきましょう。
角部屋と北独房の間の廊下にランタン用の油を撒いて、右手にスコップ左手に松明を持ちます。少しきついですが肩で角部屋の扉を押し開けて素早く中に入り、スコップを挟んでストッパー。
北の独房からネズミがでてきたところで・・って、でかっ!ネズミでかっ!! うおー4匹もきたよ、しかも押し負ける、、、ていっ!着火、燃えろーー
ふはははは火計にかかりよったな。風下に軍を配置したのがお主の失策よ!あ、やべ扉に燃え移りそう。消火ー消火ー。
延焼は最低限で食い止めました。扉の下半分が少し焦げたけど・・・まあね、いいよね。
しかしジャイアントラットは4匹かー、次のリポップどうなるんだろう?やっぱ倍の8匹かな?鼠算ていうもんねー。
火計つかえば楽なんだけど、延焼が怖いしなー。あと酸欠もなにげに危険だしね。とっととコア見つけないと色々不味くなってきたよ。え?食料はどうしたって?あったよ、この部屋に。ずらっと3年分ぐらい・・・・年単位でかかるのかなーここから出るのに・・・・
ただいま絶賛料理中・・・落ち込んでたらお腹が鳴りました。まずは腹ごしらえといたしましょう。
食料は黒パン、豚肉の塩漬け、じゃがいも、キャベツの酢漬けです。
ドイツか?これを用意したのはドイツ人なのか?しかもじゃがいもは生のまま、袋のいくつかは芽がでてるのもある。皮を剥くナイフもないので芋はあきらめました。まあやろうと思えば火打石の角で削り落とすことはできるんだけどね。どんな石器時代なんだよ。
黒パンに豚肉とキャベツ挟んで、いただきます・・・・・ちょっと塩辛いけど食べれなくはないね・・・猛烈に喉が渇くけどね。
さてお腹も膨れたし、少し眠ります。扉には豚肉の入った樽とかじゃがいもの入ったずた袋をバリケードにして、最低限の安全を確保して・・・おやすみなさい・・・
あ、毛布忘れた。
コアまで辿りつけませんでした。あと1話かかります。