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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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まずは挨拶代わり

長い間、更新が滞っていて申し訳ありませんでした。

漸く仕事の山場を越えられたので、再開してまいります。

 そして刻は今に戻る・・・


 コアルームを半分ほど水没させた湖水の中で、気泡に包まれながら、幽霊メイドの手当てを受けるスカーレット/クラークの肉体は、小康状態を保っていた。


 「・・戦況はどうなっておる・・」

 『善戦していますが・・』

 水上では大蛙に搭乗したビビアンとバーサーカーが、黄砂の王の注意を引き付ける事に成功しているが、苛立った相手が、高位呪文を連発するようになったので、防戦一方になっている。

 先程も、枯渇系の呪文で、ごっそりと湖水が削られていた。防護膜としても、認識攪乱膜としても重要な湖水が無くなると、かなり拙い事になる・・


 「水があれば良いのじゃな・・」

 そうスカーレットが呟くと、コアルームの床から、大量の真水が湧き出て、水位が元に戻った。

 『オババ様、無理をするとお体に障ります・・』

 「なに、水を変換しただけじゃ・・身体を動かすことが出来ぬ以上、これぐらいは貢献せぬとな・・」

 自嘲ぎみに薄く笑うスカーレットであったが、実際に呪いの悪影響は強く、目を開けているのも困難はほどであった。エルマのアンチエイジングを受けると、一瞬だけ楽になるが、その効果もジワジワと打ち消されてしまう・・

 エルマの魔力にも限界がある以上、このままではやがてクラークの肉体は朽ち果てる・・


 『予備の棺はないのですか?・・』

 「・・宝物庫の中にあるが、出している余裕がないのう・・」

 年に一度のメンテナンスの時に、棺も整備するように心がけていた。異常が発見されたときの予備は、宝物庫の奥に大切に保管してあったが、取り出すのに時間がかかる。


 「どちらにしろ、奴が居座っていては、刻騙しの秘術を掛けるのも無理じゃろうて・・」

 呪いの進行を遅らせる為の術を使うには、スカーレットが術者適性のある眷属に憑依しなおして、ナイトシェードを使った秘薬を調合する必要があった。敵性勢力が侵攻している最中に出来ることではない・・


 『招かれざるお客様には、お帰り願いましょう・・』

 「言うのは簡単じゃが、向こうは家を乗っ取る気で押しかけてきた、悪徳金貸しみたいなもんじゃぞ・・どう追い返す・・」

 スカーレットの質問に、エルマは落ち着いて答えた。


 『大丈夫です、頼りになる用心棒を連れてきましたから・・』




 オババのコアルームに繋がる通路では、ルカとノヴォの水精霊夫婦が、精神を削りながら水をコントロールしていた・・


 「なんだ?水量が急に増えたぞ?」

 「これは・・真水ですね・・純度が高いから、ダンジョンの変換機能で生み出したのでしょう・・エルマはオババ殿の救助に成功したようですね・・」

 「なら、湖水に混ぜ込んで使っていいんだな。正直助かるぜ」

 「ええ、運んで来た湖水はもうないですからね・・」


 ここまで移動手段として使用していた地下水は、コアルーム内部に突入させた分で、ほとんど無くなっていた。予備も先程の枯渇呪文で、ごっそり削られたのを補填したために、空っぽである。

 ルカならば、クリエート・ウォーターで湧き出させる事も可能ではあったが、その間は水のコントロールが出来なくなる。しかもすでに残存魔力は1/4を切っている。水を出していたら、それを動かすことができそうもなかった。

 それから言えば、この補給は有り難い。

 あとは、戦力が整えば・・


 そう思ったルカの耳に、息を切らしながら走ってくる仲間達の足音が聞こえてきた。

 「どうやら間に合ったようですね~」

 横でノヴォも頷いた。

 「今度はこっちの番ってわけだ」

 水精霊の夫婦が、さらに気を引き締めて、湖水のコントロールを始めた・・・



 ルカとノヴォが援護する中で、ビビアンとバーサーカーは、薄氷を踏む思いで黄砂の王の呪文攻撃を回避し続けていた。


 「ちょこまかと逃げ回る鼠共が・・さっさと朽ち果てるがよい!」

 黄砂の王の両手から禍々しい気配を放つ、黒い光線が解き放たれると、それぞれがビビアンとバーサーカーに襲いかかる・・


 「ネガティブ・レイ!(暗黒光線)しかも同時に二発も!」

 「・・詠唱が速い・・」

 得意の火炎系呪文が効かずに、防御一辺倒になっていた二人であるが、黄砂の王の詠唱阻害もままならないほど、押されていた。

 兎に角、水中に避難もしくは天井や壁に張り付いて、連続して撃って来る高速詠唱の中位呪文を避けまくる・・


 「せめて範囲呪文なら割り込めるのに・・」

 「・・敵も警戒している・・」

 初撃は隙をつかれたが、2度目の高位範囲呪文は妨害できた。ダメージは入らなくても、相手の集中を乱す方法はあるからである。

 ところが、それに対して、黄砂の王は、呪文を中位に下げて、高速詠唱可能なタイプに絞る事で対応してきた。それが先程のネガティブ・レイである。

 対象の精気を奪う闇系単体攻撃魔法は、大蛙なら2発、ビビアンでも3発受ければ衰弱死する危険な呪文である。直接にダメージを与えるタイプではないので、ヒーリングポーションで治すこともできない・・


 しかも同時に2発も撃って来るので、片方が囮になって、反撃することも難しかった。

 片方に2発撃たれたときは、逃げ損なって、バーサーカーが搭乗していた大蛙が1発浴びてしまったのである。

 安全を考えれば、大蛙を交代させたいところであるが、ビビアンが一人になれば集中砲火をうける・・


 「・・すまない・・頑張ってくれ・・」

 「ケロケロ!」

 衰弱して辛いであろう大蛙が、健気に元気良く返事をしてきた。


 「そっちは下がっていいわよ!」

 「・・それは出来ない・・」

 「次に受けたらヤバイでしょ!」

 「・・2発同時なら同じだ・・」

 お互いに相手を心配する二人だったが、そこに隙が出来た・・

 集中力が持たなかったのかも知れない・・


 「・・獲った!」

 黄砂の王が、ネガティブ・ボルトを2本まとめてビビアンに放ってきた。


 「両方こっち?!」

 「・・ちっ・・」

 不意をつかれたビビアンの回避が一瞬遅れた・・

 バーサーカーが割り込もうとするが、距離が離れている・・


 そこへ、ルカから援護が入った。

 ビビアンの目の前の水面が急激に盛り上がり、水の盾と化した・・


 「・・笑止・・貫け・・」

 瞬間的に作られた水の盾は薄い・・黄砂の王の放ったネガティブ・ボルトは、多少、勢いを削がれたが、そのままビビアンに襲いかかった・・



 だが、その2本の漆黒の雷は、水の盾の後ろにかざされた、本当の盾によって防がれていた・・

 「えっ?スタッチ??」

 「よお、ビビアン、相棒でなくて悪かったな」

 そこには、水中に潜んだ大蛙から、舌を使って射出されたスタッチが、灰色に光る円形の盾を構えて、ビビアンを護っていた・・・


 「・・新手か・・だが、なぜワシのネガティブ・ボルトを受けて平然としておる・・」

 「さあて、なんでだろうね・・しかし本当に包帯男なんだな、あんた」

 「下郎が・・」

 あんた呼ばわりが気に障ったのか、黄砂の王がスタッチを睨みつける・・


 「雑魚が幾ら湧いてでようとも、ワシに逆らうことは出来ぬ!!」

 そう叫んで、黄砂の王は高位呪文の詠唱に入る・・

 ビビアンとバーサーカーは、すぐさま妨害用の低位呪文を唱え始めるが、スタッチだけは悠然としていた・・


 「雑魚を甘く見ると痛い目みるぜ」



 その瞬間、黄砂の王の背後に水柱が立ち上がり、それと同時に、包帯に巻かれた右腕がボトリと水中に落下した。


 「グオオオオオ」


 初めて、黄砂の王が苦痛に叫び声をあげたのだ・・


 「脳天を狙ったのに、ギリギリでずらされたさね・・まあ、腕一本は挨拶代わりってとこかね」


 そこには、蛇矛を構えて水上に立つ、ソニアの姿があった・・・





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