空に向けてダイブ!
「ガボガボッ(相棒、こりゃ、無茶苦茶だぜ)」
「ガガボッ(余所見していると、振り落とされるぞ・・)」
スタッチとハスキーは、激しい水流の中を、アイスドレイクの背中に掴まりながら運ばれていた。
呼吸は、ルカと名乗った水の精霊が付与してくれた呪文で、水中でも問題ないが、地下通路なのか地下水路なのかわからない狭い道を、高速で流されていくのは恐怖であった・・
「ガボガボ(ギャギャ『右前方に落石!』)」
「ガボッ(左に避けろ、ジャー)」
「「シャーシャー!」」
通路といっても、太さも違えば、崩れた岩なども転がっており、その度に隊形を調節する必要もあった。
目の良いゴブリンチームが斥侯となり、前方の障害を指揮官のベニジャに伝える事で、次々に現れる難所を潜り抜けていく・・
「いくらルートが限られてるとは言え、こんな危険だとは聞いてねえぜ・・」
「コアちゃんが選んだのだから、他に選択支がないんです、きっと。文句ばかり言ってないで、しっかり水流をコントロールしなさい!」
「わかってるって、そんなに怒るなよ・・ちゃんとやってるだろ?俺も・・」
「・・今のとこはですけどね・・」
隊列の最後尾で、アイスドレイクに乗った精霊の夫婦が、水中でも普通に会話をしていた。
さすが、腐っても水の精霊である・・
「オペレーション・スプラッシュ・マウンテン」とは、地下通路を、水泡で包んだ部隊を高速の水流で押し流すという作戦である。
夫のノヴォが水流を操作し、妻のルカが水泡を維持する。
移動する水泡の中に、水流を操作するノヴォが取り込まれているので、MPと集中力が維持される限り、どこまでも進めるはずである・・・理論的には・・
問題は、地下通路に障害物があると、衝突の危険がある事と、水流を維持するのに大量の水と、それが流れる通路が必要な所にあった。
部隊を包んでいるのは、水の塊なので、岩などに衝突すれば壊れてしまう。
勿論、すぐに再構成出来るが、中にいるメンバーに衝撃が伝わったり、悪くすれば岩に激突する事もある。それを回避するために、絶えず位置を変える必要があった。
さらに、目的のコアルームに到達するには、大空洞の天井に開いた、エンシェント・フロストワームの抜け穴を辿る必要があった。
大空洞を水泡のまま登ることは事実上不可能なので、他のルートを使って高度を稼ぐ・・
「ガガボッ!(ギャギャ『前方に開口部!』)」
「ガボッ!(大空洞に出るぜ、ビビるなよ!ジャーー)」
「あんた!」
「任せろ!!」
ルカが、部隊を包む水泡から、余分な水を切り捨てて、限界まで重量を減らした。
ノヴォが、ここまで運んで来た水流を、さらに加速させて、斜め上を向いた通路から、水泡を打ち出すように押し流した・・
「ガボガボッ!(馬鹿野郎!落ちたら死ぬ高さだぞ)」
「ガボッ(まずい、ギリギリ届かないぞ・・)」
スタッチは、足元に広がる大空洞の深さに怯え、ハスキーは、前方上方のワームの抜け穴を見据えていた。
「ガボッ!!(モンモンチーム、出番だぜ、ジャー!!)」
「「ケロケロ!!」」
前方に展開していた大蛙4体が、一斉に水泡を突き破って、舌を伸ばした。
4本の舌は、大洞窟の天井に張り付くと、無理矢理に水泡の軌道を変えた。
「ガボボッ!(ルカ!頼んだぜ、ジャジャ!)」
「はい、はーい」
水泡の先端が、ワームの抜け穴の壁面に接触すると、ルカが、水泡の水を操作して、内部のメンバーを引き上げる事に成功した・・
「ちょっと、急に吐き出さないでよね」
「危うく、水泡から弾き出されるところだったさね・・」
大蛙の口に搭乗していたビビアンとソニアは、快適なシートから放り出されて、文句を言っていた。
アイスドレイクにしがみ付いて、振り回されていたメンバーと違い、口内に人を乗せて運ぶのに慣れた、大蛙潜水艇は、揺れも少なく、乗り心地は悪くないらしい・・
ただし、シートベルトの代わりの舌を自由に動かすには、搭乗者を吐き出す必要があった。
「こっちは死ぬ思いだったんだぜ・・」
「まあ、無事に着いたので、良しとしよう・・」
スタッチは愚痴を零すが、ハスキーは、全員が無事に目的の抜け穴まで辿り着けた事を喜んだ。
「ルカ、水泡はまた造れるのか?ジャー」
「皆を囲むと、移動する為の水流は造れないかもです~」
抜け穴にも、若干だが湖水が溜まっているが、メンバー全員を運ぶには水量が足りない・・
「ここからは1本道なのだろ?先発部隊だけ水流で送って、残りは走れば良い・・」
「だな、俺ももうあれは勘弁だぜ・・」
ハスキーとスタッチが、あぶれたメンバーは走れば良いと提案した。
「そうね、纏まっていると、範囲攻撃呪文で被害が出すぎるかも・・ここは二手に別れるべきね」
ビビアンの意見に殆どのメンバーが頷いた。
残った水量から、水泡に入れるのは大蛙2体ほどである。
アイスドレイクに乗った精霊夫婦は必須なので、それ以外の容量は少なかった。
敵が蟲使いであることを考慮して、先発隊は火炎魔法の専門家が選抜された。
ビビアンとバーサーカーである・・
「行ってくるわね」
「ああ、俺たちも直ぐに追いつく・・」
大蛙の口内に乗り込むビビアンを、ハスキーが心配そうに見つめていた。
「・・ビビアンは護る・・」
「そうか、頼んだぞ・・」
そんなハスキーにバーサーカーが声を掛けた。
見かけは2mを超える巨体だが、その実はソーサラーである・・どう護る気なのかは疑問だったが、それでもハスキーはバーサーカーに託した。
「ルカ、二人を送り込んだら、オババの確保を頼んだぜ、ジャー」
「はい、はーい、やってみますよ~」
「準備いいか?なら出すぜ」
ノヴォの掛け声で、再び水泡が形成され、残った水に押し流されるように移動していった・・
「さあ、こっちも走るぜ、ジャー!」
「「 おう!! 」」
「「シャーシャー!」」
「「ケロロ!!」」
後続部隊も、一斉に走り始めた・・・コアルームに向けて・・・




