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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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不死の王

  凍結湖ダンジョンコアルームにて


 にらみ合いを続けていた黄砂の王とオババであったが、先に痺れを切らしたのは、黄砂の王であった。


 「どうやっても我が物にならぬなら、望通りに、そこの死に損ないと一緒に、葬ってやる・・」

 その言葉と共に、黒足長蜂に操られたオーガー達が、棍棒を振りかざしながら襲い掛かってきた。

 しかし、キャスターもアーチャーも、エイシャント・フロストワームの威嚇音の呪縛から逃れる事が出来なかった。


 「カタカタ(畜生・・なんとかならねえのかよ)」

 「カタ(駄目だ・・呪文もスキルも発動できない・・)」


 硬直した二人を無視して、僕に成り下がったオーガーが、マスターの棺とダンジョンコアの台座へと近づいていく・・


  

 『どうしても戦うというのであれば、こちらも一矢報いる覚悟でやらせてもらうぞ・・時間稼ぎは十分すんだのじゃからな!』

 オババの叫びと共に、コアルームの床が無数の魔法陣で埋め尽くされた。


 「何!お前の処理能力で、この数の召喚ができるわけが!! くそっ、エイシャント・フロストワーム、ブレスの準備だ!」

 「ギシャアアアーーー」

 黄砂の王の指示で、古代凍結巨大蟲が、鎌首をもたげて息を吸い込んだ。

 しかし、床を埋め尽くすほどの魔法陣が消えると、そこには2体の氷の巨人が出現しただけであった。


 「フロスト・ジャイアントが2体だけだと! 他の魔法陣は目晦ましか!」

 

 オババの演算能力では、眷属の召喚は同時に複数は難しい。だが、召喚魔法陣が一つでは、召喚時の無防備な状態を狙われ易い。その為に囮の魔法陣をマルチ・スキャンで発動させたのだ。

 そして、2体同時に召喚したように見えるが、実は片方は宝物庫の中に先に召喚し、転送したのである。


 転送にはタイムラグが発生する。それに合わせて、もう1体を召喚することにより、同時に2体をコアルームに出現させる事に成功した。

 ではなぜ宝物庫に先に召喚したのか・・その答えは、片方の巨人が握り締めた、大量の杖が表していた。


 『3番、12番、受け取れ!』

 巨人は、無造作にスタッフやロッドを放り投げてきた。

 ブレスの構えに移行したために、威嚇音は途切れていた。身体の自由を取り戻した二人は、降ってくる大量のスタッフの直撃を避けながら、目当ての杖を探して、それぞれ手に取った。


 「オババ様、よろしいのですか?!」

 キャスターは、一度しか見たことのないような、強力な加護を秘めたスタッフを手にとると、オババに尋ねた。たいていのスタッフには使用回数制限があり、使い切ってしまえば、ただの木の棒になってしまう。


 『構わん!今、使わずして何時つかうんじゃ!』

 「だよな!出し惜しみは無しでいくぜ、いいよな!」

 『いや、12番、お主は自重せいよ・・』

 「俺だけ、なんでだよ!」

 『いや、お主が無理矢理マジックアイテムを使うと、暴発するじゃろ・・』

 「大丈夫だって、起動に失敗するかもしれねえけど、めったに暴発はしないからよ」


 高レベルのローグの能力に、他のクラスしか使えないマジックアイテムを、認証を騙して起動させるという技がある。術者しか使用できないはずのスタッフを、アーチャーが振りかざしている理由でもあった。

 しかし常に成功するとは限らず、さらに運が悪ければ、発動しようとした術が暴発する危険も存在した。


 『そうは言うが、お主の選んだのは、スタッフ・オブ・パワーじゃからの・・』

 「「えっ!?」」

 アーチャーとキャスターが同時に驚きの声を上げた。


 スタッフ・オブ・パワー(始原の杖)は、魔道師ならば誰もが夢見る、至高のスタッフである・・

 それは多彩な呪文を発動できる汎用性とともに、他のスタッフには無い最終兵器としての特性を持っていたからである。

 いわゆる「ファイナル・ストライク」である。


 戦隊物ならば、メンバー全員の承認が必要になりそうな必殺技であるが、始原の杖さえあれば、術者が一人で起動できる。スタッフに秘められた全てのエネルギーを、爆発力に変換して、使用者ごと殲滅するための決戦兵器である。

 もちろん、正規の手順を踏めば、誤作動などは起きないが、ローグが認証を誤魔化して起動すると、0.25%ぐらいの確率で、悲劇が起きる可能性があった・・


 一瞬だけ、手元のスタッフに目をやったアーチャーであったが、それをそっと床に置くと、別なスタッフを拾い上げて言った。

 「黄砂だか流砂だか知らねえが、お前にはこのスタッフで十分だぜ!」


 『ヘタレおったな・・』

 「ですな・・」

 オババとキャスターが頷きあった。


 

 「くっくっくっ・・半端な守護者風情が、このワシを愚弄するとはな・・貴様の魂を引きずり出して、永劫の苦痛を味合せてやるぞ・・・殺れ!」

 黄砂の王の号令で、サーバント・オーガーが一斉に、アーチャーを狙ってきた。


 「こっちに来てくれるなら、本望だぜ・・認証擬装・・コマンドワードは、たぶん・・『燃えろ!』」

 新たに拾った赤い杖を、その意匠とはめ込まれたルビーから、炎系のスタッフと判断したアーチャーの、思いつきの発動であったが、それが的中した。

 スタッフの先端から、炎の玉が飛び出すと、接近してくるオーガー達の中心で爆発した。


 「やっぱり、スタッフ・オブ・ファイアーかよ・・だとすると炎の壁も出せるはずだが、そっちのワードはなんだろうな・・」

 首を捻るアーチャーの元へ、全身に火傷を負いながらも、サーバント・オーガー達は前進していった。


 「油断するな!『神罰!』」

 そこへキャスターの持つスタッフから放たれた、フレイム・ストライクが炸裂した。

 アーチャーの繰り出したファイアーボールに加えて、フレイムストライクの直撃を受けたサーバント・オーガーは、6体全てが黒コゲになって倒れた。

 その頭からは、もぞもぞと黒足長蜂が這い出してくるが、力尽きて灰になっていった・・・


 「おのれ・・・エイシャント・フロストワーム!!」

 「ギシャアアアア」

 満を持して、古代凍結巨大蟲がコールドブレスを吐いた。


 『防げ!』

 「阿阿阿阿---」

 「吽吽吽吽---」

 2体の巨人が肩を組んで、ブレスの正面に立ち塞がった。


 弾かれた冷気がコアルームに充満し、壁といわず天井といわず、霜と氷で覆っていった・・・


 しかし、直撃を受けたはずの巨人達は、平気な顔をして立ちはだかっており、その後ろに居たキャスター達も無事であった。


 「ふむ・・冷気無効か・・こちらの攻撃を読んでフロストジャイアントを召喚したのは流石だが、迂闊な召喚は敵を増やすだけだぞ・・」

 黄砂の王は、そう呟くと、左腕の包帯を口に咥えると、解いた・・


 「オババ様、また蜂が!」

 「巨人が操られると、拙くねえか!」


 『やられる前に、やるのじゃ!』

 オババの号令で、2体の巨人が殴りかかりに行くが、黄砂の王の放った黒足長蜂が彼らの耳に飛び込む方が早かった。


 「くっくっ・・これで逆転だな・・」

 勝ち誇る黄砂の王に、巨人の拳が炸裂した。


 「馬鹿な!!ゴボッ」

 不意を討たれて、ワームの上から叩き落される黄砂の王・・


 『今じゃ!』

 「燃えろ!」

 「神罰!」

 アーチャーとキャスターが、スタッフから攻撃呪文を放った。


 「ギシャアアアアアア」

 燃え盛る炎の中で、フロストワームがもだえ苦しんでいた。


 「なぜだ・・なぜワシの蟲が効かぬ・・」

 床から起き上がりながら、黄砂の王が呟いた。


 『その答えは貴様自身が言っておったろうに・・』

 「ワシが?・・」

 『「迂闊な召喚は敵を増やすだけ」じゃと・・』

 「・・だとすると、あれはフロストジャイアントではないのか?!」

 黄砂の王がよく目を凝らすと、2体の巨人は、フロストジャイアントにそっくりに造られた、ゴーレムであることがわかった。


 「アイス・ゴーレム!!」

 『正解じゃ、ゴーレムならば貴様の蟲術にはかからん・・』

 そして氷から造られたゴーレムに、コールドブレスは効かない・・フロストワーム対策にも有効であった。


 「おのれ・・だが、肉弾戦ならばエイシャント・フロストワームの方が・・」

 「おっと俺らを忘れてもらっちゃ困るぜ・・『燃え盛れ!』・・よしよしウォール・オブ・ファイアーはこれだな」

 アーチャーは炎の壁のコマンドワードを探し当てて、ワームの胴体を焼く事に成功した。


 「アイスゴーレムは範囲外に指定せよ『神罰!』」

 キャスターの放つフレイムストライクの呪文は、味方を範囲外に指定できる。炎に弱いアイスゴーレムは外して、ワームと黄砂の王だけを巻き込んでいった。


 「ギシャアアギシャアアア」

 「おのれーーー」


 二人の採算を度外視したマジックアイテム攻撃に、ワームと黄砂の王は、炎の中で燃え尽きていったかに見えた・・・


 「「やったか!」」


 『馬鹿者、それはフラグという奴じゃ!』


 オババの叱責と同時に、炎を突き破って、黒いエイシャント・ワームが姿を現した。


 『死んだフロストワームをアンデッド化しよったな・・』

 「しかし、あの巨大なワームをあの短時間で、アンデッド化するなどと・・」

 『あ奴は、黄砂の王・・トゥーム・ガーディアンやマミーの頂点に立つ不死の王じゃからの・・』



 「くっくっくっ・・はっはっはっ・・・ふうっーはぁっはぁっはぁっ!!」


 コアルームに狂気の笑い声が木霊した・・・






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