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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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かの王、砂と蟲を操りて、南を統べるものなり

  凍結湖ダンジョンコアルームにて


 「湖水の浸水は小康状態を保っています。崩落も第3階層は辛うじて免れました・・」

 「そうはいっても、第3・第4ともにほとんどが水没してるぜ・・一部崩れている通路もあるし、行き来は難しいな・・」

 キャスターとアーチャーが状況を報告してきた。


 『青水晶の間は、なんとか耐え切ったようじゃな・・飛込みでヴォジャノーイの協力があったそうじゃ・・水流のコントロールは水棲精霊ならではじゃの・・』

 一度は諦めたガーディアン・システムであったが、眷属にした二人の今後を考えれば、存続するにこした事はない。勿論、マスターの延命の為にも、保存液は必要である。


 『ダンジョンの連鎖崩落が、敵の奥の手じゃったなら、失敗に終わった事になるのじゃが、はてさて、諦めてくれるような玉なら良いのじゃが・・』


 オババがそう、呟いたのを聞いていたかの様に、オーガーの門番が封鎖していた通路への扉が吹き飛んだ。

 「「 ウガッーーー 」」


 水圧に耐える為に、体重を掛けて抑えていた2体のオーガーが、石の扉ごと吹き飛ばされていた。


 『おやおや、仕掛けが破綻して、最後は力づくかい・・誰だか知らないけど、往生際が悪いんじゃ・・・』

 いつもの調子で、減らず口を叩きかけたオババの科白が、途中で途切れた・・

 それほど、通路から姿を現した相手が、予想を上回っていたからである・・


 『・・・ありえないね・・確かにフロストワームの群れを操るには、それなりの力量が必要だろうさ・・だからと言って、こんな北の辺境にまで、アンタが出張ってくる意味がわからないよ・・・』


 そこには、普通のより二周りは大きいフロストワームに騎乗した、黄色いフード付きのローブを被った人物がいた。その素顔は見えないが、ローブからはみ出した手足には、古びた包帯が巻かれている。

 オババから問われた、その人物は、含み笑いをしながら答えた。


 「くっくっくっ・・・なに、昔馴染みの顔が見たくてな・・」

 『ワシは見たくなんぞ、ないがな・・』


 「くっくっくっ・・そう邪険にするな・・これでも俺は、お主を気に入っているのでな・・」

 『何度、言われても答えは変わらぬ・・』

 「くっくっ・・その強情な所も、嫌いではないぞ・・・」


 「オババ様、こいつは敵ですか?!」

 「どう見ても正義の味方には見えねえぜ・・どちらかっていうと悪の親玉だ・・」

 「「ウガウガッ」」

 呆気に取られていた眷属達が、気を取り直して、フロストワームを包囲する。


 「雑魚が・・邪魔だ・・」

 そうローブの人物が呟くと、足元のフロストワームが、大顎をすり合わせて、奇怪な音を発し始めた・・


 『いかん!皆、逃げるのじゃ!!』

 オババが念話で叫ぶが、既にそのときには、コアルームに居る全ての眷族が、その音を耳にしていた。


 「か、身体が動かん・・」

 「やべえ・・ピクリとも動かせねえ・・」

 「「 ウ、ウガガ・・ 」」

 オババの眷属達は、金縛りにあったように、その場で硬直していた。


 『これは・・エイシャント・フロストワームの威嚇音! 普通のワームでないと思ったが、まさか古代種まで持ち込みおったのか・・』

 ワームも何百年も長生きすれば、古代種として進化する。

 より硬く、より強くなったワームは、他のワームさえも餌にして、さらなる成長を遂げるのであった。

 そしてその過程において、獲得するのが、この威嚇音である。


 この音を聞いた生物は、その圧倒的な威圧を受けて、身体が竦んで動けなくなる。所謂、蛇に睨まれた蛙の状態になるのだ。

 それは恐怖心から起こる自己防衛反応ではあるが、生存本能に根差した条件反射に近いものなので、自らの意思で振りほどく事は出来ない。

 エイシャント・フロストワームに睨まれた獲物は、ただ怯えながら、その大顎が近づくのを待つだけなのだ・・


 6体のオーガーは、その戦闘力の差を認識できてしまったが故に、完全に硬直してしまった。

 キャスターとアーチャーは、生身の肉体を持っていないが故に、首を小さく動かすぐらいは出来た。しかし生前の記憶がある彼らは、死の恐怖も覚えており、それが呪縛となって身体を動かす事が出来ない・・


 『耐えるのじゃ・・ワームが攻撃する瞬間は音が止むはず・・その時にワシが活を入れる・・』

 オババが念話で眷属達に指示を出したが、侵入者は、それさえも見抜いていた・・


 「なにやら画策しているようだが、甘いな・・俺が誰だか忘れたのかね・・」

 そういって、右手に巻かれた包帯を解いた・・


 『まさか、お主、やめろ!!』

 オババの絶叫は、しかし、一斉に飛び立った、無数の羽音にかき消された・・



 それは、一瞬前までは、確かに男の右腕だった。

 だが、包帯を解かれた途端、崩れるように腕は無くなり、無数の黒い足長蜂へと変化した。

 大きな羽音を立てて、飛び散った黒足長蜂は、硬直した眷属達の頭に纏わりつくと、その耳から続々と脳内に侵入していった・・


 「ウガガッ!、ウガッ!ウギャアー!!」

 脳内で何が行なわれたのか・・白目を剥いて絶叫したオーガーは、やがてガクリと項垂れると、その場に倒れた。


 「・・蟲による暗殺か・・」

 「・・素直に死なせてもらえれば、まだマシだがな・・」

 オーガー達と同じ様に、黒足長蜂に集られてはいたが、既に肉体を失っていたボーンガーディアンの二人は、入り込まれる弱点が無かった。


 だが、脳に入り込まれたオーガー達は、ビクンビクンと身体を震わせた後、ゆらりと立ち上がった。


 『惨い事をしよる・・』

 オババの念話はもう、オーガー達には届かなくなっていた・・すでに眷属でもなく、自らの意思もない、操り人形と化していた・・



 「くっくっくっ・・改めて交渉だ・・このインセクト・サーヴァントに殴り壊されたくなければ、俺のものになれ・・」

 ローブの人物は、オババに改宗を迫ってきた。


 『断る・・ワシはお前の様な邪悪な存在の、慰み者になる気はない! とっとと砂漠に帰れ、黄砂の王よ・・』


 「くっくっくっ・・この俺の誘いを三度断るというのか、『魔女』よ・・」

 『その名は捨てた・・今のワタシは「スカーレット」だ!』


 「くっくっ・・ならば、お主が縋り付いている、その男を葬り去ってやろう・・そうすれば元の『魔女』に戻るしかないのだろう?・・くっくっくっ」

 『・・マスターに手を出したら、お前はここで死ぬ・・ワタシの全身全霊を賭けて、お前を破滅させてやるぞ・・』


 「くっくっ・・そうだ・・それがお主の本性だ・・ダンジョンマスター如きに飼いならされて、ぬるま湯に浸っているお主は偽物よ・・」

 『違うな・・お前の追い求める者は、既に消え去ったのだ・・・』



 オババと黄砂の王と呼ばれた人物が、口論をしている間も、キャスター達は、なんとか硬直を解こうと努力していた・・

 「カタカタ(・・おい・・なんだか、危うい状況だぜ・・)」

 「カタ(・・ああ、どうやらオババ様に横恋慕した輩みたいだな・・)」

 「カタカタ(マジかよ・・趣味悪いな・・)」

 「カタ(・・そうは言っても、黄砂の王の称号が正しいなら、とてつもなく大物だぞ・・)」

 「カタカタ(・・俺は知らねえけど、話の流れだと南の砂漠の誰かさんだろ?)」

 「カタ(・・イエロー・キング・・・邪神の使徒とか、邪神そのものだとか言われてる存在だ・・)」

 「カタカタ(・・それ、駄目な奴だろ・・なんでそんな大物が、こんな辺鄙なダンジョンまで出張ってくるんだよ・・)」

 「カタ(・・わからん・・オババ様が呪いを解く方法を求めて、南に旅した時に何かあったのか・・それとも、もっと以前からの因縁があるのか・・)」


 黄砂の王に聞かれないよう、スケルトン語でヒソヒソ話をする二人であった・・


 「カタ(・・どちらにしろ、ここまで追いかけてきたほどの執着心だ・・手に入らないと悟ったら、何をしてくるかわからないぞ・・)」

 「カタカタ(・・オババ様を壊したら奴の負けだが、腹いせにマスターを攻撃するかもな・・)」

 「カタ(・・そうなれば地獄の蓋が開くことになる・・)」

 「カタカタ(・・そうなる前に、なんとかしなくちゃならねえんだが・・借り物の身体なのに、良く出来てやがる・・耳も無いのに威嚇音で足が竦んで動かねえ・・・)」

 「カタ(・・音は頭蓋の振動で聞いているんだ・・そして生前の記憶が、恐怖を生み出している・・)」

 「カタカタ(・・まあな・・あの頃に、こんな巨大ワームが立ち塞がってたら、小便ちびって、気絶してたろうからな・・)」


 耳で聞いているわけではないから、塞ぐことも出来ない。

 無意識に反応しているから、根性で振り払う事も出来ない。

 生身であるなら、太ももにナイフでも突き立てるところだが、腕が動かせない上に、骸骨の骨格では、硬直が振り払えるほどの痛みを感じるかどうかも怪しかった・・


 「カタ(何か切っ掛けが欲しい・・思わず身体が反応する様な、何かが・・)」


 キャスター達は、刻一刻と破局の瞬間が迫るのを感じて、焦っていた・・・




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