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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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崩落

 その轟音と振動は、オババのダンジョンの全ての場所で感じ取れた。


  青水晶の間にて


 「何?今度こそ地震なの?」

 「いや、大規模だが地震じゃないな・・炭鉱の崩落に近い・・」

 「おいおい、それってダンジョンが崩れてるってことかよ」

 「どちらにしろ、穏やかじゃなさね・・」



  地下水道、空気溜まりにて


 「ベニジャ、目を覚まして、危機が迫っています・・」

 「・・ん・・ああ、ルカか・・アタイは魔力を使い果たして気絶しちまったか・・情けねえな・・ジャー」

 「ベニジャの働きは見事でしたよ・・それより聞こえますか?この轟音が・・」

 「・・ああ、揺れも感じるぜ・・ヤバイのか?ジャジャ」

 「大量の水の動きが感じられます・・かなり上の方から凄い勢いで近づいてきています・・すぐに避難を」

 「けど、どこに逃げれば良いんだ?ジャー」

 「それは・・」



  コアルームにて


 「オババ様、敵の極大呪文攻撃では?!」

 『焦るでない・・アースクエイク(地震)の呪文が使えるほどの術者は来ておらんはずじゃ・・』

 「だよな・・可能性としては、またフロストワームあたりか?・・」

 「だが、この揺れはフロストワームが単体で引き起こせる規模を越えている・・」

 『兎に角、警戒を怠るでない・・仕掛けて来よるぞ・・』


 しかし、敵の攻撃はオババの予想をも上回る規模でダンジョンを襲った。

 コアルームに最大級のアラートが鳴り響く。


 『なんじゃ?! 第1階層が崩落したじゃと!!』

 オババの投影するマップには、大量の水に押し流されて崩れたダンジョンが映し出されていた・・


 「第2階層に浸水!持ちこたえられません!」

 「やべえ、第1階層の崩落が連鎖して、下の階層を押しつぶしていきやがるぜ!」

 キャスターとアーチャーが見ている、その目の前で、続々とダンジョンが廃墟に変わっていった。


 『なぜじゃ!凍結湖の湖水を浸水させたのは判る。じゃが、それだけでダンジョンが崩落するわけがなかろう!』

 湖の地下を掘り抜く時は、強度の安全を確保しながら、慎重に拡張していった。もちろん「隔離」も最強強度で展開している。通路が水没したぐらいで、崩落するわけもなかった。


 だが、その原因が、崩落が進むにつれて判明した。


 『なんじゃ・・この巨大な空洞は・・』

 崩落した第1階層の跡に、巨大な空洞が出現した。

 いや、元々あった空洞が、ダンジョンの通路が崩壊した為に、その全貌を明らかにしたのだ・・


 『奴等・・ダンジョンの周囲の岩盤を、全て喰らいよったのか・・』


 ダンジョンを拡張した場合、ダンジョンコアの管理が行き届くのは、通路の内部と外側の2~3mぐらいまでである。その先は支配領域でもなければ、監視範囲でもない・・

 迷宮型のダンジョンであれば、例え未使用の空間があっても、周囲からの干渉により支配領域化されるが、オババのダンジョンの様に、地下通路をあちこちへ伸ばす形状だと、どうしても死角の部分は発生する。

 敵は、その部分に巣を作り、トンネルを延々と掘り抜く事により、ダンジョンの支えを少なくしていったのだろう・・


 ディープエキドナ(親方達)の様に、地下共鳴音に敏感な眷属でも居れば、すぐに感知出来たはずだが、オババのダンジョンの護りが、ボーン・ガーディアンに偏重している隙を突いてきた結果である。

 フロストワームの穿った空洞は、やがて大きな地下洞穴となり、その中をダンジョンの通路が、コースターのレールの様に取り残される。

 通路とその外郭の岩盤だけなら、階段やスロープで繋がっているので、空中にあっても維持出来る。

 だが、その中を大量の水が満たし、かつ、上からも叩きつけるように降りかかったらどうなるか・・

 その答えが、今、ここで起きている現象であった。


 耐久力の限界に達した、支柱となっていたスロープの最初の1本が折れると、その負担が他の階段部分に影響し、連鎖的に崩れ落ちていく・・

 大量の土砂と、湖水で、最初の階層が埋まると、その重みで、次の階層の崩落が引き起こされる。

 短時間の間に、第2階層も崩落して廃墟となっていった・・・


 「第2階層、壊滅・・浸水は第3階層に及んでいます!」

 「あ~あ、凍結湖の水位が半減・・およそ湖、半分の湖水が流れ込んだ計算だぜ・・」

 『全通路の隔壁を遮断、なんとか第3階層の崩落を防ぐのじゃ!』 


 そうは言っても、ダンジョンの機能にアクセス出来るのはオババだけで、キャスター達は見守る事しかできない。あちこちの操作で忙しいオババが、見落としている情報を見つけて告げる事しか役に立てなかった・・


 「青水晶の間に大量の水が移動しています」

 「あそこはフロストワームが開けた大穴があるからな・・塞ぎようがねえぜ・・」

 『・・仕方ない・・オーガーリーダー、そこを放棄して撤退せよ・・人族のゲストも一緒にじゃ』


 念話で指示を送ったが、返答は予想外のものだった。


 『こちらは大丈夫です。持ちこたえます、ウガッ』



  青水晶の間にて


 ヴォジャノーイのノヴォが作り出した大渦巻きにより、地底湖の湖底に隠れていた15番を撃破することに成功した一行は、その後すぐに起きた轟音と振動により足止めをされていた。


 「そこの半魚人、何か知ってるの?!」

 ビビアンに問い詰められたノヴォであったが、詳しい事は何も聞かされて居なかった。


 「悪いが、俺にも何が起きているのか見当がつかねえ・・ただ、音から察するに、湖の底が抜けたんじゃねえかと・・」

 「ちょっと、大事じゃない!逃げなきゃ!」

 焦るビビアンだったが、轟音は通路を反響して、4方から聞こえてくる。どちらに逃げても鉄砲水に押し流されそうな気配であった・・


 「ここで耐えるしかないな・・」

 ハスキーの判断に、他のメンバーが異議を唱えた。


 「そうは言っても、ここは地底さね・・水が引くまで息が持つかどうか・・」

 「俺もちょっと難しいと思うぜ・・身体の軽い奴は水圧で流されちまう・・」


 「あのアクセサリーが間に合ってさえいればな・・」

 ハスキーはドワーフに依頼したボーンサーペントの指輪に思いを馳せたが、手元に無い以上、考えても無駄であった。


 「ようよう、負け戦の様な顔付きをしてるようだが、俺を忘れてねえか?」

 ノヴォが語りかけた。


 「なんとか出来るのか?・・」

 「もちのロンよ、俺を誰だと思ってやがる」

 

 「行き倒れの半魚人?」

 「有り金巻き上げられて、簀巻きにされた素人博徒?」

 「仕掛け網に絡まった、うっかり魚兵衛」

 「「あ、それそれ」」


 「おい!、助けねえぞ!」

 怒り出すノヴォを宥めすかして、呪文を詠唱させた。轟音はすぐそばまで迫ってきている・・


 最初に湖水が吹き出したのはフロストワームの開けた大穴からだった。

 すぐに2方向にある地下通路からも、湖水が押し寄せる・・


 あっという間に、青水晶の間が水に沈むかと思われたが、ノヴォの詠唱が間に合った。


 「コントロール・ウォーター、逆流の法!!」

 大渦を作り出した水流操作の呪文で、今度は水の逆流を念じる。

 すると、青水晶の間に注ぎ込んでいた3方向の水流が、フィルムを巻き戻すように、元の方向へと反転していった。


 「へー、やるじゃない・・魚兵衛にしては・・」

 「俺の名前はノヴォだ!変なあだ名で呼ぶんじゃねえ!」

 「ちょっと、集中が切れかかってるわよ!しっかり維持しなさいよね!手を抜くと燃やすわよ・・」

 「ういっす・・」


 どこまでいっても、女性に弱いヴォジャノーイであった・・・



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