嫉妬は愛情の裏返し?
凍結湖、地下水道、空気溜まりにて
蛙人の奸計に嵌った、水精霊の夫婦は危機に陥っていた・・
「かあちゃんは関係ねえ!攻撃するなら俺にしろ!」
「はい、私は無関係です~」
「えっ?そこ、言い切っちゃうんだ・・」
「なので、ガンガン、石礫投げてやってください~」
・・夫婦の危機に陥っていた・・・
「どうするケロ?」
「半魚人の妄想嫁ケロ?」
「それで本当は大蛙が嫁だケロロ」
フロッグマンの囁きを聞いたルカは、何か言いたそうにしていたが、我慢した。
「嫁を守る為に、他人を犠牲にするとか、鬼畜ケロ」
「だが、その努力も無駄だケロ」
「お前の嫁はその大蛙だケロロ!」
「「 違うううう!! 」」
我慢出来ずに叫んだ夫婦であったが、フロッグマン達は聞いて居なかった。
ノヴォに対する人質にする為に、壁に張り付いている大蛙の毘沙門に襲い掛かった・・
「ケロケロ?!」
濡れ衣で、ノヴォの嫁認定された毘沙門(♂)は、慌てて壁伝いに逃げ惑う・・
しかし、あっという間に包囲されて、逃げ場を失った。
そこへ・・
「ステイ!!」
ベニジャの号令が響くと、フロッグマン達の動きがピタリと止まった。
「う、動けん・・ケロ・・」
「何故だケロ・・頭が・・頭が割れそうケロ」
「逆らうと苦しいケロ・・素直になるケロロ・・」
「「 あ、楽になったケロ 」」
「整列!!」
さらにベニジャが命令すると、そそくさとフロッグマンと大蛙達が横並びになった。
クロコの背中に仁王立ちになり、蛙人に指示を出すベニジャの手には、蛙を使役する為の三叉矛が握られていた。
「番号!!」
「ケロッ」 「ケロケロッ」 「ケロロッ」 「ケロッケ」 「ケロッケロッ」
「よし、解散!!」
「ういーっす、流れ解散ケロ」
「お疲れーケロ」
「なんか忘れてるような・・まあ良いか、ケロロ」
ぞろぞろと地下水道に戻っていくフロッグマン達の後ろを、大蛙達も付き従っていく。
「お前たちは居残り訓練だ、ジャー」
慌てて大蛙を止めるベニジャの声を聞いて、フロッグマンの足が早くなる。
「先輩、お先ですケロ!」
「地下水路は露払いしときますんで、ケロ!」
「さーせん、ケロロ!」
居残りが嫌だったのか、蜘蛛の子を散らすように逃げていった・・・
「はあ~、短時間とはいえ、あの数を支配下に置けるとか、ベニジャさんも凄いんですねえ~」
感心したルカの言葉に、しかしベニジャは答えられなかった。
ドサッという重いものが倒れる音がしたと思った途端、クロコが騒いだ。
「シャーシャー!!」
見ると、クロコの背中で、真っ青な顔色をしたベニジャが倒れていたのだ。
「ベニジャさん!」
ルカが叫ぶのと同時に、ノヴォが駆け寄って様態を診ていた。
「大丈夫だ、魔力の使いすぎで気絶しただけだ・・」
「良かった・・」
「しかし大した嬢ちゃんだぜ、俺が呼んだ蛙人を上塗りして使役しちまうんだからな・・・」
ノヴォが、ベニジャの頭を撫でながら呟いた。
「しかも、あの数だ・・追い返すだけで精一杯だったんだろうが、それでも凄いぜ・・」
「シャーシャー・・」
クロコが心配そうに鳴いた。
「ああ、大丈夫さ、少し眠れば元に戻る・・」
「シャーシャーシャー・・」
クロコが心配しているのは、ノヴォの方らしい・・
「俺か?俺はこの通り・・・」
そこまで言いかけて、ノヴォは背後に立つルカの殺気に気がついた。
「かあちゃん! これは疚しい気持ちで撫でているわけではなく!」
「あんたって人は、私の友達にまで手を出してえええ!」
「濡れ衣だあああーーー」
ザッパーーン
ルカの操る水流に押し流されて、ノヴォは地下水道を錐揉みしながらどこかへと流されていった・・・
「シャー・・・」
間一髪で背中のベニジャと一緒に避難していたクロコが、やれやれと言った口調で、一声鳴いた・・・
凍結湖、コアルームにて
『なんじゃ?撃退ポイントが入ってきよった・・』
「あ、これじゃない?地下水道のレッドマーカーが退去していったわ」
ビビアンの見つめるマップには、圏外へと去っていく大量の敵対マーカーが映っていた。
『吸収は無しじゃが、それでも2000ポイントは美味しいの・・』
「どれだけ入り込まれてたのよ・・」
戦力で言えば4個小隊に近いかも知れない。それを両者に死者無しで追い返したのだから、善戦というより謎な結果ではあった・・
「ゲストが1体、はぐれているけど、これが作戦だったのかしら・・」
ビビアンの予想は、残念ながら外れていた。離れているのは、押し流されただけである・・・
『これで、こっちは大丈夫じゃ。お前は、青水晶の間へ応援に行っておやり・・』
オババが、ビビアンに優しく言った。
「そ、そうね、あっちも苦戦しているようだし、さっさと片付けてくるわね!」
ハスキー達の戦いが気になっていたビビアンは、渡りに船と立ち上がった。
「エトランジェ・デュ・ルージュは、これより青水晶の間の救援に行くわ!ついて来なさい!」
「ヒヒーン」
「らじゃーデス」
「・・@・・」
再びユニコーンのニコの背中に跨ると、颯爽とコアルームを走り出していった。
「よろしかったのですか?オババ様」
立ち去るビビアン達を見送りながら、キャスターが念話でオババに尋ねた。
『何がじゃ?』
「ビビアン様のことです。わざわざ危険な戦闘区域に送られなくても、ヒーラーやソーサラーなら眷属の中から召喚できるのでは?・・」
『ここで、そわそわされるより、応援に行かせた方が良いかと思っての・・』
「なるほど、納得致しました・・」
『それに、ここに居るのが一番安全とも言い切れん・・』
「おいおい、まだ敵が残っているっていうのかよ」
アーチャーもその念話に紛れ込んできた。
『フロッグマンの撃退ポイントは入ってきたが、人狼と墓守の分はまだじゃ・・その違いはなんなのか・・』
「再度襲撃する意志があるからか・・」
「まだ黒幕の隠し玉があるかだな・・」
キャスターとアーチャーも考え込んだ。
『棺がここにあり、お前たちも眷属化した・・いざとなったら青水晶の間の放棄も可能ということじゃ・・ならば黒幕が狙うなら、ここしかないのじゃが・・』
不意を打たれた当初とは違い、今はコアルームの防備もそれなりに整っていた。
キャスター達の耐久力も回復したし、オーガーの衛兵も6体居る。棚ぼたの撃退DPもある。
青水晶の間が制圧できれば、それでこちらの勝利が確定するはずであった・・
『じゃから、仕掛けてくるなら、このタイミングのはずなのじゃが・・』
「ビビアンを向こうへやったのは隙を見せる為かよ・・」
「それと同時に、より危険の少ない方へ誘導されましたね?・・」
『ふんっ、どうとでも取るが良いじゃろうて・・』
オババは、マップに映るビビアン達のマーカーを、ただ、見つめていた・・・




