契約事項はよくお読みになって
「姫先生、質問があります!」
「はい、生き物係のM君、なんでしょう?」
「なんで僕が、苛め娘の麻里亜と勝負しないといけないんですか?」
「それには3つの理由がありますわ」
3つもあるんだ。
「一つには麻里亜さんがダダをこねているから、勝負させたほうが後腐れないから」
最初から委員会の責任逃れだよ。
「二つ目は、実戦形式でダンジョンバトルのレクチャーを済ませるチャンスだから」
次は手抜きの言い訳ときたね。
「最後に、私が降臨したのに何もしないで帰るのは許されないからですわ」
「姫」のわがまま来たーー
というわけで、現在、僕らは「姫」から短期集中ダンジョンバトル講座を受けているわけ。
「ダンジョンバトルには大別して、モンスターウォーズ、ビルドバトル、クランストラテジーの3つの種目がありますわ」
「モンスターウォーズというのは召喚できる眷属のタイプが制限されるやつですよね」
「よくご存知で。これは仮想空間に用意されたバトルフィールドで陣取りをする形式で、対戦者の格差がつきにくいので公平な勝負によく使われますわ」
なるほど、戦場がホームかアウェイかで戦い方がまったく違うだろうからね。
「ビルドバトルはダンジョンの構築力を競うものです。同じDPで仮想空間にダンジョンを構築して、お互いの探索パーティーを送り込んで踏破を目指します。これはベテランの方々がじっくり楽しむ勝負方法ですわね」
あ、これ僕はダメだ。拡張が仕えない以上、戦うまでもなく負けだね。
「最後のクランストラテジーは、眷属全員を使った戦略戦争ですわ。相手のダンジョンコアを制圧した方が勝者となり、敗者は1つだけ何でも言うことをきかなくてはなりませんの」
「何でもですか?」
「ええ、過去にはそれでダンジョンの引越しを強要されたり、ダンジョンコアを交換させらりたりしたそうですわ」
「そんなことも可能なんだ」
「ですので、クランストラテジーはあまり頻繁には行われません。10年に1度ぐらいですわね」
「じゃあ、僕には関係ないですね」
「それがフラグでないことをお祈りいたしますわ」
「ちょ、怖いこと言わないでくださいよ」
「ですので今回のダンジョンバトルは、モンスターウォーズ。バトルフィールドは、そうですわね、初心者マスターもいることですし、ベーシックなナインスクェアにしようと思いますがよろしくて?」
「あたしはそれでいいわよ。最初からそれで対戦申し込みするつもりだったし」
マリアはやる気十分みたいだ。僕としても否はない。選択の余地がないしね。
「それでいいですよ、「姫」が選んでくれたのなら僕らに不利になることはないでしょうから」
「ちょっと、あんた今からジャッジに優等生ぶって点数稼ぎ?せこいわね」
「いえいえ、右も左もわからない新入生を鴨ろうとする先輩ほどでは」
「ふん、まあいいわ、モンスターの指定はゴブリン種全般でいいのよね」
「僕はケモノでもいいですけど」
「うちには獣はいないのよ、だからダメ。あと終わったらモフらせて・・・」
どうやらマリアは眷属をゴブリンに絞って何らかのボーナスを得ているらしい。そのためにモフモフは飼いたくても飼えないようだ。
「10分間で10DPです」
「安!2時間予約しとくわね」
しまった、もっとふっかければよかったか。モフモフの為に120DPもポンと出すとは。高額所得者恐るべし。
「でわ、ゴブリンウォーズでよろしいですわね。それ以外の眷属はフィールド内に召喚しても強制排除されますから注意してくださいまし。その召喚で使用したDPは戻りませんので」
「え?仮想空間に召喚するのにもDP使うの?」
「もちろんですわ。バトルに使えるDPは最初に両者の取り決めで仮想バンクに移しておき、そこから消費してもらいます。こっそり自腹をきって不正できないように管理されてますの」
まずい、まずいよ。残高いくらだったっけ。
「まあ、初心者には痛い出費でしょうから、あたしも無理な高額レートはふっかけないわよ。ゴブリンウォーズの基本の1000DPで許してあげる」
ひゅーーーー
「なによあんた、まさか1000DP持ってないとか言い出さないわよね?」
「「ふぃ」」
「ちょっと、ダンジョンコアと一緒に横向いたけど、まさか・・・」
「「ぷぃ」」
「ふてくされても可愛くないわよ、いったい幾らなら払えるの?」
「・・・400?・・・」
「はあ?」
「まあ」
マリアと「姫」が驚きの声をあげた。
「なにそれ、どんな貧乏生活送ってたわけ?」
「まあまあ、よくそこまで貯めましたわね。さすがですわ」
感想は真逆だったけどね。
姫の言葉にマリアはドン引きしている。
「あんたら・・・ハードモードって支度金半分とかなの?」
「「100スタート」」
僕と「姫」の声がハモる。
「「ありえねーー」」
マリアとボンさんの声もハモった。
「あ、すまん、ついツッコミいれちまった」
ボンさんからまで鋭いつっこみいただきました。
「100って、あんた、コアルームから9m通路3方向に伸ばしてその先にそれぞれ9mx9mの部屋つくってゴブリン1匹配置したら終わりじゃない。なにそれ、新しい修行かなにか?」
マリアからは怒涛のダメだしをいただきました。
「いや、最初にコアルームに1500も使ってレアゴブリンをカスタムで呼び出したお前には、人のこととやかく言えないと思うがな」
女帝は最初からゴブリン推しだったみたいだ。
「あたしの黒歴史はどうでもいいのよ、それより委託金はどうするの?400とか半端なバトルは遠慮したいんだけど、さすがに」
「それについては委員会の方から妥協案がでておりますわ」
「姫」から救いの手がのばされた。
「今回のバトルはレートを1000で行います。足りない分は委員会が立て替えておきますわ」
「やったーー」「たぁー」
「ただし、バトルに勝てば委託金も戻ってくるし、賞金としてレート分、つまり1000DPがもらえますが、負ければ全部借金ですわよ」
つまり勝てばプラス1000だけど、負ければ600の借金生活なのか・・・
「委員会からの借金に利息はつきますか?」
「年利5%の複利計算ですわね」
うわ、すごい現実的な数値なだけにガチで取り立てがきそう。600とか返済できる気がしないよ。
だがしかし、ここで勝てば一気に目標の1000DPを突破できそうだ。どうせバトルからは逃げ出せそうもないし、チャレンジするしかないよね。
「このバトル、受けてたちましょう!」 「ん!」
「半分以上借金ですわね」
「「ふぃ」」




