翡翠仮面の伝説
なんとか風邪から回復しました。ご心配をおかけいたしました。
凍結湖、コアルーム、驚愕の一瞬
宝物庫から出現した、翡翠の仮面を被ったノームに、コアルームに集ったメンバーは、呆気にとられていた・・
『あ奴・・いつの間に宝物庫に潜り込んだのじゃ?』
「ビビアンさんの後ろにくっ付いていましたデス・・」
『で、ビビアンが出てきた時には、どうしていたのじゃ?』
「そういえば、いなかったデスね・・」
リペア・ゴーレムのスクロールに気を取られて、ノーム・アーチザンの動向に、死神見習い以外誰も気を配っていなかったようだ。
『なぜ、その時に言わん!』
「オババ殿の眷属の動きを、なぜ一々報告する必要があるのデスか?」
デスから見れば、ノームの動きは、オババの指示に従っているとしか思えなかったのである。
『ワシも耄碌したもんじゃ・・ノームを宝物庫の前で野放しにしておくなどと・・』
知的好奇心と、財宝集めには歯止めの利かないノームは、厳重に見張っておくか、動かないように強く言い含めておくべきであった。
放っておけば、蜂が蜜に誘われるように、宝物庫に忍び込むのは自明であった・・・
「フウッハッハッハー、我こそは古代竜神帝国の第15代ドラゴニアン皇帝・・」
『なんじゃと!』
「イグドラシア陛下に仕えし、宮廷魔導師・・」
「あれ?」
「ユーグリアーノ様の一番弟子・・」
「「おい・・」」
「雷のグランノヴァのクラスメイト・・」
「「「 ・・・・ 」」」
「双剣使いのジャンバルなり!」
「『「 魔術師でもないのかよ! 」』」
コアルームに居るメンバーが総突っ込みした・・・
「どうだ、驚いたか・・愚かにも翡翠の仮面を被ったノームの意識を乗っ取り、我は再びこの世界に舞い戻ることとなったのだ・・」
「確かに、不気味な仮面を自分から被るとか、愚かよね・・」
『そうは言うが、お前が小さいときは、あれを被りたいと一晩中泣かれたことが・・』
「ストップ!子供の頃の黒歴史は、持ち出し禁止で!」
「我が極めし、双剣の奥義と、このノームの肉体が合わされば、もはや無敵・・・」
「ねえねえ、ノームって長剣使えたっけ?」
『無理じゃな・・小型の亜人は、ハーフリングもそうじゃが、普通の長剣は両手で握らんと振り回せんのじゃ。ましてや双剣などと・・』
「そんな、馬鹿な・・」
仮面の主が、己の小さな手を見つめて愕然としていた。
「せめて魔術師だったらね・・」
『魔力は少なくとも、呪文の知識を仮面が補えば、なんとかなったかも知れんがのう・・』
可哀想な者を見る目で、ビビアンとオババがため息をついた。
「そうだ、そこのオーガー、試しにこの仮面を着けてみんか?見違えるほど強くなれるぞ・・」
まるで健康器具の販売員のような売り込みを始める翡翠の仮面であった。
『・・今じゃ・・』
オババの念話で指示されていたアーチャーが、ノームの背後に音もなく忍び寄った。そして死角から短剣で、仮面をノームの顔面から切り離した。
「ギャアアアアア」
絶叫とともに、内側にべっとりと血糊の付いた仮面が、床に転がり落ちた。
仮面を剥がされたノームは顔面のあちこちから開いた穴から血を噴出すと、その場で死亡した。
『仮面に憑依された者は、救う事は出来ぬ・・許せよ・・』
「縛って転がしておけば良かったんじゃないの・・」
あまりにも凄惨な絵面に引いたビビアンが、オババに言った。
『奴が馬鹿で助かったが、剣技は使えなくても、トゥーム・ガーディアンは呼べるでな・・受肉させておくのは危険なのじゃよ・・』
「しまった、その手があったか! やり直し、やり直しを要求する!」
カタカタと床で騒ぐ翡翠の仮面を、慎重に麻布の袋で包み込むと、アーチャーが宝物庫へと運び込んでいった。
『こっちは出落ちの馬鹿ですんだが、他の状況はどうなっておる?』
オババの声に、コアルームのメンバーが再稼動し始めた。
「地下水道は混戦になってるみたい・・見ただけじゃあ、ゲストと侵入者のどっちが優位なのか分からないわ」
数が多いのは侵入者の方だが、あそこの眷属がしぶといのはビビアンも良く分かっていた。そう簡単には押し負ける事はないだろう・・
「青水晶の間は、応戦中のようデス。こちらは陣形が整っていますデス」
こちらは巨大型1体に対して、眷属とゲストが綺麗な防御陣形をとって戦っているようである。オババはそれを見て、オーガーリーダーに念話を送った。
『そっちの状況はどうじゃ?何が出てきよった?』
青水晶の間にて
「ウガッ、湖の中からデカイ骨蟲が這い出してきました、ウガッ」
今、まさに眼前にいるのは、全身を骸骨で作り出された、巨大なスケルトン・ワームであった。
スケルトンワームと言っても、フロストワームの外骨格を使用したものではなく、人型の骸骨を、無理矢理に連結させて、ワームの形状にしたてあげた、歪な存在であった。
それが、巨体をムチのようにしならせて、叩きつけるように攻撃してくるのだ・・
「複数が巻き込まれないように散開しろ!」
ハスキーの指示で、オーガーリーダーとオーガー、スタッチ、ソニアが扇状に展開し、その要にハスキーを置く陣形をとった。
「相棒、あいつはワームの形してるが、ブレスとか吐かねえだろうな!」
「わからん、人型だと不利だと見て、合体したような気もするが・・」
「確かに、やり辛くはなったさね!」
水中から、上半身をのばして攻撃してくる巨大骸骨蟲は、その胴体へは攻撃が届かない。相手が攻撃してくる瞬間に、迎撃するしか方法がなかった。
人型のスペア・ガーディアンなら、オーガーの一撃で砕けたので、修復する間も無かったが、これだけ巨大だと、戦闘中にリペアされてしまうのも苦戦の原因である。
指揮官を狙おうにも、それらしき個体は、湖の底から動こうとしなかった。
部隊ならば細かい指示も必要なようだったが、巨大骸骨蟲は、好きに暴れさせて、修復に専念する作戦らしい。湖底に潜んだ15番を狙う事は、骸骨蟲の胴体へ攻撃するより難しい・・
何度目かの攻撃で、オーガーが重傷を負って、膝をついた。
「スタッチ!」
「ほいきた!」
ハスキーの叫びに、すぐさま反応したスタッチが、負傷したオーガーのカバーに入る。
「ウガッ(すまん・・姐御・・)」
「少し後ろで休んでるさね」
ソニアに引きずられて、後方に下げられたオーガーは、なぜか嬉しそうであった・・
攻撃目標の選択が、敵にある以上、カウンターのような特殊スキルでないと反撃し辛い。装甲は本家のフロストワームより格段に薄いが、耐久力はそこそこある。そしてやっかいな修復機能・・・
「オババ様、あの魔法はいつまで続く?ウガッ」
オーガーリーダーが、手詰まりになって、念話で質問した。
もし回数に制限があるのであれば、このまま消耗戦で押し切る事も考えたのだ。
『ガーディアンシステムの動力源は、周囲の青水晶に溜め込まれた魔力じゃ・・今のままでも一月は稼動するじゃろう・・』
「そんなに待てない、ウガッ!」
複数のボーン・ガーディアンを管理、維持し、保存液の調整や個体の修理まで司るガーディアン・システムは、魔力切れを待つには巨大すぎる構造物であった。
「せめてこちらにもヒーラーが欲しい、ウガッ」
『わかった、なんとかしよう・・』
オーガーリーダーがオババとの念話を終えると、ハスキーから声が掛かった。
「その様子だと、向こうの魔力切れを狙うのは無理らしいな・・」
「ああ、一月は持つと言われた。仕方ないからこっちにもヒーラーを要請したとこだ、ウガッ」
「確かに必要だな・・出来れば攻撃呪文が使える術者もいれば、楽なんだが・・」
前衛は十分だが、その分、後方支援火力が足りなかった。敵が骸骨系なので、ハスキーの弓の威力が半減されるのも長期戦化している一因であった。
「こうなったら、片っ端から水晶を砕いていくのはどうだい?」
ソニアは、システム自体の破壊を示唆してみた。
「姐御、それは勘弁してくれ、ここの仕組みはオババ様が必要としている、ウガッ」
正確には保存液の調整機能であるが、細かい差異はオーガーリーダーには理解できていない。
「まあいいさね、お前さん方に必要なら、なんとか無傷で取り返すさ・・」
「すまねえな、姐御、ウガッ」
いつの間にかオーガーリーダーからも姐御呼ばわりされていたが、ソニアは、それをすんなり受け入れているようだった・・
「・・おい、相棒・・あいつらソニアに付いて来るとか言わねえよな・・」
「・・俺もそれを心配していたところだ・・」
オババの眷属である以上、ここを離れることはないと信じたいが、あの懐き様では絶対に無いとは言い切れなかった・・
「・・ビビアンの嫁入り道具に、オーガー執事4人とか言われたらどうすんだよ・・」
「・・・オーガーは村に入れたかな?・・」
「・・おい、本気なのかよ?!」
からかうつもりで言った嫁入りうんぬんに、相棒が反論しなかった事に驚くスタッチであった・・




