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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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娘に残した遺産

風邪で体調を崩しまして、昨日の更新は出来ませんでした。

申し訳ございません。

  凍結湖、コアルーム(戦時司令部)にて


 「地下水道の巨大反応は消滅、ゲストマーカーは減少無し・・流石ね、フロストワームを損害無しで倒すなんて」

 ビビアンが、我が事の様に喜んだ。


 『ふんっ、相性が良かっただけじゃよ・・うちのガーディアンも万全なら倒せぬ敵ではない・・』 

 「なによ、援軍が強いんだから、素直に喜びなさいよね!だから偏屈婆さんて呼ばれるのよ」

 『そう呼んどるのは、お前だけじゃ!泣き虫が・・』

 「はあ?いつの話をしてるのよ!だいたいねえ・・」


 オババとビビアンの口喧嘩にデスが割って入った。

 「あのー、まだ敵勢力が居ますデス・・」


 「『あんたは黙ってて!!』」

 「はい、デス・・」


 デスは困って周囲を見渡したが、見張り番のオーガーと目が合うと、すっと逸らされた。

 どうやら厄介事には巻き込まれたくないようだ・・


 ニコとラムダは元から、我関せずを貫いており、相談には乗ってくれそうもない・・

 「これは、早まったかも知れないデスね・・」

 13番の願いを、安受け合いした事を後悔し始めた死神見習いであった・・



 そこに運良く、棺を担いだオーガーとキャスター達が到着してくれた。

 「おお、待ってたんデスよ・・」


 オババとビビアンの仲裁をしてくれそうな人材の来訪を喜んだデスであったが、死神に熱烈な歓迎を受けたアーチャー達は驚愕した。


 「カタカタ(おい、まずいぞ、もうお迎えが来てやがる・・)」

 「「ウガ(間に合わなかった・・)」」


 「カタカタ(いや、あれはビビアンの・・仲間・・でいいのか?)」

 キャスターが、自信なさげに説明した。


 他の精霊や聖獣も部隊のメンバーだと聞いて、アーチャーが呟いた。

 「カタカタ(おいおい、ビビアンのやつ、いつの間にハーフエルフを止めたんだよ・・)」


 まるでドライアド(樹霊)に生まれ変わった様な、交友関係であった・・



 棺の到着を見て、オババがビビアンを放っておいて、指示を出した。

 『皆、良くやってくれたね・・棺は中央に安置しておくれ』


 オーガーが慎重に 床に降ろす白い棺を見て、ビビアンが恐る恐る尋ねた。

 「誰が眠っているの?・・」


 一瞬、言葉に詰まったオババであったが、腹を括って答えることにした。

 『このダンジョンの主じゃよ・・』


 「・・そう・・やっぱり亡くなっていたのね・・・あれ?でもマスターが死亡したらダンジョンコアって送還されるって聞いたけど?・・」

 ビビアンは、邪神教団との戦いの際に教わった知識から、オババの矛盾を指摘した。


 『死んではおらん・・ただ眠っているだけじゃ・・』

 「え?だって、アタシ1回も見たことないけど?」

 『眠っているだけじゃ・・50年間ずっと・・・』

 「50年って・・・」

 自分がオババに拾われるずっと以前から、眠り続ける存在が居たことにビビアンは絶句した・・


 そしてその、人族ならば半生にあたるほどの長さを、マスター無しで過ごしたオババの想いを垣間見た・・・


 「・・なんで・・なんでアタシに教えてくれなかったのよ・・」

 『教えてどうなるものでもないわい・・マスターの呪いは誰にも解けぬ・・』


 「やってみなくちゃ、わからないでしょ!」

 『お前なら、そう言うじゃろう・・じゃが、ワシにもエルマにも出来なかった事が、たかが小娘一人に出来るはずもないんじゃよ・・』

 「呪いならニコに頼めば解けるかもしれないわ!術ならラムダの解呪もあるし!」


 『本物の魔女は精霊や聖獣のさらに上位におるのじゃ、神格もしくは神獣でなければ対抗もできん・・』

 「なら、教会に頼って・・」

 『頼んだよ・・じゃが、辺境のダンジョンマスターに掛かった呪いを解いてくれる教会など、無かったのじゃよ・・』


 「だって・・そんな・・」


 『大丈夫じゃ・・いつかきっと、奇跡は起こる・・それまで待てば良いんじゃよ・・』

 最後は、幼子を宥めるような口調になった。


 「でも、また何十年も一人ぼっちなのよ?・・」

 『なに、子育てに明け暮れた12年は、あっという間じゃったわい・・・』


 コアルームにしんみりした空気が流れた・・



 しかし、それを察しない者も居た。

 「どうです、今ならご友人と同じ船が用意できますデスが・・」

 「カタカタ(いや、まだ私は務めがあるので・・)」


 「早割りも利きますデス・・早期契約頂きますと、心残りを清算する為のお手伝いも致しますデスよ」

 「カタ(それじゃあ、足りねえなあ・・なんかもっと魅力がねえと・・)」

 「ムムム・・これでも目一杯サービスさせて頂いているのデスが・・」

 「カタ(そこをもう一声・・)」


 「カタカタ(おい、アーチャー、本気で契約する気か?相手は見習いとはいえ、死神だぞ・・)」

 「カタ(いいじゃねえか、システムから切り離された以上、俺らも死んだらそれまでだぜ。なら有効利用しねえとな)」


 「そうデスよ、悪魔や邪神と違って、死神の契約は魂を縛るものではなく、冥府に無事に送り届ける為のものデス・・変な横槍を防ぐ意味でも、損は無いと思いますデス・・」

 「カタカタ(それは分かるが・・)」

 「カタ(アンタが胡散臭いんだよな・・)」


 たとえ損の無い契約だとしても、強引に勧められると裏があるように思えてくる。相手は単に契約数によるノルマの達成や、マージンを見込んでの売り込みだとしても、行き過ぎたセールスは時に逆効果になる。 

 「そんな~・・・」

 項垂れるデスであった・・・



 『そうじゃ、3番と12番の手当てをせんと・・』

 オババが思い出したように呟いた。


 「ボーン・ガーディアンは普通の治癒呪文では治らないのよね?」

 ビビアンが昔を思い出して、尋ねた。

 『しかも、闇系の呪文でも回復せんから、システムのリペア頼みだったのじゃが・・』

 現在はシステムは乗っ取られており、二人はそこから切り離されてしまっていた。


 『そこで、これじゃ・・召喚「ノーム・アーチザン」』

 するとコアルームの床に赤い魔法陣が出現し、中からゴーグルをかけて、ツールベストを着込んだ小人が現れた・・


 「おっと、ダンジョンに召喚されたみたいだぜ」

 『そうだよ、そこのボーン・ガーディアンにリペアの呪文を掛けておくれ』

 「へい、お安い御用ってね」


 お気楽に答えると、ノームはアーチャーとキャスターにリペア(修理)の呪文をかけた・・しかし・・

 「殆ど治らないぜ、こりゃ・・素材は骨だが、リビングドールやボーンゴーレムに近い感じだな・・」


 そう言うと、ノームはぺたぺたと二人を触りまくった。

 『知的探究心は置いといて、何か良い方法を知らないかい?』


 「そうだなあ・・やっぱりゴーレム用の中位修復呪文が必要かもな」

 『やはりそうか・・』

 「なんだよ、分かってんなら、俺に聞くなよ」

 『いや、スクロールはあるんじゃが、使い手がな・・』

 「ああ、なるほどな。けど俺じゃ無理だぜ。そもそも呪文レベルが高過ぎて覚えられねえし、使い捨てで無理矢理発動しても、成功確率は半分以下だな」


 スクロール(呪文の巻物)は、魔法処理をした羊皮紙やパピルスに、魔力を込めたインクで、呪文を転写した魔道具である。

 そのまま使い捨てで発動するのと、記憶している呪文リストを書き換える為の教材とする使用方法があった。使い捨ての発動では、術者のレベルが呪文の必要レベルに届いていなければ、失敗する可能性があり、書き換えにおいては、そもそも成功しない。

 失敗すればMPは消費してスクロールはロストしてしまう。さらに稀に暴発して被害が出ることもあるので、無理な発動は控えるように言われている。


 「俺より、そっちの姐ちゃんの方が可能性があるかもな」

 ノームは、ビビアンを指して言った。


 「え?アタシはソーサラーだから無理だってば・・」

 ビビアンは、ゴーレムうんぬんの呪文は基礎さえ習った事がなかった。


 「まあ、見るだけ見てみろよ、で、ブツはどこだい?」

 『宝物庫の中じゃ、場所はビビアンが知っておる・・』


 「まさか4年も経ってるのに、そのままとか言わないでしょうね・・」

 ビビアンは、自分が居たときの雑然とした宝物庫の中を思い出して、恐る恐る尋ねた。


 『当たり前じゃろう・・』

 「そうよね、エルマが片付けてくれたわよね・・」

 『4年間で稼いだ物が増えておるに決まっておる』

 「おい!」

 思わず突っ込むビビアンであった・・



 「それで・・扉のパスワードは?」

 『替えておらん・・』

 「はあ?セキュリティーが甘すぎない?・・まあ、いいわ、手間が省けて・・」


 そう言うと、ビビアンは宝物庫の扉に手を置いて、囁いた。


 「gone with wind...(風と共に去りぬ・・・)」


 すると、堅牢な扉が音も無くゆっくりと開き、ダンジョンの宝物がその姿を現した・・・

 まるで、それは発掘品の模造品を売る土産物屋か、盗品も扱う故買商の店内のようであった・・


 「相変わらず、ゴチャゴチャしてるわね・・」

 触れると呪いの掛かりそうな品々を、慎重に避けながら、奥の書棚に辿り着いた。

 そこには、禁書や魔道書と一緒に、スクロールを保管してあった・・


 「呪文レベルは・・確か4だったはず・・」

 一応、分類された引き出しを開けると・・(この整理もビビアンがやった・・)目当てのスクロールはすぐに見つかった。

 だが、その姿を追い求める、二つの瞳が存在した・・・


 『待て・・エルフの血を引きし娘よ・・』


 左の壁から、低い、唸り声が聞えた・・


 しかし、ビビアンは、まったく気にせずに通り過ぎて行った・・・ 

 

 『おい、ちょっとは人の話を聞け!』

 焦る壁の声は、完全に無視されていた。


 「ここで一々耳を傾けてたら、日が暮れるからね・・」

 宝物庫の整頓作業に慣れたビビアンには、呪いの仮面の扱いも手馴れたものだったのである・・


 『頼む!ワンチャンスでいいんだ、我輩にも見せ場を!』


 バタン!


 扉は無情にも閉じてしまった・・・


 『しくしく・・』


 呪いの翡翠の仮面の、むせび泣きは、外に漏れることはなかった・・・








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