心臓(ハート)を打ち抜く一撃
凍結湖、青水晶の間、葬列
「カタカタ(あんたらビビアンの冒険者仲間かなんかかい?)」
アーチャーが3人組に話しかけるが、もちろん通じるわけがなかった。
「なんか、あっちの骸骨軽戦士が、歯を打ち鳴らして威嚇してるさね・・」
「いや、あれは話掛けているのだと思う・・」
「俺としては、あの隅っこでボウっと突っ立てる骸骨シスターの方が気になるんだけどよ」
「カタカタ(まずいな、会話が通じていないようだ)」
「カタカタ(おいおい、どっちに味方するかわからねえって事かよ)」
「カタカタ(棺を庇ってくれたのだから、ダンジョンを護るという点については味方なのだがな・・)」
普通の冒険者なら、オーガー側を敵と見做す可能性が高かったが、ここがダンジョンだと知って協力してくれるなら、眷族と判断してくれるだろう。
叛乱側の15番も、乱入してきた人族の扱いに苦慮しているようだ。
『システムの再編に障害となる可能性・・74%・・協力者の可能性・・17%・・適合率のスキャンを開始・・』
すると3人組の足元に青い魔法陣が出現し、頭上へと上って行った。
「「「うおっ!」」」
『適合率・・0.3%・・0.2%・・0%・・・不適合者と認定・・除外する』
スペア・ガーディアンの矛先が、一斉に3人組に向いた。
「どうも馬鹿にされた気がするさね」
「何かを調べたのか?・・適合者をどうする気なんだ・・」
「やべえ、こっち向きやがった」
だが、それを好機と見た者もいた。
「今だ!ボコれ!ウガ」
「「「ウガー!」」
リーダーに率いられたオーガーチームが、腰まで水に浸かりながらスペア・ガーディアンに襲い掛かった。
「よし、取り合えずオーガーは味方で、地底湖に居るのが敵らしい・・」
「なら、ちょいと暴れてくるさね・・」
「だな、俺らが狙われているうちは、こっちは安全だろう・・」
3人組も、前線へと走りこんだ。
最前線はオーガーが猛威を振るっている為に、迂闊に飛び込むと巻き込まれそうである。
ハスキーはやや後方から弓で援護するが、後の二人は入り込む余地が無い・・
「だったら、こうだっ!」
スタッチが気合いを込めると、オーガーの背後へと駆け出した。すぐにソニアも後を追う・・
「その肩、借りるぜ!」
オーガーへの声掛けもそこそこに、上半身だけ水面から出して戦っているオーガーの肩に飛び乗った。
「ウガッ?!」
オーガーは驚くが、なんとか踏ん張って体勢を維持した。
「見えたぜ、お前が元凶か」
スタッチの視線の先には、スペア・ガーディアンの後方で指揮をとる15番の姿が見えた。
そしてそのまま、オーガーの肩を蹴って、15番へ斬りかかった。
「くらえっ、パワーアタック!」
「ウガッ?!(オイラを踏み台にした?!)」
スペア・ガーディアンの戦列を飛び越えて、スタッチの強打が15番の頭部に決まった・・だが・・
「効かないだと?!」
着地の事など考えずに、全体重をかけた強打が、ほとんどダメージを与えることなく、弾かれてしまった。まるで石か何かに切りつけた様な感触が伝わってきた。
「くそっ!強化魔法かよ!」
『やはり適合率0%・・愚かなり・・』
そのままスタッチは、15番の目の前で盛大な水しぶきを上げながら水面に落下した。
この場所は水深が3m以上あり、オーガーでさえ足が付かない。15番は呪文で浮遊していたのだ。
「ゴボゴボ(汚ねえぜ、術者かよ・・)」
慌てて泳ぎだすスタッチに、湖底から新たなスペア・ガーディアンが接近してきた・・・
『湖底の人族を優先して排除せよ・・』
配下に指示を出した15番に、水しぶきを突き破って、ソニアが踊りかかった。
「こっちが本命さね!ボーン・クラッシュ!!」
ボーン・サーペントをも屠った、スケルトン特効の一撃は、ボーン・ガーディアンにも絶大な効果を発揮した。
『ガアアアアア』
15番が絶叫をあげて倒れた。そのまま湖底へと沈んでいく・・
しかしソニアは渋い顔つきだった。
「手応えが浅い・・倒しきれなかったようさね・・」
15番が自分に付与していたストーンスキンの呪文が、ギリギリのところで即死を回避させたようだった。
追撃を考えたソニアだったが、スタッチを迎え撃とうとしたスペア・ガーディアンが、沈んでいく15番の周囲に集まり始めたのを見て、諦めた。
「ゴボゴボ(命拾いしたようだね・・だけど次はないさね・・)」
岸に向かって泳ぎながら、ソニアは呟いていた・・
指揮系統の乱れにより、スペア・ガーディアン達は、一時、湖底に集結した。
水中に居る相手に対して、有効的な攻撃方法をもたないダンジョン側も、一旦、棺の周囲に戻ってきた。
オババからの念話が届いたのは、このタイミングであった。
まず3番と12番の足元に魔法陣が出現し、二人はオババの眷属になることを承認した。
『二人とも、よく頑張ってくれたのう・・礼を言わせておくれ・・』
「もったいないお言葉です・・我等の力が及ばず、オババ様の憑依体を救うことが出来ませんでした・・」
『あ奴も長い間、働いてくれた・・後で弔いをせぬとな・・』
「おいおい、まだ終わっちゃいないんだぜ・・反乱分子の鎮圧も、黒幕への落とし前もよお・・」
『そうじゃったな・・7番、13番、18番の仇は取らねばな・・』
「ああ、倍返し、いや3倍返しは、しねえとな!」
気炎を上げるアーチャーを横目に、キャスターが冷静に尋ねた。
「オババ様、白檀の棺はいかがなされますか?」
出来るだけ早く、湖底に戻したいところだが、未だに反乱分子の勢力圏内である。彼等を排除しないことには、安心して棺を保管できなかった。
『ひとまず、コアルームへ運んでおくれ。そこに置いておくより安全じゃろう・・お前達も一緒に来るように・・多少ならリペアのあてもあるでな・・』
「「了解です」」
『オーガーリーダーは共通語が話せる・・冒険者との交渉は任せて良いぞ』
眷属になったので、オババとの会話は念話の自動翻訳機能で可能だ。だが、キャスター達が冒険者と会話できるようになったわけではないので、そこは一任するしかなかった。
そのオーガーリーダーと冒険者は、やっと意思疎通が出来て安堵していた。
「助っ人、感謝する、ウガ」
「ああ、よろしくな・・あと肩に乗ってすまなかったな・・」
スタッチが、踏み台にしたオーガーに謝ると、身振りで気にするなと返事があった。
さらに・・
「ウガウガ(2度目に飛んだ女戦士は、番いはいるのか?)」
と聞かれた。どうやらソニアの人族離れした一撃に惚れたらしい・・
「ウガウガウガ(あれは人族にしておくのは惜しい・・きっとオーガーの血が混じっているに違いない)
他のオーガーからも絶賛されていた。
「何か言われてるみたいだけど、やっぱり二人も乗ったのがまずかったさね?」
ソニアに尋ねられたが、それをそのまま答えるのは拙い様な気がしたオーガーリーダーは、お茶を濁した。
「見事な一撃だったと、皆、褒めてる、ウガ」
嘘は言っていなかった・・
巨人語が話せるので、オーガー語も少し聞き取れるハスキーは、オーガーリーダーの機転に感謝した。
オババの指示で、オーガー2体が棺を担いでコアルームへ運ぶことになった。キャスターとアーチャーはその警護として同道するが、あきらかに二人の消耗度を考えれば、戦線離脱である。
ゆっくりと洞窟を出て行く葬列を、3人と2体は見送るのであった・・・
『・・・ガーディアン・リペア・・ナンバー15・・・』
湖底で青い光が揺らめいていた・・・




