足掻いた刻がもたらしたもの
投稿が遅くなりました。申し訳ございません。
凍結湖、青水晶の間、残り時間わずか・・
「・・おい、キャスター、まだ呪文はいけるか?・・」
「・・かけて、あと1回、それも範囲は無理だな・・」
洞窟の中で棺を護りながら、ボロボロになった2体が、それでもまだ立ち向かっていた・・
青水晶の地底湖から、押し寄せるスペア・ガーディアンの軍団は、数を武器に何度も襲ってきた。
それを、アーチャーが前衛となり、キャスターが範囲攻撃魔法を放つことで撃退を繰り返した。
しかし、幾ら破壊しても、予備部品を組み合わせて復活するスペア・ガーディアンを、倒しきることはできなかった。
指揮官を倒そうにも、15番は最もコントロールシステムの中枢付近に居るために、範囲攻撃で狙うことが出来なかった。不安定になっているシステム自体にダメージが入れば、この洞窟ごと崩落する危険があったからである。
かと言って、接近戦や射撃武器では、手前に密集する雑兵が邪魔で狙うことができなかった・・
やがてキャスターの魔力が底をつき、メイスを手に前衛に出たあたりで、二人は負けを悟った・・
戦闘力だけなら、接近戦で複数を相手どってもなんとかなった。
スペア・ガーディアンは、魂が核になっていないので、スキルや呪文は使えない。ちょっと硬いスケルトンと戦っているようなものである。
しかし、それも無尽蔵の増援が現れるとなると、とたんに強敵になる。
崩れ落ちた味方の腕を引き抜いて、自分に装着している様子を目にすると、同じボーン・ガーディアンながら、鬼気迫るものを感じた。
「奴等は良いよな・・壊れた部分をポンポン、付け替えられてよ・・」
「なんならアーチャーも、挿げ替えてみたらどうだ・・もう、その左腕は使い物にならないだろう・・」
フロストワームの爆散で、左腕を破壊されたアーチャーは、ずっと片腕でスペア・ガーディアンの猛攻を凌いでいた。
「へへっ、セイバーの腕でもくっつけたら、勝手に盾受けしてくれるかもな・・」
「なんなら、ランサーの右腕と交換して、火炎魔法を試してみるか?・・」
「やめてくれ、両方右腕とか、悪役一直線じゃねえか・・」
軽口を叩いてはいるが、二人とも、もう立っているのがやっとであった・・
ガーディアン・システムのリペア(修復)が敵にしか働かない以上、回復力でも彼我の差が開く一方である。パーツの装着も、核がないスペアだから簡単に出来るのであって、生前の記憶を保持している二人にとっては、他人の肉体を移植されるようなものである。
戦闘中にどうこう出来るわけもなかった・・
二人の目の前で、スペア軍団が少し長め補給を終えていた。
こちらはボロボロでも、あちらは新品同様である。
「・・キャスター・・防御呪文を俺に掛けろ・・」
「・・どうする気だ・・」
「・・どうせ、次の波状攻撃は防ぎきれない・・俺が15番に突っ込む・・」
「・・無理だ、その足であの軍団の壁を突破できるわけがない・・」
キャスターが見下ろしたアーチャーの左足もまた、可動しなくなっていた。
「・・他に方法がねえ・・一か八かやってみるしか・・」
「・・だから突入役は私がやる・・」
キャスターが 最後の魔力を使って、自分に防御魔法を掛けた。
「・・おい!・・」
「・・アーチャーは、私の背後に潜んで、15番の不意をつけ・・」
「・・・結局、二人で特攻かよ・・ま、仕方ねえか・・」
二人は覚悟を決めた・・
「・・生き残った方がシステムに強制介入してコントロールを奪う・・いいな」
「・・ロスト(破棄)扱いにされてなきゃ、いいけどな・・」
「・・思い残した事は無いか?・・」
キャスターの問いかけに、アーチャーが答えた。
「・・有り過ぎて、一晩じゃ語り切れないぜ・・」
「・・なら、冥府でゆっくり聞いてやる・・」
スペア軍団に切り込みを掛けようとした二人の眼前に、突然、真っ赤な魔法陣が出現した。
「こいつは!?」
「召喚魔法!だが、誰が?!」
その答えは、魔法陣の中から出現した4体のオーガーが、二人と棺を護るように陣形を組んだ事で、判明した。
「「オババ様!!」」
オーガーの内の1体が、手にした巨大な棍棒で、敵を牽制しながら叫んだ。
「こっからは俺らが引き受けるぜ、ウガ」
そして配下の3体に呼びかけた。
「ウガウガ!(手前ら、抜かるんじゃねえぜ!)」
「「「ウガ!(へいっ!)」」」
そして巨大な棍棒で、近づくスペア・ガーディアンを粉砕し始めた。
「ウガッ!(パワーアタック!)」
渾身の力を込めて振り下ろす棍棒は、スペア・ガーディアンの頭蓋を粉々に打ち砕いた。
「ウガガッ!(ジャイアント・スイング!)」
周囲から一斉に襲ってくる場合は、棍棒の横薙ぎで、まとめて吹き飛ばす。
あっという間に、スペア軍団を水際まで押し返した。
『カタカタ(敵勢力の増大を確認・・敵の優先保護対象を集中攻撃せよ・・)』
15番が、形勢不利になったことを逸早く察知して、攻撃目標を変えてきた。
「カタカタ!(畜生!奴ら棺を狙ってやがる!)」
「カタカタ!(なんとしてでも防ぐんだ!)」
しかし、半数になったスペア・ガーディアンは、一斉にその左腕を投槍の要領で投擲してきた。
降り注ぐ二十数本の手槍から、棺を庇おうとしたアーチャーとキャスターであったが、全てを叩き落すのは無理であった。
二人の目の前で、白い棺に数本の手槍が突き刺さろうとした・・・
その時・・
「どりゃあああ」
スタッチが、盾を掲げて飛び込んで来ると、棺に向かって飛来してきた手槍の残りを、全て受け止めた。
「痛ってえーー」
何本かは身体に刺さったが・・・
さらにハスキーとソニアが洞窟へと走りこんできた。
「なんとか間に合ったか・・」
「随分沢山いるけど、全部敵だったりするさね?」
キャスター達にとっても、新たな侵入者の素性がわからず、困惑していた。
『カタカタ(人狼と戦っていた冒険者かよ・・漁夫の利でも狙ってやがるのか?)』
『カタ(いや、待て、泣き虫ビビアンの仲間かもしれん)』
『カタカタ(ん?えらく懐かしい名前が出たが、あいつ戻ってきたのかよ)』
『カタ(ああ、奇妙な精霊チームを引き連れて、コアルームを防衛しているはずだ)』
『カタカタ(おいおい、大丈夫かよ、コアルームごと焼き払ったりしないだろうな・・)』
『カタ(たぶん大丈夫・・・だと信じたい・・)』
今になって、自分の判断に自信が持てなくなったキャスターであった・・・




