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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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ある魔女の回想

大変遅くなりました。申し訳ございません。

 私はダンジョンコアの初期シリーズ、いわゆるダブルナンバーと呼ばれる90体のうちの一つ、コードネーム「魔女」と呼ばれていた個体である。


 シングルナンバーは、ダンジョンコアの機能の付与が優先された為に、開発中に殆どが人格崩壊を引き起こし、破棄されてしまった。その犠牲の元に、私達ダブルナンバーは、擬似人格というか属性なるものを付与されて生み出されていた。

 ダブルナンバーでも数字の若い者は、御伽噺からその題材が取られる事が多く、それが時が経つにつれ、小説や映画から発想を得たタイプが造られ、現在は萌えとか推しとか、訳のわからない文化の侵蝕を受けているらしい・・

 昨今のダンジョンコアの無軌道っぷりは目を覆うものがあり、ダンジョンマスターを第一に考えるべきダンジョンコアが、自分の趣味を優先してダンジョン管理をおざなりにするとか、うっかりで資産を台無しにするとか、有り得ない人格までが出現する始末である。

 極めつけは、ダンジョンマスターを独占したいあまり、その命を危険に晒してでも己への愛情を勝ち取ろうとする危険分子まで許可されていた。

 

 噂を聞きつけて、新人研修で性根を直そうと努力をしてみたが、それらの性格は、それぞれのダンジョンコアの人格に深く刻みこまれていて、うかつに修正しようとすると、人格崩壊することが判明した。

 どこの馬鹿が、こんな仕様を組み込んだかは知らないが、あきらかにダンジョンマスターへの嫌がらせである。しかも比較的まともな上層部に具申しても、多様化とか試練とか言い逃れをして、本気で改革に乗り出そうとしない・・

 結局は、彼らは同じ人格のダンジョンコアは造らないという規則に縛られていて、ネタに困ったにすぎないのだ。同一人格規制は、試みとして非常に似通った人格を複数のダンジョンコアに付与した実験が、失敗に終わった事に起因する。

 類似した人格を持つダンジョンコア同士が接触すると、お互いにシンパシーを感じて相互依存するか、同族嫌悪して交戦し始めた。どちらもダンジョン管理に重大な齟齬を生み出したので、それ以降、ダンジョンコアに付与する人格には、ある程度の差異が必要との規則が出来たのである。

 

 管理に齟齬が発生するからといって、管理に破綻が起きる要因を生み出していては本末転倒だと思えるが、後者は、問題のあるダンジョンコアを選択した候補生の責任を問えるので、黙認されているに違いない。

 そもそもイージーモードの候補生ならば、よほど奇妙な性格もしくは性癖をしていなければ、順当なパートナーが選ばれるわけで、問題のある人格のダンジョンコアは、溢れて閑職に回されることになる。

 閑職といってもダンジョンコアが就く職場は、ダンジョンの運営に大きく関わる場所であり、そこに問題児が居るということは、回り回ってダンジョン管理に支障が起きる。


 つまりこのまま何の手も打たなければ、いつかはダンジョンシステム自体が崩壊するというわけである・・


 その事に気がついている者は、ほんのひと握りで、しかもそれぞれ対応の仕方が異なっていた。

 ある者は、問題児を処分することにより、ダンジョンコアの質を上昇させようとしている。

 ある者は、ダンジョンコアを自立させて、問題の解消を図ろうと努力している。

 そして私は、徒弟制度として問題点の矯正を施そうとした・・成功しなかったが・・・


 私が成功しなかった理由としては、無理やり矯正しようとして弟子が情緒不安定になりかけたのと、私自身に時間が無くなったからである。

 まあ、時間を掛けても結局は矯正仕切れなかったかも知れないが、それでも少しずつ真面になっていっただけに、もう少し時間が取れればと後悔している・・


 だが、ダンジョンシステムの将来を憂いるより、差し迫った危機が訪れたのだ・・

 私の敬愛するマスターの身に・・・




 私とマスターの出会いは、運命とは言えない・・

 マスターは生前に、それなりのカルマを貯められるほど穏やかな性格をしていて、イージーモードでダンジョンマスターへの転生を選択した英国紳士だった。

 シャーロック・ホームズとホーンブロワーが大好きで、勤勉で古風なのに冒険好きという英国人独特のメンタリティーを持った、誰からも信頼される好男子で、私は彼のパートナーに選ばれたことを、あの上層部に感謝したぐらいである・・


 後に、親しくなった者に見せる、ちょっとした茶目っ気や、時として驚くようなサプライズを仕掛けてくるような所もあって、「魔女」と呼ばれていた私が選ばれたのは、それなりの理由があったのだと気づいたけれど、それを好ましいと思いこそすれ、マスターへの敬愛が薄まることなど無かった・・


 『私の名前はクラークだ、家名は転生する際に置いてきたから、ただのクラークで良いよ・・』

 『君の「魔女」というコードネームも刺激的で良いけれど、身内が呼ぶには余所余所しいね・・そうだ、最近見た映画のヒロインからとって、「スカーレット」はどうだろうか?・・』

 『え?あの映画を見た?自分はあんな尻軽女じゃないって?ははは、主演女優と同じ事を言うんだな・・でもね・・彼女はその後で思い直して、あのヒロインを演じ切ったんだよ・・君にもいつか、「スカーレット」の本当の強さが判るはずだ・・・』


 マスターのあの言葉は、もしかしたら予言だったのかも知れない・・

 大切な人を失っても、強く生きろという・・・



 あの本物の魔女と遭遇したのは、マスターと私が、この場所にダンジョンを築いてから10年の歳月が経った頃であった。

 順調に領域を拡大し、湖沼地帯にいる亜人を取り込み、ダンジョンとしては中堅所として認識もされ始めていた。故に、この地で昔から恐れられていた「冥底湖の魔女」とぶつかるのは避けられない事態ではあった。

 

 最初の遭遇は、眷属と守護者の戦闘であり、実りのない交渉の末に、全面戦争へと発展していった。

 結果は痛み分け・・双方に犠牲を出して、停戦となった・・

 それ以降、10年に渡って小競り合いを繰り返し、停戦しては理由を作って再び戦っていた。

 時には強大な外敵に対して共闘したこともあったし、二つの派閥にそれぞれ救援を頼まれ、異邦で敵同士になったこともあった。

 そんな腐れ縁ではあったが、マスターも冥底湖の魔女も、そんな関係を楽しんでいるように思えた。

 私は、そんな二人の様子を見ながら、馴れ馴れしい魔女を疎ましく思っていたが、それで何かをしようとなどとは考えなかった・・私はマスターに仕えるダンジョンコアであり、それ以上でも以下でも無いからである・・


 だが、魔女はそう考えなかった。

 私という偽物が居なければ、マスターは魔女を選ぶと本気で考えたのだ。


 いつもの小競り合いと思わせておいて、主力の守護者をマスター不在のコアルームに突撃させたのである。守護者達に命じられたのは、コアの破壊。お互いに馴れ合いで過ごした10年の月日が、コアルームの位置も、そこを守る罠の配置も、いまさら隠してもという雰囲気になっていたのは弁解にはならない・・


 ありったけのDPを使って召喚した眷属達も、守護者の連携に阻まれて次々に倒されていく・・マスターからは自分をコアルームに転送するよう指示があったが、この乱戦の中に呼び出すことなど出来はしない・・

 

 私が破壊されても、魔女はマスターの命は取らないだろう・・

 私の死が伝われば、新しいコアが派遣されることも有り得る・・

 それが、私の弟子の誰かで無いことを祈りつつ、目を閉じた・・・



 そして魔女が死んだ・・・



 両手を真っ赤に染めたマスターが、悲しげに微笑んでいた・・


 守護者は全てが機能を停止して、その場に凍りついたように立ち竦んでいた。

 彼らの命令者が絶命した以上、新たな指令があるまで、彼らはこのままだ・・


 魔女がこちらのコアルームの位置を知っていたように、こちらも守護者のコントロールルームの位置は知っていた。その頃にはお互いのダンジョンと支配領域が複雑に絡まって、どこまでが領域化されているのかわからなくなるほどだったのだ。


 

 青水晶の間で、継承の儀式をして、守護者を私の指揮下に置いた。

 眷属化するにはDPが足りなかったし、完全ではないとはいえ、継承者の私に逆らうことは出来ないはずなので、ゲスト認定で済ます事にした。

 その時になってダンジョンの各所から、地上警備の眷属達が様子を見に集まってきたが、魔女が攻めて来たので、返り討ちにしたとだけ伝えて、元の場所に戻した。


 マスターは、魔女の遺体を丁寧に荼毘に付し、湖の畔に墓を建てた。そしてその三日後に倒れた・・・




 




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