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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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損な役回り

  凍結湖、地下水道、鉄格子の前にて


 「よっしゃあ、点呼とるぜ、ジャー」

 ベニジャが再集合したメンバーに声を掛けた。急な水流の変化で、あちこちに流されたメンバーが、集合地点の鉄格子の前に集まってきていた。


 「シャー」

 「ケロ」

 「シャーシャー」

 「ケロケロ」

 「ケロロ」

 「シャシャーー」

 「ケプッ」


 「よし、全員揃ってるな、ジャー」

 「ワタリさん達は無事なんでしょうかぁ~」

 クロコの背中に張り付いていた、ルサールカのルカが、大蛙の口の中に待機していたスノーゴブリンチームを心配して言った。

 急流に揉まれた大蛙達は、かなりアクロバット的な軌道を描いて泳いでいたので、その口内もかなり手荒に揺れたと思ったからである。


 その声が聞えたのか、大蛙の口の隙間から3本の腕が差し出されOKサインを指で示している。どうやら大丈夫だったようだ・・


 「あれ~?4人居ませんでしたっけ?」

 「毘沙門、あ~ん」

 ベニジャに言われて、開いた大蛙の口の中は、空っぽだった・・


 「中に居たワタリはどうした?ジャー」

 「ケロ・・ケプッ・・」

 「うわっ、吐き出せ、吐き出せ、毒だぞ、きっと!ジャー」


 大蛙の腹の中から、胃液交じりのワタリが引きずり出されたのは、数分後であった・・


 「酷い目にあったっす・・」

 「水中呼吸の呪文が掛かっているので、お腹中でも窒息はしないはずです~」

 「その前に溶けるっすよ!」

 「毘沙門も食中毒にならずに良かったぜ、ジャー」

 「そっちの心配っすか!」

 ワタリが酷い目に遭うのは日常茶飯事なので、誰も気にしなかった・・



 「大量の水は、この向こうから流れ出した感じですね~」

 鉄格子の奥で何か変化があったようだが、ここから窺い知る事は出来なかった。

 

 「地震とか~、鉄砲水とか~、急がないと間に合わないかもしれませんねぇ~」

 「そりゃ、急ぎたいのは山々だけどよ、この邪魔な鉄格子をどうしたもんかね、ジャジャ」

 ベニジャが愚痴ると、それを誰かが聞いていたかのように、地下水道を遮っていた鉄格子が、天井に引き上げられていった。


 「すごいですベニジャさん、どうやったんですかぁ~」

 「いや、アタイは何もしてないんだけど・・ま、いいか・・道が開けたんだし、いくぜ!ジャー」


 「「シャーシャー」」

 「「ケロケロ」」


 罠であるとか、バトル委員会の警報が鳴るかもとか、一切気にせずに、ベニジャ率いる地下水道探索隊は、奥へ奥へと進んでいった・・・



 その頃、人狼傭兵団を無力化して、凍結湖ダンジョンの深部に潜入していたシーカーの3人は、罠に嵌っていた・・


 「早くしろ、長くは持たない・・」

 「無理、無理だって・・グエッ・・」

 「男なら泣き言を言う前に、筋肉に力を込めるさね・・」


 洞窟の中を、先を行く2体の骸骨守護者を追いかけていると、突然、足元の地面がパカリと開いた。


 「落とし穴だと!」

 先頭を走っていたハスキーは、踏み出した足が異常を感じた瞬間に、体重をかけずに、前方へ身体を投げ出すことで、落下を回避していた。

 しかし、そのすぐ後ろを走っていたソニアは、急停止することが出来ず、まともに穴に落ちていく・・

 それを見た最後尾のスタッチが、床に伏せながらソニアに叫んだ。


 「俺の手に掴まれ!」

 「あいよ!」

 

 咄嗟にさし伸ばされた腕を掴んだソニアだったが、落下の衝撃と体重を片手に受けたスタッチは、そのまま引きづられて一緒に落ちそうになった。

 

 「やばい、相棒!」

 「おう!」

 落とし穴の反対側から、壁を蹴ってジャンプしてきたハスキーが、落ちかけたスタッチの身体を捕まえて、ロープの様に引っ張った。


 「グエエエ」

 人が出してはいけない声をあげながら、スタッチは激痛に耐えた。その間にハスキーがソニアに穴の底の状況を尋ねる。 


 「底は見えないさね!!」


 落とし穴に落ちてしまったら、底に何があるのか叫ぶのがセオリーである。それによって、槍に突き刺されたのか、水に落ちたのか、モンスターが待ち構えていたのか、上に残ったメンバーが対応し易いからだ。

 けれども、底が見えないほど深いとなると、落ちてしまえば救出が難しくなる。


 「このまま引き上げるぞ・・」

 「無理無理」

 既に上半身が落とし穴にせり出しているスタッチは、人間ロープと化していた。ハスキーだけでは二人分の体重を支えるのは不可能である。


 「ソニア、上がってこい・・」

 「・・もつかね?」

 「どうでも良いから早くなんとかしてくれ!」

 スタッチの心からの叫びを聞いて、ソニアも決断した。


 「ちょっとキツイよ・・」

 そう言うと、腕の力だけで、スタッチの身体をよじ登り始めた。


 「ググッ・・ギ・・ギョ・・ギョエー」

 バーバリアンとして鍛えられた筋肉を持つソニアは、見事にスタッチを登りきったが、その並外れた体格を全身で支えていたスタッチは、口から泡を吹きながら気絶していた・・


 落し穴から脱出したソニアが、済まなそうにハスキーに謝った。

 「迷惑かけたさね・・」

 「その言葉は、こいつが目覚めたら言ってやってくれ・・」


 ハスキーの横には、白目を剥いたまま床に横たわるロープ・・もといスタッチが転がっていた・・



 「しかし、罠があちこちあるんじゃ、迂闊に進めないさね・・」

 「そうだな・・俺たちはこのダンジョンにとって、眷属でもゲストでもない、ただの侵入者だ・・ガーディアンなら説得も可能だが、罠は問答無用で殺しにくるだろうな・・」


 その時、ハスキーとソニアに、馴染みのある感覚が湧き上がった。

 「こいつは・・ゲスト認定の申請か?・・」


 あまりにもタイミングが良すぎて、罠を疑ったが、別行動のビビアンの件もあって、二人はその申請を受けた。


 「おい、相棒・・起きろ・・」

 気絶したままだとゲスト認定の申請を受理出来ないので、スタッチを起こそうとしたが、反応がなかった。


 「ちょいと手荒くするよ」

 「内臓は傷つけないようにな・・」

 「素人じゃないさね・・ふんっ!!」

 ソニアの正拳突きが、スタッチの鳩尾に決まった。


 「ゲハッ・・なんだ・・何が起きたんだ・・」

 気絶から回復したスタッチは、若干、記憶の混乱を起こしているらしい。説明するのも時間が惜しいので、用件だけ伝えた。


 「ダンジョンからゲスト申請が来ているはずだ・・受けてくれ・・」

 「・・ああ、なんだか分からんが、受けたぜ」


 「良し、これで罠は素通りできるはずだ・・行くぞ」

 「了解さね」

 「・・あ・ああ・・」


 3人は、ダンジョンの奥へと走り出して行った・・


 「・・肩と鳩尾がえらく痛いんだが、何があったか思い出せねえ・・」

 スタッチは首を捻りながら、二人の後を付いて行くのであった・・・




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