サンタが街(ダンジョン)にやって来た(完結編)
遅くなりました。申し訳ございません。
ダンジョンコアルーム(凍結湖救援隊司令部及び最北湖防衛隊指揮所)
コアの投影する最北湖周辺のマップには、クラウス本隊の予想位置と分離したボート部隊の現在位置が表示されていた。
本隊はボート小屋の周辺に、その騎乗用トナカイは、後方の林に繋がれているようだ。湖に漕ぎ出した2艘の小舟には、それぞれ2つの敵性反応が点灯している・・
「良くあんな怪しいボートに乗れるよね・・」
設置した僕が言うのもなんだけど、冒険者なら避けて通りそうな罠の臭いがすると思うけど・・
「彼らは冒険者ではなく、傭兵団に近いですから・・罠なら罠で食い破る自信があるのでしょう・・」
カジャが、マップを見ながら解説をしてくれた。
「まあ、無駄にならなくて良かったけどね・・」
「番人が居ませんが、出番待ちですか?」
仮面を被った斧男は、未だに姿を現さなかった・・
「DPが足りなくて、配置出来ませんでした・・」
「・・片手落ちですね・・」
どうやら密かにカジャも期待していたらしい。リザードマンは任侠やスプラッタが大好きだ。怖がりのベニジャでさえ、増殖するゾンビを無双する話には目を輝かせて聞き入っていた。
あの後、武器でチェーンソウを希望するメンバーが続出して困った記憶がある・・
13日の金曜日にしか出番のない不死の番人の代わりに、大量の骨を桟橋とボート小屋の下に埋めておいた。湖底には、ボーンサーペントの犠牲者らしき白骨死体が、綺麗に漂白されて幾つも沈んでいたからである。
なお、ロザリオ達が警備の合間に狩ったヘラジカも、肉だけ吸収してスケルトンの材料として残しておいた。これは周囲の林に隠してあって、逃走を図る敵を追撃する為の予備である。
4つ足のスケルトンは、思ったよりも早い。
これは試しにアニメイト・デッドを掛けてみたら判明した事実だが、将来は骸骨兵士の乗用にならないか検討中である・・鞍が無いと背骨だけでは振り落とされてしまうのだが・・・
『こんたくと』
コアの声でマップに意識を戻す。
ボート部隊が、湖の中程に設置した慰霊碑に気づいたらしい。石を積み上げたケルンの様な慰霊碑は、霧発生魔道具も兼用していた。慰霊碑の一部である石が、魔道具の礎になっているので、破壊するのに躊躇するはずだ。そして慰霊碑はアニメイト・デッドと相性が良い・・・
「オペレーション・ナイトメア・アフター・クリスマス発動!」
『はっぴーほりでー』
「カタカタ(ドクロ・リーダー了解・・全隊・・突入!)」
桟橋の下から、眠りから覚まされた骸骨兵士達が、蛮族の戦士達に群がっていく・・
「カタカタ(ズガイ・リーダー了解・・騎馬隊・・突入!)」
同時に、後方の林に潜んでいたズガイが、ヘラジカの白骨死体からスケルトン・ムースを召喚してトナカイを襲う・・
「カタカタ(スカル・リーダー了解・・水戦隊・・突入!)」
慰霊碑の基礎部分に掴まって、水中に身を潜めていた骸骨兵士達が、ボートの蛮族に奇襲を仕掛ける・・
慰霊碑のアンデッド召喚補正(中)の効果により、スカル・リーダーによって呼び出されたのは、6体のスケルトン・ファイターではなく、7体のスケルトン・ガンナー(R3)であった。
クロスボウの技能に特化した特殊弓兵は、ドワーフ特製の水中用クロスボウを装備している。本来はフロストリザードマンの為に開発された武器だったが、水中戦が久しく無かったので、運用試験として最北湖の骸骨部隊に配備されていた。ちなみに試作1号は「魔鱗」と名付けられた・・
水中でも威力を減衰させずに撃てるクロスボウ・・その凶悪な武装の最初の犠牲者は、ボートを漕ぐ二人の蛮族であった。
霧に煙る湖面から、突如として飛び出してきた7本のクロスボウボルトは、戦士の胸板を確実に捉えていた。
「「ゲハッ」」
敵襲を告げる間もなく、湖へと落水する戦士達・・そのうめき声と倒れ込んだ水音で、警戒していた見張りの二人も、異変に気がついた。
一人は直ぐ様、仲間を助けるために湖に飛び込み、一人は盾を構えて防御を固める。
しかし、水に飛び込んだ戦士は、仲間にたどり着く事もなく、体中に7本のボルトを突き立てられて、湖面を赤く染めながら沈んでいった・・
残った一人は、身を屈めながら脱出の機会を窺っていたが、その足元が水で濡れてきた。いつの間にか、小舟が浸水していたのだ。
このまま舟ごと沈むか、思い切って泳ぎだすか、迷った末にとった行動は、武器も盾もかなぐり捨てて、岸に向かって全力で泳ぎだす事であった・・・が、しかし、「魔鱗」の射程外に逃れる前に、無防備な腹部へ集中攻撃を受けて、絶命することになる・
後には、漕ぎ手の居なくなった小舟が2艘、霧の湖を漂っているだけであった・・・
それを目にしたクラウスは、部下を後方に下がらせて、たった1騎で湖畔に佇んだ。
「我が名はクラウス!人は我を太陽のクラウスと呼ぶ・・姿を顕せ!最北湖の主よ!!」
『主殿、一騎打ちのお誘いだ・・私が出ても構わないだろう?』
ロザリオが当然の如く申し出てきた。向こうは切羽詰って大将戦に持ち込みたがっているだけだから、こちらが馬鹿正直に受ける必要はないんだけどね・・しかも・・
「いや、でも向こうは騎兵だよね・・実質、2対1なような・・」
クラウスとの斬り合いならロザリオなら良い勝負になりそうだけど、あのトナカイも只者ではない雰囲気を持っている。かと言って、スケルトン軍団の助太刀では、サンバーストの餌食になるだけだ・・
「単騎になると戦い辛いって、さすが英雄だね・・」
『なら私にも相棒を送ってくれ・・』
あくまで一騎打ちに拘るロザリオは、騎乗用の眷属の転送を要請してきた。
とは言え、クロコ達は地下水道だし、五郎〇達も派遣中だ・・
ポチも居ないし、どうしようか・・・
その時、どこからか声がした・・・
『ギュギュ!』
クラウスは尚も叫び続ける。
「どうした、臆したか?!太陽神の加護を受けた、この俺に怯えて、負けを認めるというのだな!」
その声に答える様に、湖面に波紋が広がり、水中から1騎の騎獣兵が姿を現した。
上に乗るのは、銀の骸骨騎士・・それを乗せているのは・・
「穴熊だと・・・」
「ギュギュ!」
助っ人に現れたのは、出番の無かった穴熊チーム代表、マーボーであった・・
「我が名はロザリオ、主に代わってクラウスの挑戦を受ける者なり」
「良かろう・・代理騎士を討ち果たして、我が部族の勲にしてみせる・・」
そして、湖畔の戦いが幕を開けた。
「サンバースト!」
開始早々の大技スキルを、マーボーの素早い移動で回避したロザリオは、反撃のスキルを指示した。
「マーボー、縦回転だ!」
「ギュギュ!」
ビタン!!
高速で前転するマーボーと、水面に叩きつけられたロザリオに、一瞬、クラウスの動きが止まった。
「何をする気だ!?」
轢かれた蛙の様に泥に埋まる銀色の騎士に、思わず警戒するクラウスに、正面から高速のマーボーが突撃した。
しかしそれをレッドノーズが迎撃し、爪と剣角が火花を散らす。
「・・これを防ぐとは、貴様、出来るな・・」
何事も無かったように立ち上がり、クラウスを褒めるロザリオだったが、その前面は泥だらけである・・
「どうやら奇手を得意とするようだな・・」
クラウスが勝手にロザリオの失敗を、フェイントを混ぜたトリッキーな攻撃だと思い込んでいた。
「だが、次はない・・騎獣から降りた、お前の負けだ!」
レッドノーズの手綱を握り、クラウスが駆けてくる。
「浅はかな・・我らは騎乗していなくても強さは変わらぬ・・」
どちらかと言えば、乗っていない方が強いぐらいである・・
「マーボー!!」
「ギュギュギュ」
高速回転をしたまま、後方へ回り込んだマーボーは、ロザリオに向かって突撃するクラウスを挟み込む形で追撃した。
「成仏せいやああ!」
クラウスのモーニングスターが、ロザリオの頭に振り下ろされる。
「私はアンデッドではない!!」
ロザリオの盾が轟音を立てながら鉄球を弾き返した。
「ブルルルッッ」
レッドノーズの剣角が下からロザリオの足を切り上げる・・
「まだまだああ!」
右手のミスリルソードで剣角を叩き返す。
そこへ、マーボーが背後から襲いかかった。
「もらったあ!」
「レッドノーーズ!!」
ロザリオとクラウスの叫びが交錯する・・
よけられないはずの背後からのローリングクラッシュを、レッドノーズは跳躍して回避した。
鞍上に巨躯のクラウスを乗せたまま、5m以上もその場でジャンプしてみせた、レッドノーズの驚くべき跳躍力であった・・
目標を直前で見失ったマーボーはそのままロザリオに激突する・・・
だが、
「飛べええええ!!」
ロザリオはその盾を垂直に地面に突き立てると、己の躰を杭として、マーボーの全体重を支え切った。
「ギュギュギュ!!」
縦回転の勢いのまま、マーボーはその軌道を直上に変化して、レッドノーズへ追撃を掛けた。
「馬鹿な!!」
真下から来る攻撃を、受ける術も避ける術もクラウスには無かった。
マーボーのローリングクラッシュは、レッドノーズの前足を完全にへし折った。
なんとか着地したレッドノーズではあったが、前足が折れていては、立ち上がる事もできない。ただその場で、威嚇の声を上げるだけであった・・・
「レッドノーズ・・・」
未だに忠実に主を守ろうとするトナカイを見て、クラウスは敗北を認めた。
「銀の骸骨騎士よ、お前の勝ちだ・・」
無言で近寄る骸骨の騎士に、クラウスはその首を差し出した・・
ロザリオのミスリルソードが、2度、音を立てた・・
足元に、バイキングヘルムの片角と、剣角の片側が落ちた音が響く・・
「その命、主従の絆に免じて預けておく・・」
そう言い残すと、銀色の騎士は穴熊に乗って、湖へと戻って行った・・・
「忝ない・・」
クラウスは、一度だけ頭を下げると、両肩にレッドノーズの前足を背負って、湖畔で待つ部下の元へと帰っていった・・・
もし振り向いていれば、息が続かなくて溺れかけている穴熊の姿が見えたはずであったのだが・・・




