サンタが街(ダンジョン)にやって来た(後編)
後編で終わるはずでしたが、執筆する時間が足りませんでした。
加筆するか、完結編に分けるかしますので、もう少々お付き合いください。
クラウスは一旦、部隊を下げると、予備の2頭のトナカイを乗騎を失った4人のうちの二人に与えた。
乗り手がトナカイとの絆を確認する間に、今後の方策を検討する・・
「どうやって、主を誘き出すかだな・・」
流砂は、少し湖岸を回り込めば無くなった。どうやらあの場所に突入させる為の、骸骨兵士の配置だったらしい。敵の罠にむざむざ嵌ってしまった事を悔やむしかなかった・・
一泡吹かせてやりたい所だが、湖の底に潜られていると、手の出し様が無かった。
すると、愛騎を失った二人が、雪辱戦を願い出てきた。
「「族長、俺らが囮になります」」
クラウスは、じっと二人の顔を見つめると、深く頷いた。
「よかろう、だがどうやるのだ?・・」
そこへハーヴィーが口を挟む。
「あっちにボート小屋が見えたけど」
指を指した方角には、霧に隠れるように、古びた小屋が建っているのが見えた・・
「傾いた小屋と桟橋はあるが、肝心のボートがないが・・」
「族長、小屋の中に引き上げられたボートが3艘ありますぜ」
修理の為か、雨ざらしになるのを嫌ったのか、小屋の中には埃を被ったボートが伏せて並べられていた。
ボートは、漁師が良く使う小舟であり、艫に櫓を付けて漕ぐタイプであった。通常なら3・4人は乗れそうだが、屈強な戦士だと二人が限界というサイズである。
それを3艘とも運び出し、湖面に浮かべてみる。
1艘はすぐに水漏れして沈んでしまったが、残り2艘は思ったよりしっかりしていた。
最初は、一人ずつで漕ぎだそうとしたが、見張りも必要だろうということで、志願者を二人募って、コンビで漕ぎ出す事になった。
囮なのだから、襲われる前提である。
鎧は湖に投げ出された時に、重石になる。あっさり脱ぎ捨てて、上半身は裸になった。見張り兼護衛は、それでもモーニングスターと盾を装備しているが、漕ぎ手はそれさえも足元に置いてあるだけである。
小舟が破壊されたなら、泳いで戻る覚悟であった・・
クラウス達が見守る中、2艘は少し距離をとって進んで行く。大型の水棲生物が襲ってきた時に、一度に両方沈まない為の用心であった・・
「でも変なんだよね・・」
ハーヴィーがポツリと呟いた。
「漁師小屋らしいのに、ボート以外に手入れがされていない事か?」
クラウスが聞き返した。彼も壁に掛かった網や目印の浮きなどが、朽ち果てていたのが気にはなっていたのだ。
「それもそうだけど・・この湖には漁師が狙うような魚は一匹も棲んでいなかったような・・」
その呟きを切っ掛けにして、桟橋の下や、ボート小屋の床下から、一斉にスケルトンの軍勢が湧き上がって来た。
仲間のボートを凝視していた戦士達は不意をつかれて混乱する・・
「どこに居やがった!」
「次から次に湧いてきやがるぞ!」
「足を放しやがれ!」
狭い桟橋で乱戦になり、勢い余って落水する戦士もでた。
すると、水中に待機していた別のスケルトンが、わらわらと飛びかかってくる・・
桟橋にいる戦士は、鎖帷子を着込んでおり、そのままでは浮かび上がれない。慌てて脱ごうとする戦士の両腕に、スケルトンが絡みつく。
「ガボ、ガボボ(畜生、放しやがれ!)」
暴れて怒鳴れば、肺の中の空気はあっという間に無くなって、代わりに湖水が流れ込んでくる。
意識が途絶える直前に、蛮族の戦士が見たものは、水中でスケルトン部隊の指揮をとる骸骨古参戦士長の姿であった。
「カタカタ(アニメイト・デッド)」
水上では蛮族の戦士と、骸骨兵士の乱闘が続いていた。個体の力量では蛮族戦士が圧倒的に強い。それでも乱戦を継続できるのは、トナカイに乗っていないのと、この物量作戦が功を奏しているからであった。
事前に最北湖の湖底を浚って、集めておいた白骨に、遠距離からスキルを唱えてスケルトン・ファイターを召喚する戦法である。
直前までは、ただの死体であるし、目立たないように土もかけてあった。死霊探知や殺気感知にも反応しない。そして倒された兵士は、再び召喚の素材となる・・
「カタカタ(アニメイト・デッド)」
侵入者の長が使う光呪文を放たれたら、一気に全滅して、浄化された骨は素材に出来なくなる。だが、あの呪文はアンデッドに特に効果を発揮するが、人族に無害というわけでもない。
乱戦に持ち込めば、使うのに躊躇するだろうという指揮官殿の読みは、ここまで外れていない・・
そして乱戦を嫌がる侵入者が次にとる手は・・
「カタカタ(相手の撤退に合わせて、こちらも引くぞ・・逃げ遅れると呪文に巻き込まれるからな・・)」
配下のスケルトン・ファイター達に通達をする。
「カタカタ(そちらは任せたぞ・・ズガイ)」
ドクロリーダーは自分も安全距離をとる為に、湖底深くへと歩き出した・・・
「キリがない、岸まで戻れ!」
クラウスの指示が飛んだ。
襲撃してきたスケルトンは、倒しても倒しても復活してくる。戦士が水没すると、それに合わせて数を増やしているように錯覚するので、部下達が、仲間の成れの果てかと畏怖し始めているのも拙かった。
一旦、距離を取ってスキルで灰に戻す。
そう考えたクラウスだったが、部下が無理やり追いすがるスケルトンを振り払って、桟橋から撤退すると、スケルトンも湖水や小屋の床下に飛び込んで行く。
「俺のサンバーストを警戒しているのか・・」
あっという間に姿を消したスケルトンの軍団に、クラウスはスキルを放つタイミングを失ってしまった・・
「族長!後ろのトナカイが!!」
配下の戦士の叫びに、後方を振り返ると、そこではレッドノーズ達がヘラジカのスケルトンと戦っていた・・
「なんだ、ありゃあ・・」
「死霊の騎兵だ・・」
「まさか・・ブラックサンの軍団・・」
荒くれ者だが、信心深い蛮族の戦士達は、骸骨のヘラジカが、冥府の騎兵の乗馬に見えた・・
トナカイ達も、似た姿の骸骨には怯えて、戦意を無くしかけていた。
その中で、レッドノーズだけが、群れを守りながら戦っていた。
しかし、敵は、切り払っても、踏み潰しても直ぐに復活する。その異様な迫力に、木に縛られた手綱を引きちぎって、逃げ出すトナカイも現れた・・
しかし、逸れたトナカイの命運は定まっている・・
すぐに断末魔の鳴き声が響き渡り、数瞬後には、霧の向こうから、角の折れたトナカイに似た骸骨が、新たな敵として現れた・・・
それを契機に、トナカイがパニックを起こした。
レッドノーズ以外の全てのトナカイが、縛めを振り払って、一目散に逃げ出したのである。
「止めろ!宥めるんだ!」
クラウスの叫びで、我に帰った戦士達が、暴れトナカイを宥めようと、その背に飛びかかっていく。
しかし間に合わない何頭かは、少しでも骸骨鹿から離れようと、湖の方へと走り込んでいく。
「ピィーーーー」
運の悪いものは、流砂に飲み込まれて・・
さらに運の悪いものは、腰まで浸かって泳ごうとするところを、スケルトン・ファイターに切り刻まれて・・
トナカイは数を減らしていった・・
「レッド・ノーーズ!!」
クラウスの呼び声に、スケルトン・ムースの包囲網を、文字通り飛び越えて、レッドノーズは主人の元に駆け寄った。
「山吹色のサン・バースト!!」
他にトナカイが居ない事を確認すると、クラウスは必殺のスキルをヘラジカのスケルトンの群れに放った。
眩い光が収まると、そこには浄化されたヘラジカの白骨死体が転がっているだけであった・・
「これも陽動か・・しまった!」
手応えの無さから、雑魚しか倒せなかったと悟ったクラウスは、急いで湖畔に戻ってくるが、霧の向こうに見えたものは、誰も乗っていない2艘の小舟であった・・・




