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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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傭兵のお仕事

 突然、足元が揺れた。

 まるで地震のように、通路全体が大きく振動したのである。


 「トラップかよ?!」

 「広域大地系呪文かも知れないさね!」

 「いや、震源地はここではなく、もっと遠くだ・・」

 スタッチとソニアは急な展開に動揺していたが、ハスキーは冷静に、この振動の原因を突き止めようと集中していた。


 「カタカタ(新手の侵入者?!どういうことだ!)」

 「カタ(まずい・・青水晶の間が狙われた・・)」

 眷属全員に緊急連絡されたのは、青水晶の間に、新たな侵入者があったという事実だけであった。全てを伝えきる前に、オババの念話は途切れた・・


 そして、この機会を好機と捉えた二人が居た。

 「ウェラ!」

 「あいよ!」

 ヴォルフとウェラは、狼形態に変身すると、脱兎の如く駆け出した。


 咄嗟に剣で遮ろうとしたセイバーではあったが、両端に分かれた2頭の狼に惑わされ、突破を許してしまった。

 後衛のアーチャーが、小剣で切りつけるが、銀の短剣でない以上、傷をつけることさえ出来なかった・・


 即座に反応して狙いをつけたハスキーであったが、結局、追い討ちはせずに見逃した。

 「どうした、相棒、情けをかけたのか?」

 「奴らも傭兵なら、引き際は心得ているだろう・・」


  冒険者なら、最後の一人が目的を達成すれば依頼達成だが、傭兵は団員が全滅してしまっては後の活動が出来ない。違約金を払ってでも、次の仕事が出来るだけの戦力を維持する必要があった。

 それを考えれば、人狼傭兵団「月影」は、報酬では見合わないような損害を受けたが、全滅覚悟の玉砕攻撃をするほど愚かでもなかったようだ・・


 「それより、こいつらどうするさね」

 ソニアが取り残された団員を指して尋ねた。

 「俺たちが決めるわけにもいくまい・・」

 そう言ってハスキーはボーン・ガーディアンの方を向いたが、その時すでに二体の姿は通路の曲がり角に消えようとしていた。


 「早いな、おい!」

 スタッチが声を掛けても、そのまま奥へと走り去っていった・・・


 一瞬、顔を見合わせた3人だったが、こちらの素性も聞かずに走っていった事を思えば、彼等にとっての重大事が発生したことは間違いない。

 「追うぞ・・」

 ハスキーの一声で、3人も守護者を追って通路を走り始めた・・・



 その2体と3人を、横道で覗う4つの耳があった。

 瞳孔の光の反射を見とがめられない様に、目を閉じて、音と臭いだけを頼りに、じっと息を潜めている2体の獣がいた。

 急ぎ足で奥に向かう難敵をやり過ごして、ヴォルフとウェラは元の場所に戻ってきた。

 「・・ムーンライト・ビーム・・」

 小声で治癒効果もある呪文を掛けて、瀕死の団員を回復させる・・


 「3人はダメだった・・」

 「そうか・・」

 戦闘中にすでに息絶えていたのか、治療が間に合わなくて死に至ったのかは分からない。どちらにしろ、あの場で降伏する以外は、治癒呪文をかけることさえ出来なかったであろう・・

 だが、人族の冒険者はまだしも、ダンジョンの守護者がそれで納得する可能性は低かった。武装を解除してから死を宣告されたら、防ぎようがない。

 そう考えれば、あの地震は僥倖であった・・・


 「兄さん、あの地震は?」

 「わからん、俺が聞いたのは、蛙とミイラの同時侵攻だけだ・・どうやら雇い主は、まだ隠し玉を用意していたようだな・・」

 「アタシらは、陽動役かぁ・・」


 傭兵団の全戦力で遠征してきたが、生き残ったのは6人、しかも4人はストレングスの低下などで、すぐに戦列に復帰するのは無理であった。


 「敵戦力を読み間違えたな・・」

 ヴォルフが呟く。

 

 たとえダンジョンであろうと、雑魚が湧いてくる分には勝算があった。

 人狼ならば、その特殊な物理防御力と、俊敏な回避力で、実力以上の敵を屠り続ける事が出来る。

 ただし、魔法や状態異常、そして銀の武器を使われなければの話であった。

 傭兵団の誤算は、骸骨の守護者が思いの外、強かった事。そして人族の冒険者の乱入であった・・


 「あの様子では、このダンジョンに雇われた訳ではなさそうだが・・」

 あの男が言っていたのは、関係者がここ出身だというだけである。下手をすると、ダンジョンから侵入者として排除される可能性を無視して、ここまで潜り込んで来ているのだろう・・


 「ここは奴に免じて、引き下がるか・・」

 「兄さん、このまま尻尾巻いて逃げるのかよ!」

 ウェラの声が荒くなった。


 「とっくに損益限界点は、悪い方へ突破している・・これ以上の侵攻は無謀だ・・」

 「だけど・・」

 未だに渋るウェラに、ヴォルフは釘を刺した。


 「お前が気になるのは、仕事の成否ではなく、あの男の事だろう?・・」

 「ち、違うから・・」

 だが、その慌ててそっぽを向く仕草が、既にウェラの真意を現していた。


 「「・・アイツ、殺す・・」」

 ウェラ親衛隊の団員が、今はここにいない人族のレンジャーに殺意を向けた・・


 「兎に角、一旦地上に撤退する。地震が味方の仕業だと確証が持てない以上、それに合わせて浸透作戦を行うのは難しいからな・・」

 本音を言えば、信頼されていない雇用主に、これ以上の忠義を尽くすのが馬鹿らしくなった事もあった。


 「報酬分の役目は果たした。これよりは脱出を優先して地上を目指す!」

 「「おう!」」


 傭兵団「月影」は、戦死者を回収しつつ、撤退して行った・・・



 「・・アタイは諦めてないからね・・」


 銀の鏃をへし折って、半分の長さになった矢羽根を握り締めながら、ウェラは呟いてた。


 ヴォルフの耳には、その呟きは届いていたが、彼は何も言わなかった・・・




 





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