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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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大ガマ大戦

  凍結湖畔にて


 ビビアン達と別れた調査班・地上部隊は、祠から北上して凍結湖を目指した。

 元々が、凍結湖の異常を確認するのが主目的であったので、本来の任務に戻ったとも言える。

 熊に跨ったアイスオークが二人、その背中にエルフの小隊長とハイレンジャー、さらにハーフオークの肩に担がれたハーフナーガが付き従っている。


 「それで、あれが凍結湖とかいう湖らしいが、あのデカイ蛙は何だい?ブヒィ」

 チョヒが鞍上から、有り得ないほど巨大な角蛙を見て、背後の小隊長に尋ねた。


 「いや、こちらも情報がない。敵なのか、ただのぬしなのか・・」

 異変の元凶にしては、のんびりし過ぎている気もするのだが・・


 「あれはギガント・ホーンドトードでしゅ。北にはいないので、誰かが召喚したと思うでしゅ」

 グドンの肩から遠くを見ていたヘラが、角蛙の正体を一目で言い当てた。

 「知っているのか?ヘラ」

 小隊長が驚いて尋ねると、ヘラは恥ずかしそうに答えた。


 「ナーガ族の子供は、蛙図鑑を絵本の代わりにしゅるでしゅ・・」


 天敵側にも弛まぬ努力があるらしい・・・



 「召喚獣なら召喚者を倒せば、消えるはずだぜ、ブヒィ」

 キョウチョが周囲を見渡すが、それらしい術者は見つけられなかった。


 何故なら、同調召喚は携わった全ての術者が倒れなければ中断できないし、術者が送還したくなっても、全員分の魔力が必要になる。召喚者であるフロッグマンのうち、1/3が角蛙の暴走により死亡し、残りも散り散りになった今では、時間切れを待つ以外に穏便に送還する手立てが無かった。

 しかも無駄に魔力を込めた同調召喚で、8時間は術が持続する。


 無論その事を知らない調査班にとっては、あの巨大な角蛙は、見張り番として置かれた障害にしか見えなかった。小隊長が敵性勢力と判断して、戦闘体勢への移行を指示した。


 「とにかく居座られては調査も出来ない。一当たりして、出来れば湖から引き剥がしたい」

 「小隊長、オババの関係者という可能性はないですか?」

 ハイレンジャーが、ダンジョンバトルの規定を考慮して進言した。


 「ダンジョンが守りの為に呼び出したなら、完全な交戦状態になる前に警告が出るはずだ。その場合は、即座に撤退して様子を見る」

 「了解です」

 「あいよ、ブヒィ」

 「オデ、わかった」


 重斧騎獣兵の邪魔にならないように、エルフ二人は熊の背から降りて、弓に持ち替える。ヘラもグドンの肩から降りて、前衛との距離をとった。

 アイスオークの義姉妹とグドンが、先陣を切って角蛙に接近していく・・


 前衛が、突撃可能な距離まで接近したとき、ハイレンジャーが威嚇の矢を放った。


 それは角蛙の背中に当たり、注意を引くことに成功した。委員会からの警告もないことから、排除の対象として戦闘へと雪崩込む。


 「ギュロロロロ」


 低い、轟くような鳴き声を上げて、ギガントホーンドトードが、新たな餌に目を止めた。ゆっくりと向き直り・・・そして跳ねた。


 「回避!!」

 小隊長の叫びと同時に、前衛が散開する。その頭上から巨大な質量の塊が降ってきた・・


 「きたきたきた、大物だぜえ、ブヒィ」

 「ぞくぞくするぜ、こいつはアタイ達が倒す、ブヒィ」

 回避は熊達に任せて、チョヒとキョウチョは鞍上から、落下してくる巨大角蛙を迎撃した。


 「おらおら、くらえアイスシャープ!ブヒィ」

 チョヒの両手斧が冷気に包まれてその鋭さと威力を増した。そのままの勢いで、振り下ろされる大木の様な角蛙の前足に叩きつけた。

 しかし角蛙のぶ厚い表皮に弾かれて、薄く表面を切ったに過ぎなかった・・


 それを視界の隅に収めたキョウチョは、投げようとした手斧を腰の鞘に戻した。

 「アタイの手斧じゃ、ちと分が悪いぜ、ここはアキに期待だぜ、ビースト・エンハンス(獣強化)!」

 キョウチョは、騎乗熊の首筋に手をかざして、筋力・体力の増強呪文を唱えた。


 「ガウガウガウ」

 付与呪文を受けたアキは、委細承知とばかりに、一度、角蛙の制圧圏から離れていく・・


 

 他の二人に比べて、機動力のないグドンは、まともに角蛙の下敷きになった。


 「グドン!!」

 ヘラの叫びが湖に木霊する・・


 それに応えるかのように、角蛙の前足が、下から持ち上げられていった・・

 「オデ、頑張る、オデ、負けない・・」

 盾を掲げて頭部を庇い、全身の筋力を使って徐々に徐々に、巨大角蛙の前足を押し上げていく・・


 これには、さしもの角蛙もギョッとして、潰れない餌を不可思議な物を見るように凝視していた。


 「オラアアア」

 掛け声とともに前足の下から抜け出すと、グドンはそのまま戦斧で角蛙の腹に斬りつけた。

 手足よりも表皮の薄い腹は、角蛙の弱点であり、グドンの戦斧は傷口を広げていった。


 「ギュロロロ!」

 初めて怒りを顕にした角蛙は、その長い舌で小癪な虫を捉えようと腹の下へと伸ばす・・


 「今だ、狙え、撃て!」

 小隊長に合わせて、ハイレンジャーも弓を放つ。

 「シャープシュート!」


 2本の矢が、だらりと垂れ下がった舌に突き刺さり、角蛙はチクッとした痛みに、慌てて舌を巻き戻した。


 グドンの勇戦を目の当たりにして、チョヒも発奮する。

「木偶の坊にしてはやるね、こっちも負けてられないよ、ブヒィ」

 ハルを誘導して、角蛙の腹へと潜り込み、鞍上から飛び降りると、その両手斧を縦横無尽に振り回す。

 身軽になったハルも、その場で立ち上がり、その牙と爪を、青白い角蛙の腹に突きたて、食いちぎっていく。


 感じた事のない痛みにイラついた角蛙は、腹の下の虫達を押しつぶそうと、ヨタヨタと前進してきた。


 「そんな鈍くて、アタイが潰せるかっていうんだよ!ブヒィブヒィ」

 豪快なステップで、距離を取りながらチョヒは斧を振り続ける。


 「受けて斬る、受けて斬るだで・・」

 グドンは、愚直に基本の盾受けと戦斧の反撃を繰り返していた。盾受けでは角蛙の前進は止まらないが、反動でグドン自身が押し返される。その為に腹の下に巻き込まれる事を回避できていた。


 「ガウガウ、ガウガウ」

 ハルは、四足歩行に戻って、走り回りながら、腹に食いついている。あまり深く噛み付くと、そのまま腹の下に巻き込まれるので、多少は加減しているようであった。


 業を煮やした角蛙が、再び跳躍して、腹の下の虫を潰そうと構えた時、正面から突撃してくる鼠を見つけた。

 

 「ベアチャーージーー!!」

 助走の距離を取って折り返してきた、キョウチョとアキである。

 その勢いに何かを感じ取ったのか、角蛙が大口を開けて舌で迎撃体制をとった。

 

 「援護しろ!」

 「ラジャー!」

 後衛から矢が放たれるが、角蛙も多少の痛みでは驚かなくなっていた。


 絶対に外さない距離まで近寄らせてから、舌で絡めとり、身動きできない鼠に、角を振り下ろす必殺のコンボを炸裂させる・・角蛙の小さい脳内では、息絶えた鼠の咀嚼音までが鳴り響いていた・・


 「ところがどっこい、ホワイトアウト!」

 アキの鞍上で、キョウチョが広範囲目くらましのスキルを発動させた。

 一瞬にして周囲が雪煙に包まれ、敵の視界を完全に遮った。


 「ギュロロ?」

 慌てて舌を繰り出すが、雪煙とともにコースを変更していた重斧騎獣兵には届かない。

 キョウチョとアキは、速度を殺さずに、角蛙の腹部へと突撃した。


 ズドン という音が湖畔に響き渡った・・


 角蛙の腹部には、両手の爪と牙をめりこませたアキと、両手に構えたトマホークを、双角のように掲げて突き立てたキョウチョが動きを止めていた。


 ギガントホーンドトードの両目がギロリと、腹の下に居る蠍に向けられた。

 そのままグルンと白目に変わり、やがて力を失って、地響きとともに地面に崩れ落ちた・・・



 

 「ふいー、ちょいとヤバかったぜ、ブヒィ」

 角蛙の死体から這いずりだしてきたキョウチョが、手斧を鞘に戻しながら呟いた。


 「美味しいとこ、持って行きやがって、ブヒィ」

 自分で止めが刺せなかった事を悔しがるチョヒであった。


 「オデ、役に立っただか?」

 「グドンは立派な盾だったでしゅよ・・」

 今回、最も怪我が酷かったグドンは、ヘラに手厚い看護を受けていた。


 「周囲に敵性勢力はありません。ただし多数の水棲亜人が走り回った痕跡が残っています」

 ハイレンジャーの報告に、小隊長は頷いた。

 「そいつらが、このデカ物を召喚したが、扱いきれなくて逃げ出したとみて良さそうだな・・」

 

 「それと、湖畔に奇妙な死体が・・」

 「奇妙?この角蛙に潰されたのではないのか?」

 「そうなんですが、立派な三叉矛を持った、水の精霊のようでして・・」

 「どこかで聞いたような記憶があるな・・あとで武器だけでも回収しておくか・・」


 小隊長は、ヴォジャノーイの生態を良く知らなかった。

 知っていれば、それが水棲生物を操る中級の精霊であり、そんなに簡単に死ぬことがないと気づいていたに違いなかった。

 ここには精霊も、それに詳しい人物も居なかった為に、誰もそれを指摘出来なかった・・・



 「・・・かあちゃんに会うまで・・俺は死にましぇん・・・」





  

 








 




 


 

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