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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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月光の巫女

 瞬時に4人の配下を殺されたヴォルフの、殺気が膨れ上がっていく。

 「貴様、何をした・・」


 幾ら銀の短剣を振るったとしても、頑健な人狼を秒殺するのは難しい。それを、ほぼ同時に4人を仕留める事など、ヴォルフ自身にも不可能だった。


 「カタ(笑止・・)」

 敵に自らの秘技を教える馬鹿などいない・・落とし穴の底で、グールと共に潜んでいたアサシンこと13番が短く答えた。


 「喋る気がないのなら、無理にでも暴き出してやる・・」

 間合いを詰めようとするヴォルフの両脇から、部下の人狼達が飛び出していった。


 「雑魚は俺らが相手しておくぜ」

 「仲間の仇、とらせてもらう!」

 「ヒャッハーー」


 それほど広くない落とし穴の中に、狼形態の人狼が3体、グールに乱戦を挑んでいく。

 罠に嵌められて混乱していた先の4人は別として、正体が分かっているグールでは人狼の敵には成りえない。不気味な骸骨守護者に接近しないように、高速で移動しながらグールを削り倒していく。


 3体のグールが咬み殺されたとき、13番が動いた。


 「カタカタ・・(奥義ダークミスト)」

 その途端、落とし穴の底にある小部屋が、全て闇で包まれた。


 「げげっ!真っ暗で何も見えねえ!」

 「なぜだ、この目は闇夜も見通すはずだ!」

 「臭いもダメだ、畜生、どこに居やがる!」


 13番のスキルで発動した闇魔法は、敵の感覚を遮断し、味方の存在を隠蔽する広範囲呪文である。

 鋭敏な視覚、聴覚、嗅覚を備えた人狼にとって、それを奪われる事は、手足を捥がれたにも等しい。


 その混乱を突いて、3体のグールとアサシンが動いた。


 このスキルの厄介な点は、アサシンが味方と判断する者には影響を及ぼさないという所だ。

 穴の底でウロウロする人狼に、一斉に飛びかかり、麻痺した敵から順にアサシンが止めを刺していく。


 生前の13番がアサシンとして身につけた特殊技能に、アサシネート(即死)があった。

 意識不明もしくは行動不能状態にある敵への攻撃は、全てクリティカルヒットになる。そして、アサシネートの一撃には、アサシンとしてのレベルがダメージに上乗せされる。

 盗賊特技のバックスタッブ(後背撃)と合わせて、その威力は一撃で人狼を屠るほどであった。


 「ゲハッ」 「グハッ」 「アベシッ」


 3つの呻き声が聞こえたあと、穴の底は静かになった・・


 しかし、未だにダークミストの効果は継続されており、通路の中央に暗闇のプールができている様な状態であった。迂闊に飛び込めば、3体と同じ運命を辿ることになる・・


 戦闘は膠着したかに見えた・・・



 「我らが守護たる月の女神よ、その冷たき光で敵を暴き出し給え・・ムーンライト・ビーム!(月光の柱)」

 ダンジョンに朗々とした女性の声が響き、差し込むはずのない、青白い月明かりが、光の柱となって天井から降り注いだ。


 その効果は劇的で、ダークミストを打ち払い、穴の底にいたグールを、纏めて消し去った。

 「「「グギャアア」」」


 ムーンライト・ビームは、暗闇を打ち払う光魔法であり、アンデッドを浄化する聖魔法の効果も付属している。さらに人獣に対しては、治癒効果も期待できた。ただし、強制的に獣化するというデメリットもある。

 グールが消滅した割には、13番への効果が薄かったのは、呪文がアンデッド特効だからであろう。


 だが、壁となるグールが全滅し、目隠しとなるダークミストが消え去った時に、アサシンの命運も定まった・・


 黒い暴風が、穴の底に飛び込んで行くと、激しい剣戟の音が響き渡った。

 しかし、よく聞けば、それは剣と剣を打ち合わせる音ではなく、一方的に押し込まれるアサシンが、傷だらけになりながら、短剣で受け流している音であった。


 銀の短剣では、武器受けの防御力も高が知れていた。

 しかし、竜巻のように振り回される大剣は、見切りなどして回避を試みても、そのまま切先か根元で切り倒されそうな攻撃範囲を持っていた。

 アサシンは否応もなく手にした短剣で受ける事になるが、真面まともに受ければ即座にへし折られる。懸命に刃先を合わせて大剣を受け流した。

 その結果、避けきれない分がアサシンの身を削っていく・・


 「カタカタ(おい、ヤベエぞ、逃げろアサシン!)」

 通路の奥から経過を見守っていたアーチャーが、あっという間の逆転劇に、撤退を促す。


 しかし、アサシンは一言、

 「カタ(死中に・・)」

 と呟いただけであった。


 「まだ、奥の手がありそうだが、それは出させんよ!」

 アサシンを追い詰めながらも、冷静にその挙動を伺っていたヴォルフは、必殺のスキルを発動させた。


 「ハイパー・スラッシュ!(烈空斬)」

 防御を無視した全力の一撃が、アサシンの頭上に振り下ろされる・・・


 「カタカタ(ダークシフト《闇転移》!)」

 ヴォルフの奥義を待っていたかのように、アサシンの足元に漆黒の円陣が出現し、その身体が急速に吸い込まれていく。

 そのままヴォルフの背後に転移し、攻撃に全てを傾けた背中に、必殺の一撃を送り込む・・・はずだった・・


 「闇魔法は禁止だぜ」

 ウェラの唱えたムーンライトビームは、未だに効果が持続していた。精神集中型の、持続系呪文であったのだ。


 アサシンは膝まで闇に沈んだまま、ヴォルフの一撃を脳天に受けることになった。

 「カタ(無念・・)」


 大剣はアサシンの頭蓋骨から延髄、さらに背骨から骨盤までを縦割りに切り裂いて、地面に半分ほど埋まることで止まった。


 魂の器としての骨格が、完全に破壊されてしまったことを見届けたアーチャーは、踵を返して通路の奥へと走り去った。

 何人かの人狼が後を追おうとしたが、罠に阻まれて、一旦、追跡を断念した。


 何より指揮を執るべきヴォルフが、その機能を果たしていなかったから・・


 「やっぱ、兄ちゃんでも30秒が限界かあ・・」

 

 そこには月光を浴びて狼形態に強制獣化したヴォルフが、大剣を放り出して、遠吠えをする姿があった・・・




 通路を走りながら、アーチャーは呟く・・

 「畜生、なんだよ、アサシンの奴、あれじゃあ噛ませ犬じゃねえか・・」

 近接戦闘力では、守護者の中でも1・2を争うアサシンが撃破されたことに、アーチャーは衝撃を受けていた。彼がオババの元で働き始めてから、守護者がロストしたのは初めてであった。


 「こいつは本格的にヤベエぜ・・他の奴らは無事だろうな・・」

 アーチャーは、他の守護者の安否を気遣いながら、反撃の策を練る。


 「アイツには生半可な防御力じゃ通用しねえ・・それこそ、セイバーか27番辺りをぶつけるしか止めようがねえ・・」

 しかし、オババ本人と青水晶の間を守る27番を引き抜くわけにもいかなかった。


 「こうなりゃ、セイバーに期待するしかねえな・・どうせ奴らは俺の後を追ってくるはずだ・・合流して叩く!」

 

 アーチャーの手には、ボロボロになった銀の短剣が握られていた。

 大剣を受けきれないと判断したアサシンが、最後の瞬間にアーチャーに向かって投げつけて来たのだ・・


 「お前の仇は俺がとるぜ・・」

 アーチャーは、短剣にそっと誓った・・・




 

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