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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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家出娘の帰宅

 調査班の地上部隊は、三日月湖から凍結湖へ続く獣道を南下していた。

 部隊構成は、熊3、豚人3、樹人3、狼5、半豚人1、半蛇人1、一角獣、妖精竜、死神と、正に百鬼夜行の様相を呈していた。


 何故、こんな編成になったかと言えば、皆が暇していたとしか言いようが無かった・・・


 まず、第一機動部隊が帰還していないので、主に陸上を移動する部隊が重斧騎獣兵しか居なかったのは、問題ない。その為の予備兵力なのだから。


 「やっと出番が来たぜ、ブヒィ」

 「ただ飯も美味いけど、少しは働かないとな、ブヒィ」

 「オラは残って羊を待ちたかったんだども・・」


 熊騎兵には、もう一人が相乗り出来るので、索敵と部隊指揮の為に、ツンドラエルフ親衛隊から、小隊長とハイレンジャーが二人選ばれた。

 クマに跨がれるというので、ここでも熾烈なメンバー争いがあったらしい。


 「治療班が同行してくれたので助かった。クレリックの枠が空いたからな」

 「我々はテオを含めて3人でくじ引きでしたからね」

 「当たりクジを引けてよかった・・モフモフですね・・」


 地上を広域索敵するなら狼チームの出番なので、これも順当と言える。

 5頭揃っての行動は久しぶりなので、リーダーのケン以下、張り切って出動していった。


 「バウバウ」

 「バウ」x4


 今回は、それにプラスして、ハーフナーガのヘラとハーフオークのグドンが参加していた。

 理由は、ユニコーンのニコのお供である。

 ニコは、冒険者などに見つかると騒ぎになるので、出来るだけ人目につかないように暮らしていた。しかしダンジョンでの生活にも慣れ、身体も成長してくると、屋外で思い切り、駆け回りたくなったらしい。

 おねだりされて困ったヘラが、相談してきたので、調査班に同行を許可した。


 まあ、ニコはゲスト精霊なので、縛り付ける事も出来ない。

 最終的には、気に入らなければ、プイッと居なくなってしまうこともあるだろう・・


 ストレスが少しでも軽減するなら、たまの遠征も良いかも知れない。

 ついていくヘラとグドンは大変だろうけども・・


 「グドンだけ歩きで、ごめんなしゃい・・」

 「オデは平気だで・・」

 「ヒヒィン」


 そして何故か、ニコの頭の上に、フェアリードラゴンのラムダが、グドンの背負子の上に、レッサーデスのデスが乗っていた・・

 ラムダは日頃から何を考えているか、わからないので、気まぐれなのだと思う。

 デスは、リクルート活動だと言っていた・・


 「・・・・」

 「日差しが強いデスね・・日傘を持ってくれば良かったデス・・」



 そんな混沌カオスな一行と羊飼いが出会ったのは、ただの偶然であった。


 最初に気がついたのケン達であった。

 「バウバウ」


 「索敵班が何か見つけたらしいな・・全隊停止!」

 「敵なら直ぐに降りてくれよ、こいつらは戦闘になったら立ち上がるからな、ブヒィ」

 「ガウガウ」

 

 熊騎兵は、騎乗したまま突撃するより、騎手と熊が並んで戦うことを好む。突撃するのは、相手との距離を一瞬で詰めたい時である。

 前に立つ斧使いに、覆い被さるように熊が後ろに立ち、その頭上から爪を振るうのである。

 斧使いは、熊の弱点となる下腹部をガードしつつ、敵が上からの攻撃に気を取られている隙に、足を狙うのが、基本であった。


 しかしケン達の吠え声は、緊迫感を伴っておらず、直ぐに戦闘にはなりそうもなかった。

 やがて、他のメンバーにも、賑やかな鳴き声が聞こえてきた。


 「メエ~~」 「メエ~~」 「メエエ~~」


 「羊の群れだ・・山羊も混じっとるだな・・」

 アイスオークで牧畜の技能持ちであるチョマカには、鳴き声で区別がつくらしい。

 「あれだ、買い付けを頼んだ商人だろうぜ、ブヒィ」

 「チョヒ義姉さん、アイツらは本職の冒険者だっていう話だぜ、ブヒィ」

 「ならなんで、羊の買い付けなんか受けたんだよ、ブヒィ」

 「そりゃあ・・なんでだろうな、ブヒィ」

 難しい事は分からない、チョヒとキョチョであった。


 

 調査班の熊と狼に、羊達が怯える場面もあったが、どうにか合流を果たした。

 「で、ダンジョンの、しかも濃いメンバーがこんなとこで、何してるんだよ?」

 スタッチが、物珍しそうに初見の眷属を見回していた。


 「ああ、この先の凍結湖に用事があってね・・メンバーの慰安も兼ねて、といった所かな・・」

 小隊長が当たり障りのない返事をした。その間も、防御円陣を組む羊達に、目は釘付けである。


 「凍結湖ねえ、そういやアイツらもそっち方面に向かってたさね・・」

 ソニアの何気ない呟きに、小隊長が反応した。

 「どんな連中だった?知り合いかい?」


 「いや、羊の群れを目当てに強請をかけてきた傭兵団だ・・『月影』とか名乗っていたが、見ない顔だったな・・」

 ハスキーも、話がどう転ぶか分からなかったので、人狼云々は口にしなかった。


 「・・ねえ、凍結湖に何かあったの?」

 それまで黙っていたビビアンが、静かに尋ねた。

 大きな声を出すと、周りの羊が怯えてパニックになりそうだったからである・・


 小隊長は少し悩んだが、先の傭兵の情報も欲しかったので、一連の異常を伝える事にした。

 それに呼応してハスキーからも詳しい情報が渡される。


 「水位の低下と水温の上昇か・・湖面の氷が溶けるとどうなるんだ?・・」

 「人狼の傭兵を動かして、無人の居住地を攻める?・・」

 首をひねる二人に、ビビアンが呟いた。


 「氷が溶けると、入口が開くわ・・」

 全員の視線がビビアンに集まった。


 「傭兵の目的は、フロストリザードマンではなく、オババのダンジョンね・・」


 「おい、ビビアン、そんな情報どこから・・」

 スタッチの突っ込みを無視して、ビビアンは小隊長に掛け合った。


 「ねえ、その調査にアタシも加えて欲しいの!」

 「え、いや、どうなんだろう・・戦力としては有難いが・・」

 戸惑う小隊長に、ビビアンが詰め寄る。


 「ねえ、良いでしょ!羊はここでアンタ達に引き渡すから、これで契約は果たしたわよね!」


 「ビビアン、どうした?勝手に契約は変更できないぞ・・」

 「ハスキーも頼んでよ、ここまで来れば届けたも同然でしょ!」

 

 『とぅっとぅるー』


 そこへ対策本部から遠話が届いた。見ていた様なタイミングだが、両者が合流してから随分時間がたっていた。既に地下水路部隊は、凍結湖に着いていてもおかしくない。

 催促の遠話だと思って、小隊長は慌てて反応した。


 「はい、こちら地上部隊、申し訳ありません、行軍途中で情報収集をしておりました・・」

 『それはいいけど、地下水路部隊が膠着状態になったんだ。そっちに凍結湖の地上部分を観測して欲しいんだけど・・』

 ほっとして、小隊長は返答した。


 「直ぐに向かいます。それで・・途中で例の『かも・・』いえ4人組の冒険者と出会ったのですが・・」

 人狼の傭兵団と、ビビアンの参加要請の件を伝えた。


 『まずいな・・オババの反応が無いのは、嫌がらせだと思ってたけど、こっちに構っている暇がないのかも・・』

 「それは、凍結湖のダンジョンが襲撃を受けているということですか?!」

 思わず声に出してしまった小隊長に、ビビアンが食ってかかる。


 「そこにダンジョンマスターが居るんでしょ!ねえ、許可を出してよ・・お願い・・・」



 「え?なんだって?彼女に伝えれば良いのデスか?それなら直接言えば良いデスよ」

 突然、デスが独り言を呟き始めた。どうやら死者の声を聞いていたらしい。

 そして闇魔法を唱えた。


 辺りが急に薄暗くなり、寒気がした・・

 ビビアンの前に、ぼんやりとしたメイドの姿が浮かび上がる・・


 「エルマ・・」

 ビビアンの呟きに、半透明のメイドが頷いた。


 『・・ご主人様から許しを得ました・・ビビアン、私の代わりにオババ様のお側に・・』


 「・・うん・・任せて、久しぶりに、あのシワクチャ婆さんの顔を拝みに行って来るから!」





 

 

 

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