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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第2章 女帝編
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濡れた手で触るのは

 昼なお暗い針葉樹林の中を二人の旅人が歩いていた。

 前を行くのはローブを羽織りフードで頭を覆った戦士のようだ。なぜなら身長に比して屈強そうな肩の張り出し、そして油断のない足運び。なにより背中に巨大な剣を背負っているのがその証拠であろう。

 後ろに続くのは少し小柄な人物で、戦士というより術士なのかも知れない。こちらもローブとフードで全体をカバーしているので、正体はわからない。

 二人は何かに導かれるように森の中を進んでいった。


 突然、後ろの人物が立ち止まり、右手を水平にかざす。

 伸ばした手は華奢で、中指に真珠の指輪をはめている。どうやら女性のようだ。


 「止まってゴブシロウ。反応が左に移動したわ」

 「御意」


 会話の内容からして後ろの女性が地位が高く、前の戦士がそれに仕える護衛もしくは騎士なのだろう。

 二人はなにごとか話し合うと進む先を左方向に変えて、再び歩き出した。


 災いは近づいている、ただ彼らはそれを知らない・・・



 なので湖で釣りをしていた。


 「入れ食いっすね」

 「魚がすれてないからね」

 「ギャギャッ!(ヒット!)」

 「ギャギャギャ(こちらも)」

 「うぉ、すごい曳きっす」

 「確かにすごいね、竿のしなりが段違いだ」

 「ぐぐぐ、逆に引っ張られてるっす。ヘルプ!ヘルプ!」

 「あ、本格的にやばそう。アズサとアサマ手助けしてあげて」

 「「ギャギャギャ」」



  その少し前のダンジョンの風景

 

 食事が終わったあとは、全員でのんびりした。

 このところ働きづめだったので、少しゆっくりとした時間も必要だと思う。皆、思い思いの場所で好きなように過ごしているみたいだ。

 ふと部屋の隅にヘラジカの角が積んであるのが目に留まった。そうだった、骨細工を作ろうと思ってたんだっけ。暇つぶしにはいいかもね。

 「コア、金盥を一つ変換して」 「ん」

 鍋用のを使ってもよかったんだけど、どうせこれから先も加工やらなんやらで使うだろうからね。あと洗ったとしても調理器具と製作道具は分けといた方が衛生面で問題が少ないし。


 盥につのを入れて、水をはって煮込む。弱火でいいから火力は松明で。

 鹿の角はそのままだとすごい硬くて、黒曜石のナイフだと歯が立たないぐらいなんだけど、水に漬けておくと柔らかくなって加工できるようになるんだ。茹でればもっと早くできるけど、この場合フニャフニャになりすぎる危険がある。

 でも今回はそれでも問題ないから、作業時間短縮が主目的で茹でます。

 独特な臭いがしてきたので、それに釣られてアズサが見学にきた。

 「アズサはこういう作業に興味あるの?」

 「ギャギャ(少し)」

 「手先器用そうだから合ってるかもね。一緒に削る?」

 「ギャ(はい)」


 茹で上がったヘラジカの角を取り出すと、冷ましながら黒曜石のナイフで削りだす。

 「ギャギャ?(何を作るんですか?)」

 「最初は釣り針かな。大きくていいから、角のカーブをうまく利用して削ってみて。できれば針先に返しをつけて」

 「ギャーギャギャ(むずかしそう)」


 ちなみにこの会話は台座でふわふわしているコアが通訳してくれてるよ。まあ最近は僕の言うことは皆はだいたい意味がわかるみたいだけど。眷属の特性と、付き合いの濃さでなんとなく通じるんだって。そのうちランクが上がって共通語が技能で増えるといいね。

 あー、でも共通語が追加されるより戦闘技能が強化されたほうがいいかも。そこらへんは流れにまかせよう。つっこみといじられ役はワタリがいるからね。

 「おいらの任務っすね」

 「違うよ」


 いつの間にか後ろで見ていたワタリにもナイフを渡して、3人でチマチマ削る。

 「こんなでっかい針でサメでも釣るきっすか?」

 「小さい針はそれなりの道具と時間をかけなきゃ作れないんだよ。今はサイズは無視して造形だけこだわって」

 「了解っす」


 3時間ほどで3つの釣り針が出来上がる。大きさもマチマチ、形もそれぞれなヘラジカの角の釣り針だ。

 「よし、コアこれ一辺に分解して」 「ん」

 「たぶんセットで登録されるだろうから、1セット変換して」 「ん」

 目の前に大きさのそれぞれ違う10個の釣り針が現れた。


 変換リスト:釣り道具

鹿の角の釣り針セット 0.5号~3号 各1個、合計10個 5DP


 「よし、いい出来栄えだ」 「うん」 「ギャギャ(よかった)」

 「なるほど、それで大きさは二の次だったんすねえ」

 「さあ、天気も良いし湖に釣りに行こうか」

 「了解っす」



 というわけで途中の森で、釣り糸の代わりになりそうな丈夫な蔦と、竿の代わりになりそうな手ごろな枝を採集して、釣り道具を揃えた。

 餌は、ミミズを変換してもらい、金盥に入れてきた。荷物が嵩張るので、簡易ソリをできるだけ手直ししてから分解、変換してもらったのがこれ。


 変換リスト:運搬車両

間に合わせのそり 地上・雪上兼用 最大積載量500kg 人力または犬用


 ハーネス付の牽き綱と、囲い付の荷台がついた、それなりの物だ。せっかくだからケンチームとコマンドチーム総出で出掛ける。2頭牽きなので、行きと帰りで交代にしようか。


 無事に湖についたので、手近な場所で糸をたらす。枝に蔦を結んで、蔦の先端に針を結び、ミミズを針に掛けただけのすごい原始的な仕掛けだったけど、入れ食いだった。

 湖の魚は、岸にいる獣や水面に浮かぶ水鳥は警戒していても、蔦の先でもがいている美味しそうなミミズが危険だなんて思ってもいないようだ。

 あっという間に4人で30匹以上を釣り上げていた。そして・・・


 「入れ食いっすね」

 「魚がすれていないからね」

  ・・・

 2人が手助けに入って、ワタリが引きずられることはなくなったけど、このままだと竿が折れるか、蔦が切れるかしそうだ。

 「ありあわせの釣り道具だから大物は無理かも」

 「ここまできたら逃がさないっすよ、一か八か勝負っす!」

 そういってワタリは一本釣りの要領で、無理やり魚を引き抜いた。


 ザッパーーン

 見事に釣り上げられた巨大魚が岸辺でのたうっている。

 「白い蛇?いやアルビノのうなぎか?」

 それは体長2m以上ありそうな巨大で、青白い表皮を持ち、紫色の側点がある不思議なウナギだった。

 「今夜は蒲焼きっすね」

 そう言いつつナイフで止めを刺そうとワタリが近づいた瞬間、巨大ウナギは身を捩って、尾で叩いてきた。

 バリバリバリッ! 「アンギャーー」

 巨大ウナギの体表にスパークが走ったと思う間もなく、ワタリは感電によるショックで昏倒した。

 「電気ウナギだ!皆、離れて」


 どうやらアルビノではなく、寒冷地方に適応した種属のようだ。ワタリはピクピクしてるから麻痺ですんでるみたいだけど、ランク3を無力化できるならかなりの発電力だね。なんとか殺さずに持ち帰れないかな。

 「離れた場所から槍を投げて牽制してみて。倒そうとしなくていいから」

 「ギャギャ(了解です)」

 アズサとアサマが順番に槍を投げて牽制すると、その度に近くに突き刺さった槍に向けて放電してくる。やがて放電の威力が下がり、4回目には少し身体に刺さったにも関わらずスパークは飛ばなかった。

 「MP切れかな?」

 恐る恐る近づいて、槍の石突でトントン叩いてみたけど、もうウナギはぐったりして攻撃する元気もなくなったらしい。

 「よし、盥に少しだけ水を足してこのなかで生かして持ち帰ろう」

 ウナギのMPが回復する前に戻りたいから、釣り上げた魚を蔦でまとめて、急いで湖を離れた。


 軽快に橇を引くリュウとガイの後を早足で追いながら、何か忘れたような気がしてならなかった。


 「あ、ワタリ置いてきた」



 「・・ヘルプっす・・」 

DPの推移

現在値:502 DP

変換:鹿の角の釣り針セット -5

変換:金盥 -5

変換:昆虫食ミミズ -10

変換:間に合わせの橇 -10

残り 472 DP


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