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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
417/478

あちらこちら大忙し

短めです。夜に加筆する予定です。

22:10頃に加筆修正しました。

  凍結湖地下、青水晶の間にて


 『オババ様、凍結湖からの通路は全て封鎖を終えました』

 「ご苦労、引き続き不凍湖方面の通路も閉鎖せよ」

 『了解であります』


 守護者ガーディアンの10番が、骨だけの身体を揺すりながら部屋から退出していった。

 ドワーフの骨格を持つ10番は、土木作業に適正があり、現状はメインのルートにバリケードを築いて、残りは封鎖する作業に従事させている。補助にスケルトン・ファイターを6体つけているので、労働力としては十分なはずだ。

 DPが使えれば即座に終わる仕事なのだが、それは出来るだけこの後の戦いに残しておきたかったのである。


 『オババ様、侵入者の一部が判明しました』

 「7番か、報告を続けな」

 『はっ、凍結湖の湖面から侵入してきたのは、フロッグマンの部隊です。その数は100を越えているものと思われます』

 「発情期で群れてるとかいうオチじゃないだろうね?」

 『いえ、個体毎の士気や練度は、あまり高くありませんが、確実にこちらの勢力範囲を索敵しています。軍事行動とみて間違いありません』


 「その数のフロッグマンを動かせるとなると、フロッグマンキングかヴォジャノーイか・・同業者の反応は無いし、何が目的なのじゃろうか・・」

 『撃退いたしますか?』

 「敵がフロッグマンだけなら、水耐性の呪文を張れば殲滅も容易いじゃろう。もう少し引きずり込んで、餌にせよ」

 『はっ、承知いたしました』


 そこに緊急の連絡が入った。

 『オババ様、ヤバイぜ』

 「12番か、どうしたんじゃ?」

 『南西方面出口の擬装が見破られた。こっちからも侵入者だ』

 「なんじゃと?で、どこの手下じゃ?」


 憑依状態だとダンジョンコアとしての機能が著しく制限される。召喚や念話は問題ないが、ダンジョン内の監視や拡張・設置がおざなりになるのであった。

 さすがにダンジョン同士の勢力争いであれば、自動的に委員会からの警告や通報勧告が出るはずなので、この新手も同業者ではない事はわかる。


 『わかんねえぜ・・人狼だろうと思うが数が多い上に、やけに統制がとれてやがる。俺一人だと抑えきれねえ』

 「人狼か・・厄介じゃな・・13番とグールを増援に出すから、しばし踏ん張るのじゃぞ」

 『急ぎで頼むぜ・・13番というと・・アサシンか!』

 「なんじゃ?」

 『いや、こっちの話だ、気にしないでくれ・・』


 そういわれると逆に気になるが、今は増援の方が先である。

 急いで13番を稼動させると、召喚したグールを6体つけて送り込んだ。

 「南西方面出口へ向かい、侵入者を撃退せよ」

 『承知』

 『グルル』x6


 素早い身のこなしで、13番は走り去っていった。その後ろを飛び跳ねるような奇妙な動きで、死肉喰いと呼ばれるアンデッド達が追従していく。

 喰屍鬼グールは、ゾンビと同様に死体がそのままの姿で動いているが、ゾンビよりも俊敏で、狡猾な戦い方をする。しかもその手足の爪や、長く延びた牙に傷つけられれると、恐怖から身体が硬直して麻痺状態になるので、見た目よりも危険なアンデッドであった。

 スケルトンやゾンビのように、アニメイト・デッドの呪文では生み出すことは出来ない。その上の、サモン・アンデッド(死霊召喚)の呪文が必要になる。


 「人狼は銀の武器でないと倒すのは難しいが、グールの麻痺で足止めは出来るはずじゃ。数秒でも動きが止まれば、守護者が止めを刺すじゃろうて・・」


 一息ついたオババに、さらなる悲報が伝えられた。

 『オババ様、ご報告が!』

 「今度はなんじゃ!」

 『はっ、コアルームの警備を担当している3番であります。実は隣の宝物庫から、なにやら不気味な声が・・』

 「気のせいじゃろ・・あそこは音がもれるほど造りはちゃちではないぞ・・」

 『とは思いましたが、多方面からの侵入者もある今、不審な点は、ご報告をと・・』


 3番の生真面目な性格を思い出して、オババは苦笑した。

 「それで、どんな声が聞えるんじゃ?」

 『はっ、私の耳には、「余はここじゃ~」と・・』


 それを聞いてオババは黙りこんだ・・・


 『オババ様?・・』

 「まずいかも知れん・・」

 『何がでしょうか?』

 「あやつが呼んでおるとなると、さらに厄介な奴が来るぞ・・」

 いつも余裕のあるオババが、少し焦っているように見えた。


 『敵の予想がつくのであれば、お教え下さい。少しでも対策を立てますので』

 3番の言葉に、しばらく迷ってから、オババがポツリと呟いた。


 「クリプト・ガーディアン(墓場の番人)じゃ・・」

 『それは王家の墓などに配置される、あれですか?』

 「そのあれじゃ・・」


 今度は3番が黙り込んだ・・

 『あれは、護るべき墓を暴かれない限り、外には出てこないはずですが?』

 「誰かが暴いたんじゃろうなあ・・」

 『そして暴いたものしか襲わないはずですが・・』

 「いやいや、報復を邪魔しようとしたり、自分達に攻撃を仕掛けて来たものには反撃するらしいぞ」


 『では、あの宝物庫で不気味な唸り声をあげているのはなんですか?・・』

 「昔にの、ちょっと呪い封じの実験台にした、翡翠の仮面じゃと思う・・」


 『どこから持って来たんですか?』

 「確か・・どこぞの墓だったような・・・」

 『返して来て下さい!』

 3番の割と切羽詰った叫びである。


 「そうは言っても、犬猫じゃあるまいし・・」

 『犬や猫なら、こんな状況にはなりませんよ』

 あくまで厳しい3番だった。


 「痕跡は完全に消して来たのに、どうやって辿ってきたのじゃろう・・」

 『ばれたら追われる事を分かって盗んだんですか?!』

 「盗掘専門の盗賊団を唆して、盗み出させたあとで、掠め取っただけじゃよ。報復は全て、奴らに向かったと思ったんじゃが・・」


 『遣り口が、プロですね・・』

 「翡翠の仮面は、探知系を阻害する石棺に入れて運んだし、途中で2度、他所の神殿も通り抜けたので、追跡は出来ないはずなんじゃがな・・誰か、密告した奴がおるのかの・・」


 『あの不気味な呼び声を聞きつけたのでは、ないのですか?』

 「声が聞えるようになったのは、ついさっきじゃろ?大方、墓場の番人の気配を感じて、仮面が反応しだしたのじゃろうて・・つまり順序が逆じゃ・・」

 『どちらにしろ、もうこの場所はばれているのですよね?』

 「今更、仮面を壊しても遅いじゃろうて・・」


 つまり、すぐにクリプト・ガーディアンの集団が襲ってくるということである。

 『とにかく、時間稼ぎはしますので、オババ様はお戻りの用意を・・』


 しかし、オババは3番の言葉に首を振った。


 「ワシはここから離れんよ・・」


 それは、3番が聞いたことのない、オババの年老いた声であった・・


 『しかし、フロッグマンに人狼部隊、さらに墓場の番人では、我らだけでは護りきれません!』


 現在、オババのダンジョンには、維持費のかかる眷族がまったく居なかった。全ての戦力と労働力は、守護者とアンデッドで賄っていたのである。

 そして、守護者とオババのリンクは、憑依したボグ・ハッグの身体を通して行なわれていた。


 オババがダンジョンの防衛力を完全に稼動させるには、憑依を止めて、一度、ダンジョンコアに戻る必要があった。そして、それをすると、守護者とのリンクが一旦切れることになる。

 守護者の中には、オババに仕えることを良しとしない者も存在した。

 厳密には、以前の主人である「冥底湖の魔女」に忠誠を捧げている者達である。

 リンクが切れると、その者達が独自に動き出す危険があった。


 『コアルームと青水晶の間を両方護るには手が足りません。どちらを優先すべきかは自明だと思われますが・・』

 コアルームが破壊されてしまえば、オババはダンジョンコアとしての能力をほとんど失なうことになる。対して、青水晶の間は、守護者の維持とコントロールを司る部屋ではあるが、占領されてもオババが無事なら再攻略も可能である。

 3番にとっては、護るべきはコアルームであった。


 だが、オババの答えは変わらなかった。


 「ここが無くなれば、ワシが地上に居る意味も無くなるのじゃよ・・」


 オババの瞳には、守護者達と同じ碧き水底に眠る、銀の棺が映っていた・・・


  




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