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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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保存食は塩漬けか燻製が基本です

 リュウジャを不凍湖に送り届けるために、第一機動部隊は、道なき道を疾走していた。

 三日月湖から獣道を辿ると、一度は凍結湖に向かって南下し、そこから東へ向かうルートを取らざるをえない。今は時間が惜しい為に、普段は通らないルートを直線的に走破していた。


 野山を駆けるのに、タスカーはその性能を十分に発揮した。

 背中に騎手ともう一人を乗せているにも関わらず、高低差のある湖沼地帯を、速度を落とすことなく6時間以上も走り続けていた。


 先にバテたのはゲストの方であった。

 「済まない、一旦止まってもらえないか・・」

 リュウジャは、自分たちの都合で急いでもらっているのを気にしてか、申し訳なさそうに休憩を願い出た。

 彼自身はまだ保つのだが、護衛の一人が既に顔面蒼白で、今にも振り落とされそうなのだ。


 「ギャギャ(分かった・・全隊停止!)」

 アップルリーダーが声を掛けると、3頭のタスカーが息を合わせて停止した。


 すぐさま護衛は鞍上から滑り落ちると、草むらで、食べたものを全て吐き出している。


 「ギャギャ(ああ、素人さんにはキツかったかな)」

 「ギャ(私らも最初のうちは、しんどかったもんね)」

 タスクライダーのパイとティーは、ケロッとした顔で頷きあっている。


 リュウジャも疲労は溜まっていたが、二人の護衛ほど疲弊はしていなかった。これは彼の体力が優っていたというより、騎乗していたタスカーの安定性の違いのようだ。


 「あと、どれくらいかな?」

 「ギャギャ(行程の6割は消化したと思う。夜中には不凍湖へ着けるはずだ)」

 「流石だな、2日は掛かると覚悟していたのだが・・」


 それもこれも無理矢理なショートカットをしているからで、その代償は護衛二人が主に払っていた・・


 「日が暮れたが、夜道でも大丈夫かい?」

 「ギャギャ(月明かりもあるし、多少速度を緩めればいけるはずだ)」

 「無理を言ってすまないが、野営をしている時間が惜しい。頼んだ・・」

 「ギャギャ(ああ、だがあの二人は平気なのか?)」


 アップルが指した先には、未だに踞る護衛がいた。

 「ここに置いていく訳にもいかないだろう・・いざとなったらロープで縛り付けてくれ・・」

 「ギャギャ(投げ出されたから拾うのは二度手間だな。今から縛っていいか?)」

 「・・致し方ないな・・やってくれ・・」


 再出発したときには、護衛の二人はロープでタスカーの背中に括りつけられていた・・



 しばらく進むと、走りながらパイが何かを発見した。

 「ギャギャ!(隊長!右手にリザードマンらしき影が1体います)」

 「ギャギャ(無視しろ、任務に関係ない)」

 

 しかし報告はそれだけでは終わらなかった。

 「ギャギャ!(隊長!左手にもリザードマンが居ます。2体が歩いています)」

 「ギャ!(右手にも新手です。こちらには気がついていないようです)」


 さすがに異常に思ったか、アップルは全隊停止を命じた。

 「ギャギャ(どういうことだ?この辺りはどこのクランの領域でもないはずだが?)」

 問われたリュウジャも、訝しげに周囲を見渡している。


 「もう夜になろうとしている。狩りをするにも奇妙な時間帯なんだが・・」

 そこへ、丁度視界の開けた場所に、件のリザードマンが1体姿を現した。

 月明かりに浮かび上がったその姿は、一切の精気が失われていた・・


 「ギャギャ(あれは死体か?)」

 「ゾンビではないようだが・・アンデッドの類に変じているな・・」


 一見すると判別が付かないが、土気色に変色した肌と、虚ろな瞳、更に引きずるような足取りが、その正体を物語っていた。


 「ギャギャ(それにしてはこちらに襲いかかってこないな)」

 アンデッドなら、生者を見れば襲ってくるのが相場である。知性の高い上級ランクの者なら、その衝動を理性で抑えて、会話も可能だが、見たところ下級の様なこれらの兵隊が、暴走しないのが逆に不気味であった。


 「生前の意識があるようにも見えないし、どうやらかなり上位の存在に操られているようだな・・」

 アンデッド・リザードマン達は、ゆっくりと南西に向かって移動していた。


 「ギャギャ(どうする?)」

 「どうしようもないな・・襲って来るなら撃退するだけだが、こちらから手出しするには状況が不明過ぎる・・」

 「ギャギャ(なら先を急ごう。これほどのアンデッドが彷徨うろついているなら、クランには何か知らせが来ているだろう)」

 「知った顔でないのが救いだが、他人事ではないしな・・そうしてくれ・・」


 装備品からはどこのクランの者かは見分けが付かなかった。リュウジャもこの湖沼地帯の全てのリザードマンと顔見知りなわけもなく、知り合いで無かった事で、多少は安心していた。


 北から移動してくるアンデッド・リザードマンを避ける為に、少し南に進路を変えて走り出した。


 だが、これが判断ミスであった。


 走り出して直ぐに、アンデッドの集団に遭遇してしまったのである。

 「ギャギャ(しまった!本隊はすでに通過してたのか)」

 先ほど見かけていたのは、落伍していた少数だったらしい。本隊は集団となって南西へと行軍中であったのだ。

 何かに率いられる様に、月光に照らされながら進む無言の兵団・・それは、普通の兵士達よりも個人の意思が見えないだけに、より寒気をもたらす存在であった。


 「ギャギャ!(避けられん、突っ込むぞ!)」

 「「ギャ!(ラジャー!)」」

 3騎が一団となって、アンデッドの集団を突破しようとする。


 生者を見ても反応しない彼らであったが、隊列に飛び込んできた敵対者には、過敏に反応した。

 死者とは思えない流暢な槍使いで、闖入者を撃退しようと隊列を組み替える。


 「ギャギャ!(相手に付き合うな!一撃離脱!)」

 「「ギャ!(アイサー!)」」


 槍を構えて壁となるアンデッド・リザードマンを、ランスチャージで突破する。

 武器のリーチの差で、ランスに突かれた兵士達が、次々に吹き飛ばされていく。

 すり抜けざまに、横合いから槍が繰り出されるが、それらはリュウジャとその護衛が、打ち払っていた。


 「ギャギャ(抜けたぞ、そのまま走れ!)」

 「「ギャ(ラジャー!)」」


 幸いに追撃は無く、アップル達は安全圏まで逃げ切ることに成功した。


 走りながら、先ほどの遭遇の話をする。

 「ギャギャ(手応えがおかしい相手だった)」

 「どう違った?・・」

 「ギャギャ(生身ではない・・なんというか硬かった・・)」

 「甲羅とか鱗とかではなく?・・」

 リュウジャの疑問に答えたのはパイとティーだった。


 「ギャギャギャ(あれです、生肉かと思って噛んだら干し肉だったかんじ)」

 「ギャギャ(あ、それそれ、燻製肉ぽかったよ)」


 「干からびていて、相手を取り憑き殺して仲間に変えるアンデッドか・・」

 「ギャギャ(心当たりがあるのか?)」

 アップルの問いかけにリュウジャは自信無さそうに答えた。


 「専門家に聞かないと、確信は持てないが、俺の勘だと・・墓の番人だな・・」

 「ギャギャ(それって、ミイラですよね)」

 「ギャギャ(包帯してないじゃん)」


 「包帯を巻くのは砂漠の様式で、ここいらだと自然乾燥だな・・」

 「ギャギャ(誰か墓を暴いて守人を怒らしたのか・・)」


 「「ギャギャ(えっと・・うちらじゃないよね?)」」

 「だったら、出会った時に即座に襲われてるさ・・」

 幾つか心当たりのある眷属達だったが、リュウジャの指摘にほっとしたようだ。


 「彼らが目指しているのは、三日月湖でも不凍湖でもない・・」

 「ギャギャ(ここから南西というと・・凍結湖か・・)」


 誰もいないはずの凍結湖に何があるのか・・それは今のリュウジャ達には知りようもなかった・・・



 






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