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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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狼と慰謝料

 いつの間にか、羊と山羊の群れの周囲を、灰色の影が取り巻いていた。

 召喚をいつもの上空偵察から、羊誘導に切り替えていたとはいえ、外敵に敏感な牧羊犬と、ハスキーの探知から逃れていたのだから、かなりの隠密能力である。


 移動速度を合わせながら包囲しているのは、どうやらダイアウルフの群れのようだ。

 ただし、一声も吠えずに、ただヒタヒタと囲む様子は、通常の群れとは思えなかった。


 「おいおい、ランディの予言があたっちまったな、相棒」

 「羊に狼は付き物とは言え、有難くはないさね」

 「しかもこいつらは、ただのダイアウルフではないようだ・・」


 そう言われて、目を凝らすと、距離をとりながらこちらを窺う狼達の瞳には、知性が宿っていた。

 しかも、こちらの視線に気がついた1頭が、ニヤリと歯を剥き出して笑ったのだ。


 「あちゃあ、ヤバくねえか?」

 「アイツら、色々面倒さね」

 「そうなんだが、見逃してくれそうもないんでな・・追い払うしかないだろう・・」


 ハスキーは、いつもと違う矢筒から、矢羽の色の異なる矢を引き抜くと、すぐさま手近のダイアウルフに放った。

 行軍も止めずに攻撃してきた護衛に驚いて、撃たれた狼は矢の直撃をくらってしまう。


 「いってーーな!!」


 その瞬間、ダイアウルフが苦悶の叫び声を上げた。


 「銀の鏃が効く様だ、ワーウルフだな・・」

 「いや、今、共通語しゃべったろ、そっちで判別しろよ」

 「最近は、ゴブリンも共通語をしゃべるからね、狼にいても不思議でないさね」

 ソニアに言われて、スタッチも色々思い起こすことがあったようだ。


 「そういやそうだな・・で、あちらさん、凄い睨んできてるが、どうするんだ?」

 矢を射掛けられたダイアウルフ?が、吠えると、周囲の仲間が包囲の輪を縮めてきた。


 この時点になって、狼の群れに囲まれていたことに気がついた羊達が、お互いの身を寄せ合って、円陣を組み始めた。

 その中心には、杖を持ったビビアンがいた。


 「なになに、どうしたのよ、ちょっと押さないでよ、痛い、今誰か足踏んだでしょ」

 「「メエーー」」

 「しらばっくれても駄目だからね、ブーツの甲に泥の足跡が残ってるんだから」

 「「メエーーー」」

 「大人しく名乗り出ないと、全員、燃やすわよ・・」

 「メエ・・」



 その光景を見た3人は、素早く羊の円陣を守る位置に散開した。

 獲物が固まったのを見てとると、ダイアウルフ達は、完全な包囲網を形成し、さらに数頭が二足歩行形態に変身をした。

 胴体は人族に見えるが、手足は獣毛に覆われており指先には鋭い鉤爪が生えている。そして頭は狼のままであった。


 「半獣半人形態が、4人に狼形態が4頭か・・」

 「狼はペットってことはないさね?」

 「それなら有難いが、戦闘中の判別は難しいぞ・・全員がワーウルフのつもりで戦った方が良い・・」

 ハスキーとソニアが敵の戦力を推し量っている最中も、スタッチは別な事に注目していた。


 「おいおい、女が混じってるぜ、しかも相棒が射抜いた奴だ」

 そう指摘されると、半獣形態の中に、一人だけ女性のフォルムをした者がいた。そしてお尻に矢が突き立っている・・・


 ハスキーはそっと目をそらした・・

 

 「おい、何、知らん顔してるんだよ、お前がやったんだろうが」

 ワーウルフの娘が、怒った声で話し掛けてきた。


 「相棒、傷物にした責任を取れっていってるぜ」

 「おい、誤解を招くような言い方をするなよ・・」

 ハスキーは、慌てて後ろのビビアンを窺うが、メエメエ鳴く声で会話は聞き取れなかったようだ。いつでも呪文が打てるように、杖を構えているだけであった。


 「ああ?、いきなり矢を撃ってきた落とし前、どうつける気だって聞いてるんだよ」

 狼娘が恫喝してきた。


 「狼が襲ってきたら、撃退するのが当たり前だろう・・」


 今度は狼娘が目を逸らしながら答えた。

 「まだ襲ってなかったろ、羊の匂いに誘われて、隙を窺っていただけじゃないか」

 群れから逸れた獲物が居れば、すぐさま襲うつもりだったようだ。それが中々出てこないので、焦れていたらしい。狼形態の何体かは、すでに涎を垂らして空腹を訴えていた。 

 

 「襲う気、満々だろうが!」

 「腹が減ってるんだ、しょうがないだろうが!詫びの印として羊4頭よこせば許してやるぜ」

 「強請り屋かよ!」


 狼娘はふてぶてしく笑った。

 「嫌なら、護衛を全滅させて、群ごと頂く事になるけど、良いんだな」

 「そっちが勝てるとは限らねえぜ」

 スタッチが逆に脅しをかける。実際、ワーウルフ8体なら、多少の損害が出ても撃退する自信はあった。ただし、戦闘後の感染が怖いので、迂闊に戦いたくないだけである。


 「少しは腕に覚えがあるようだが、3人じゃあ、羊の群れを守りきるのは無理だろう?」

 どうやらビビアンは、雇いの羊飼いだと思われているようだ。ならば不意をついた攻撃呪文で、かなり有利に戦えそうだ。


 「やってみなけりゃ分からんさね・・一人につき3体やればお釣りが出るってもんさ」

 ソニアが態と挑発した。

 案の定、周囲のワーウルフ達が殺気立った。


 「威勢が良いのは嫌いじゃないが、やせ我慢は止めときなよ。ウチラがこれだけの訳がないだろ」

 狼娘がうそぶくと、どこに隠れていたのか、さらに8体の半獣形態のワーウルフが現れた。


 その中でも一際、立派な体格をした狼男が、狼娘の背後に立った。

 その威圧感から、この個体が群れのリーダーだと、ハスキー達は理解した。


 狼男のリーダーは、背後から狼娘の頭を鷲掴みにすると、無理矢理頭を下げさせた。

 「うちの妹が迷惑をかけたな、すまん・・」

 「いたたた、痛いって、兄ちゃん痛いよ!」


 リーダーは良識のある狼男だった・・・



 彼らは集団で傭兵の真似事をしているらしく、今はその行軍中だったらしい。大喰らいの大所帯なので、いつも懐は寒く、団員は腹を空かせているのだとか。

 途中で隊列を離れた妹の部隊を追って来て、この場面に遭遇したらしい。


 「野生の獲物を狩るのは構わないが、所有者の居る家畜は襲わないのが隊の規律だ。それを破れば、妹といえども厳罰に処す・・」

 「まだ、襲ってないから、ね、そうだよね?」


 兄の処罰が怖いのか、狼娘は打って変わって、ハスキー達に擁護を願ってきた。

 「ま、まあ、こちらに被害は出ていないのは確かだが・・」

 「ほらほら、兄ちゃん、あちらさんもそう言ってるよ、ね」


 「では、群れの足を止めて、怖い思いをさせたことへの謝罪は受け入れてもらえたであろうか・・」

 「ああ、多少、時間のロスにはなったが、気にしないで良い・・こちらも戦闘にならずにほっとしている・・」


 その言葉を聞いて、兄狼男は頷いた、そして・・・


 「では、次に、嫁入り前の妹に傷をつけた件についてだが・・」


 リーダーは、シスコンの狼男でもあった・・・




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