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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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羊の羊飼い

 ビスコ村から北へ、三日月湖に通じる獣道を、家畜の群れが移動していた。

 山羊と羊の混合した群れは、その先頭を行く一人の羊飼いの後を素直についていく。

 羊飼いは、子供の様な背格好で、先端の曲がった独特な木の杖を携えており、何故か羊毛で作った真っ白でモコモコした鬘を被っていた・・・


 「ねえねえ、本当にこんな格好する必要あるの?」

 ビビアンが、不安気に後ろを振り返った。


 「メエーー」

 羊が答える。


 「いやいや、アンタに聞いてないし・・」

 「「メエーーー」」

 「わ、わかったわよ、前を向いて歩けば良いんでしょ・・」

 羊達の剣幕に、思わず頷くビビアンであった・・


 後方からその様子を伺っていた、ソニアとスタッチが、懸命に笑いを堪えていた。

 「くくっ、ビビアンはすっかり羊のお友達さね・・」

 「ぷぷっ、あれはどうみても羊飼いでなくて、羊に飼われてるよな・・」


 牧羊犬を召喚して、群れから逸れる羊を追い立てているハスキーが、呟いた。

 「仕方ないだろう、ビビアンしか適正が無かったのだから・・」



 話は少し戻って、ビスコ村近郊で、家畜商から羊と山羊を受け取った場面である。

 酒場の親父さんの紹介で、筍の里から商売に来てもらったのは、ハーフリングの羊飼いであった。

 めったに大量の家畜が来ないビスコ村で商談をすると、悪目立ちをするという理由から、村から少し離れた場所で引渡しをする事にしたのである。


 「初めまして、オイラは羊飼いのランドルフ、気楽にランディって呼んでよ」

 ランディと名乗った彼は、羊飼いの必需品とも言える杖を持ち、モコモコの白い髪をしていた・・


 「よろしく、ハスキーだ。ところでその髪型は部族的な風習か何かだろうか?・・」

 羊そっくりな髪型に、他の3人が失礼な事を言う前に、ハスキーが機制を先して尋ねた。


 「あ、これ?これは羊毛から作った鬘だよ。群れの仲間の毛を刈って作ったから、安心するんだよね、こいつらが」

 そう言って、後ろに群れている羊達を指した。


 「なるほど、馬に匂いの染み付いた毛布を乗せて馴致するのと同じか・・」

 「そうそう、まずは仲間と思わせるところからね」

 「だとすると、我々だけで率いるのは難しいか・・」

 悩むハスキーにランディが助け舟を出した。


 「なんなら、この鬘を貸そうか?」

 「我々に使えるかな?・・」

 「試してみないとわかんないけど」


 そして試着が行われた・・・


 スタッチの場合・・

 「なんか睨まれてんだけど・・」

 モコモコの鬘を被ったスタッチは、羊に距離を置かれて警戒されていた。


 「あ、これは、あれだね。他所の群れから牝を拐いに来たと思われてるね・・」

 「なんでだよ、俺は羊になんか興味ねえぞ!」


 ソニアの場合・・

 「逃げ出したさね・・」

 ソニアが鬘を被った途端、一斉に羊が散った。


 「勝てないとわかって逃げ出したね・・他の群れのボスが来たと思ってるよ・・」


 ハスキーの場合・・

 「気づかれていないな・・」

 羊達は、ハスキーの周りで、暢気に草を食んでいた。


 「ある意味すごいね。すっかり群れの一員になってる」

 「これで群れを率いれるのか?・・」

 「んんーー、微妙かなあ。半分ぐらいはついて来るかも」

 「半分か・・」


 ビビアンの場合・・

 「メエー」

 「メエエーー」

 「ちょちょっと、何これ、怖いんだけど・・」

 ビビアンが鬘を被った途端、羊達が周囲に群がった。


 「あ、これバッチリ、適正あるね」

 「ほうほう、ならビビアンで決まりだな」

 スタッチは嬉しそうに笑っている。

 

 「そうさねえ、選ばれし者ビビアンに頼むしかないさね」

 ソニアも、あの鬘は自分には似合わないと思っていたようだ。押し付ける気、満々である。


 「なんか目が怖い、目が座ってるってば」

 「メエーー」

 「羊は皆、その目だよ。瞳が横になってるのが普通なんだ」


 「ちょっとついてこないでよ!」

 「「メエーーー」」

 なぜかビビアンの後を、羊の群れがゾロゾロとついて行く。


 「これなら大丈夫そうだね、山羊も羊の群れを追うと思うけど、逸れる奴は出るから、後ろで注意すること」

 「了解した。いろいろ助かった・・」

 ランディとハスキーは商談成立の握手をした。


 「鬘は、酒場の親爺に預けておいてもらえばいいからね。じゃあ、狼には気をつけて」

 ランディは羊飼いの挨拶をして立ち去っていった・・・


 

 「ちょっと、勝手に帰らないでよ!こいつら、どうするのよ!?」

 「「メエ~~」」



 というわけで、ビビアンが先頭に立って、羊の群れを誘導していた。

 傍から見ると、羊に追われている様にしか見えなかったが・・

 少しでも違和感をなくすべく、ハスキーが、途中の林で、手頃な枝を切り落とし、即席の羊飼いの杖を作った。もちろん、ビビアンの背丈に合わせた、特製品である。


 杖を携えて、モコモコ鬘を被ったビビアンは、羊飼いに見えなくも無かった・・

 「いや、あれはどう見ても羊だろう」

 

 羊の群れに囲まれると、杖がないとどこに居るのかも分からなくなる・・・

 「どちらでもいいさね、ちゃんと目的地に向かっているんだしね」


 ビビアンが立ち止まると、早くいけと、後ろの羊から押されている・・

 「なんで、こいつら、こんなにアグレッシブなのよ・・羊ってもっとこう・・」


 そしてハスキーと牧羊犬が同時に気づいた。

 「どうやら、招かれざる客らしいぞ・・」

 「「ワウワウ」」


 群れの周囲を、殺気が取り囲んでいた・・・









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