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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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凍結湖の秘密

  第4階層、桃の湯にて


 「ここが、温泉の湯元になります」

 カジャが、ゲストのリュウジャとその護衛を案内してきた。僕もその場に立ち会うことにする。

 ちなみにコアは、まだ寝ている。まあ、緊急時には起きてくれるはずだ・・・だよね?・・


 「うちの湯殿より立派だな・・」

 「ですね、湖水で薄まっていないので温度も高そうです、ジャー」

 挨拶もそこそこに、ゲストの二人が、もの珍しそうに中を見回っている。

 それをカジャが、音もなく付いて行く・・監視を兼ねているようだ・・


 「それで、マンガンの見立てでは、原因はどこにあると思う?」

 一応、専門家としての意見を聞くために、マンガンにだけは来てもらった。探検隊の子供チームは、泣き止まないので、母親に預けてきたのだ。


 「そうですね・・測量したわけじゃないので、正確な距離は分かりませんが、『不凍湖』と呼ばれる湖まで、直線距離で70kmぐらいですかね。地下水脈が、噴出圧が変わる程、密接に繋がってるとは考え辛いですね」


 だよね・・湖の水位が変わるようだと、うちのダンジョンはお湯浸しになってるはずだし・・


 「ですが、北方山脈と水脈が繋がっている例もありますので、絶対に無いとは言い切れません」


 だよね・・無罪放免とは行かないか・・

 

「ご主人様、桃の湯が原因か否かが重要であるなら、神託を依頼する方法もありますが、それだと違ったときに、あちらが手詰まりになるかと・・」

 カジャが、そっと耳打ちしていった。


 中位の神官なら、ディビネーション(神託)の呪文を使うことができる。返事があるかどうかは、祈る神によってマチマチだが、答えがあれば、それは真実としてみなされる。質問の内容によっては例外はあるが、今回のような事実の認定には便利な呪文である。

 勿論、依頼するなら両者にとって中立の立場の神官が望ましいし、邪神教の神官とかは論外である。


 ただし、今回に限っては、「不凍湖の異変の原因は、桃の湯ですか?」と尋ねて、「正に」と答えがあれば、温泉は残念だけれども埋め立ててしまえば済む。

 ところが、「否」と答えがあると、リュウジャ達はお手上げだ。

 もちろん、僕らとしては責任がなくなって、しかも桃の湯が存続するので、問題はない。けれども「不凍湖の竜」が勢力を減衰させるのは、長期的にみて、こちらにも悪影響がでそうだ。主に、ドワーフの移住村とか、「小竜会」の勢力関係などで・・


 「あとは、もし直接の原因でなくても、何事か地下水脈で起きているなら、ここにも異変が起きる可能性がありますな、ジャジャ」

 ハクジャが難しい顔をして、天井を眺めていた。


 「コアが『隔離』を覚えていて助かったかもね・・」

 強化されたダンジョンの内壁なら、鉄砲水が噴き出すこともないはずだ。一部屋ぐらいは水浸しになるかも知れないけれども・・



 やがて、視察を終えたリュウジャ達が、戻ってきた。その顔が、暗く落ち込んでいる。

 「お手数をおかけした。そして謂れのない疑いを掛けた事をお詫びする・・」

 リュウジャが、頭を下げると、護衛が慌てて引き止めた。


 「お頭!先走ったのは伝令の奴で、何もお頭が謝ることないですぜ、ジャー」

 「お前は黙っていろ・・万が一に賭けて、ここを見せてもらったのは俺の我儘だ・・」

 「ですが・・ジャー」

 未だに納得していない護衛は不満気ではあったが、それでも口は塞ぐことにしたらしい。


 「それで、迷惑をかけていながら厚かましい願いなんだが、『不凍湖』の異変の原因を探ってもらえないだろうか?無論、相応の報酬は用意させてもらう・・」


 リュウジャから、依頼が舞い込んだ・・・



  コアルームにて


 「それで、その依頼を受けちゃったんすか?」

 主なメンバーをコアルームに集めて、今後の方策を打ち合わせすることになった。ワタリ、ハクジャ、カジャ、ノーミン、テオ、親方、それにアエンとマンガンである。


 「向こうも必死だし、こっちにも利があったし、いいかなって」

 原因を突き止めたら、黒鋼の鉱石、異変を食い止めたら、ミスリル鉱石を譲ってくれるという。流石、伝説の賭博師、太っ腹である。

 是非受けてくれというドワーフからの要請もあって、リュウジャの依頼を受けることに決めた。

 成功報酬だから、達成できなくても気楽だからね・・


 「でも成果が無ければ、ただ働きっすよね?」

 まあ、その時は、フロストリザードマンの下っ端が一人増えるのかな・・

 


 リュウジャは、自分達で出来るだけの対応をする為に、急いでクランに戻って行った。時間が惜しかったので、第一機動部隊に送ってもらうことにする。

 後部座席には、合計で3人しか乗れないので、探検隊の子供チームを泣かせた伝令が残された。ていの良い人質である。


 「本当は、馬鹿をしたコイツに尻尾を詰めさせるのが、仁義なんだが、奴も必死に駆けてきて急を伝えた手柄もある。こちらの都合ばかりで申し訳ないが、今度ばかりは目を瞑ってやってくれ・・」

 土下座をして尻尾の先端をまな板の上に乗せる、伝令リザードマンを見下ろしながら、リュウジャが言い残していった。

 トカゲの尻尾をもらっても嬉しくないので、別に構わないんだけど・・


 「コイツは報酬を払いに来るときに引き取る予定だ。それまでは下働きとしてこき使ってくれて構わない。もし文句を垂れたら、根元から尻尾を斬ってくれ。俺が責任をとる・・」

 それって、報酬が発生しなければ、一生、下働きってことだよね・・



 という訳で、彼はゲスト扱いで働いていた。ゲストというより奴隷だが、逃げ出す自由はある。もちろん、逃亡の先には、「不凍湖の竜」の懲罰部隊が待っているのだけれども・・

 子供達が、怖がるのでフィッシュボーンには入れて貰えないようだ。

 今は、アイアン爺さんが、泥炭運びに使っている・・・



 「下っ端は、オイラが仕込むとして、異変の原因のあたりは付いているっすか?」

 下っ端の専門家であるワタリが、尋ねてきた。


 「あちらからの情報と、マンガン様の推測を重ね合わせると、可能性が高いのはこの辺りかと・・」

 カジャが、壁に投影された地域マップの一点を指した。

 たまに映像が乱れるのは、コアがまだ寝起きだからである。


 『うみゅう・・』


 カジャは気にせずに説明を続けた。

 「三日月湖と不凍湖の中間にある、通称『凍結湖』。一年を通じて、湖面が氷結している謎の湖です」

 「ここらは寒いだで、冬ならどの湖でも凍るだろうけども、夏も凍ってるだか?」

 「はい、夏季は多少は氷の厚さが薄くなるそうですが、それでも象が乗っても壊れないぐらいだとか・・」

 試したのかな・・


 「この凍結湖は、以前は『凍結湖の鮫』というフロストリザードマンのクランの支配下にありましたが、現在はクランは消滅、居住区は『小竜会』の預かりになっていて無人のはずです」

 「それで、そこが原因と推測された理由はなんですか?」

 テオが、親方を抱えながら質問した。


 「不凍湖で異変が感知されたとき、周辺の湖の水位の調査もしたそうです。唯一、変化があったのが、その凍結湖だからですね」

 「キュキュ?」 「水位は増えていたのでしょうか?」

 テオが、親方の通訳をする。


 「水位ではなく、湖面の氷が溶けて、中央付近に穴が開いていたそうです」

 

 「だったら、リュウジャさんの所が潜って調べれば、直ぐに分かるのでは?」

 アエンが、最もな質問をした。

 たとえ、解決はできなくても原因ぐらいは判明すると思われるからだ。


 「それについては、ワシが説明しよう、ジャー」

 カジャに代わってハクジャが話し始めた。


 「凍結湖も不凍湖も、その神秘性からフロストリザードマン達からは、聖域とされてきたのだ。異変が起きたからといって、おいそれとは潜って調べるとかは出来ん。その結果、さらなる禍が起こるかも知れんのだから、ジャー」

 「でもリュウジャさんは、調査の依頼をしてきたんですよね?」

 「あれは、遠くから流れてきて、ここに居着いたのだ。地元の者より畏怖の念は薄いじゃろう・・だが、率先して禁忌を犯せば、族長の座を追われるかも知れぬ・・ジャジャ」


 「というわけで、僕らが代わりに調査隊を出そうと思うんだ。彼らの知らないことも分かったからね・・」

 「なんです、その知らない事って?」


 僕は、ハクジャを見ながら、アエンの質問に答えた。


 「凍結湖の地下に、オババのダンジョンが有るらしいってこと」



 




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