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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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調合の裏側

投稿が遅くなりました。申し訳ございませんでした。

  フィッシュボーン奥の間にて


 「これがヘラちゃんの言ってた大釜ね」

 「確かに、歴史というか風格を感じる代物かも」

 ナーガ族の二人が、ペチペチと部屋の中央に置かれた大釜を叩いている。


 「薪も道具もあるでしゅ。しゅぐに調合が出来ましゅ」

 ヘラは運んでいた、薬草入りの草篭を棚に置くと、大釜の中を掃除し始めた。グドンも背負っていた大瓶を床に下ろして、部屋の隅から薪を運んでいる。


 それらを手伝いながら、タラは興味深そうに周囲を見渡していた。

 「調合道具は良いんだけど、このお面は何故飾ってあるの?」

 その部屋の壁には、一面に手作りの仮面が並べられていた。

 皆が競って作品を並べる為に、今では天井までびっしりと仮面で埋まっていた。


 「えっと・・たぶん、魔除けでしゅ・・」

 魔除けどころか、何かヤバイものが集まってきそうではあるが・・・



 「うーん、少し水が足りないかな・・」

 思ったより大釜が大きいので、運んできた水では足りなさそうである。


 「でも、普通の水だと、せっかくの癒しの泉の水が、薄まってしまうかも・・」

 「だね、出来れば魔法的な要素を含んだ水があれば、良いんだけど。面倒だけどもう一度、汲みにいこうか」


 「しょしたら、しょこの井戸の水ではどうでしゅか?」

 ヘラが提案したのは、この部屋にある井戸であった。


 「でもあれ、普通の井戸でしょ?」

 「いえ、しぇい霊の泉でしゅ」


 タラとミラは顔を見合わせてため息をついた。

 「なんで、あちこちに癒しの泉や精霊の泉があるのよ・・」

 「しかも、こんなに無造作に部屋の中に・・」


 呆れかえる姉弟子二人に、あと3つあることは黙っていようとヘラは思った。


 「でも勝手に水を汲むと、泉の精霊が怒るわよ」

 「そうそう、精霊が居ないと、今度は泉の魔力が弱いから・・」

 「しょれなら平気でしゅ。この泉のしぇい霊はしょこに居るでしゅ」

 ヘラの指した先には、小鳥用の餌台らしきものが立っていた。


 「・・居ないんだけど」

 「あれ?でも台の上の餌が減ってるような・・」

 凝視すると、確かに、台の上のコオロギが、一つずつ消えて行く・・


 「ラムダしゃん、泉の水をしゅこしくだしゃいな」

 ヘラが声を掛けると、透明化していたラムダが姿を現し、宙で一回転した。


 「ありがとうでしゅ」

 ヘラは嬉しそうに井戸から釣瓶を使って水を汲み上げる。重そうなので、グドンが手伝っていた。


 「あれって、癒しの洞窟で昼寝してたフェアリードラゴンよね・・」

 「いつの間に先回り・・って、透明化して飛べば、私達よりは速いかも・・」


 こそこそ喋る見習い薬師達を気にもせずに、ラムダは、餌台に置かれた水差しから蜂蜜水を飲んでいた。



 やがて準備が整い、薪に火がくべられて、大釜で薬草が煮詰められていく・・

 三人は、代わる代わる大きな木のヘラを使って、釜の中身をかき混ぜていた。


 「調合は根気よく・・」

 「煮立てず、冷まさず、焦げつかせず・・」

 「始めチョロチョロ、中、チョロチョロ、赤子泣いても、まだチョロチョロ・・」

 師から教わった、調合の極意を唱えながら、火加減を調整していく。


 「黄金比率は6:4♪」

 「最初は薄味、徐々に濃く♫」

 「刻み生姜にごま塩振って♬」

 実際の調合になれば、手出しは出来ないグドンは、傍で聞いていて、料理みたいだなと思った。


 「・・腹減っただな・・」



 30分も煮詰めていると、薬草の成分が水に溶け出して、緑色の汁が出来た。

 丁寧に、出汁ガラになった薬草を掬い上げると、そのまま、さらに30分ほど、弱火で煮込む。


 「そろそろいいかな・・」

 「良い匂いがします、大丈夫でしょう・・」

 「しゃん人でやると楽でしゅね・・」


 ヒーリングポーション作りで、重要なのは、この火加減とかき混ぜ具合である。

 素人がやれば、あっという間に焦げつくし、調合の技能持ちでも、1時間も休まずにヘラでかき混ぜるのは、重労働である。

 

 大釜に一杯だった水も、煮詰めていくうちに量が減っていき、今は半分ぐらいになっている。

 出来上がった緑色の汁を、溢さないように注意しながら、ポーションの空き瓶に詰めていく・・・


 「空き瓶が全然足りないですね」

 撃退した冒険者から剥ぎ取った、空のポーション瓶や、使用して空いた瓶を集めてもらったが、やはり数が揃わなかった。

 ドワーフに注文も出してはあるが、優先順位が低いのか、材料が足りないのか、まだ届いていなかった。


 「仕方がないから、あり合わせのものに詰めておきましょう」

 「これと、これと、これ・・あら、これも使えそうね・・」

 ミラが選んだ容器を見て、ヘラが首を傾げた。


 「しょれにいれて、効果が残るでしゅか?」

 ゴブレットや酒瓶はまだしも、洗面器や兜はポーションの入れ物としてはどうだろうと思う。


 「平気、平気、多少は水分が蒸発するでしょうけど、その分、多めに入れてるから」

 「まあ、保存期間は短くなるけど、なんとか効くでしょう」

 

 「・・しょう言えば、仕上げが大雑把だって、いつも注意しゃれていたでしゅ・・」

 ヘラは、二人の姉弟子が、師匠に怒られていた事を思い出していた。


 

 なんとか大釜を空にして、次の調合の為に中を綺麗に洗い流した。これもグドンの助けが必要な重労働である。

 ちなみにヒーリングポーションは、一度の作業で80本ほど出来上がった。

 正式なポーション瓶は20本も無かったけれども・・・


 「・・ねえ、あの兜って使用済みよね・・ちゃんと洗った?」

 「え?新品じゃなかったの?・・」


 ヘラは、自分が怪我をしても、ポーションに頼らずに、ニコに治癒してもらおうと心に刻んだ・・・


 

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