表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
405/478

調剤の基本は愛情です

  第二階層、癒しの泉の洞窟にて


 ダンジョン防衛戦になれば、回復の為の主戦力になる癒しの泉であったが、平穏な時は、たまに昼寝と水浴びにモフモフ達がやって来るぐらいで、ほとんど使われる事はない。

 それでもポチが居候していた頃は、日参するケモナーがいたが、今は閑散としていて、ハーブ畑で居眠りしているフェアリードラゴンのラムダが居るだけであった。


 そんな不思議生物の安眠を邪魔しないように、そっと足音を忍ばせながら部屋に入って来た一団があった。ナーガ族の見習い薬師のタラとミラを案内する、妹弟子のヘラである。もちろん彼女には護衛としてグドンが付き従っており、さらにユニコーンのニコが寄り添っている。


 「ここが、回復の泉と薬しょうの畑がある洞窟でしゅ」

 「へえ、思ったより大きいのね・・」

 「こんなに薬草が集まっているなんて、ダンジョンて不思議な場所よね・・」

 ヘラが指差した泉とハーブ畑を、二人は興味深げに眺めていた。


 「それで、あのフェアリードラゴンに似ているのも、ここの住人?」

 タラが、安眠のハーブ畑で、花々の上で横たわっているラムダを指して尋ねた。

 「しょうでしゅ、ゲシュトしぇい霊のラムダでしゅ」

 自分の名前が呼ばれた事で、気がついたのか、ラムダはゆっくりと空中で1回転すると、逆さまになりながら、どこかに飛んでいった・・・


 「もしかして、ここが不思議なだけなのかしら・・」

 ミラの呟きに、ヘラとグドンは静かに頷いた。

 「でしゅね」

 「だと思うだ」


 ニコは我関せずとばかりに、薬草を食んでいた・・・



 彼等の目的は、薬草からヒーリングポーションと解毒薬を作ることであった。

 癒しの泉の水は、1日に一度しか効果が無いし、容器に汲んで持ち運べば、直に効果を失ってしまう。

 ヒーリングポーションに変えて置けば、そのデメリットが無くなるのだ。

 さらに、毒消しのポーションは、先のレッドバックウィドウ戦において、その重要性が再認識されたこともあって、マスターから優先して調剤して欲しいと要請されていた。


 「なぜ摘んだ薬草が翌日には生え変わっているのか謎ですが、遠くまで採集しに行かなくて済むのはありがたいですね」

 効果の高そうな新芽を摘みながら、タラが呟いた。


 「癒しの泉も、それ自体の魔力は薄れるとしても、調剤に使う水としては最適ですからね。きっと美味しいポーションが出来ることでしょう」

 ミラが妙な事を言った。

 「ミラお姉しゃま、味は関係しゅるんでしゅか?」

 「しますよ、美味しく出来たポーションは、効果が高いんです」

 「しょうだったんでしゅか・・」


 しかし、その後ろではタラが、ナイナイと手を顔の前で振っていた。

 「あうう」

 どちらを信用すべきか困惑するヘラであった・・・


 ニコは、食べるだけ食べて満足したのか、泉の水をごくごくと飲むと、ヘラの側で眠ってしまった。



 「これだけ摘めば十分でしょう」

 3人は草で編んだ籠に、3杯分の薬草を摘むと、泉の水を満杯にした大瓶をグドンに背負ってもらって、洞窟を出ることにした。


 「それでどこで調剤をするのですか?」

 ミラの問いに少し悩むヘラであった。

 「しょうでしゅね・・治療室でも構わないんでしゅが、どうしぇなら、あの大釜を使った方が良いかもでしゅ・・」

 「大釜?」

 「はい、フィッシュボーンにある魔女の大釜でしゅ」



 ヘラは気安く提案したが、それからが大変だった。

 通常は、地下水路を辿って行き来するフィッシュボーンであるが、今は薬草を抱えているのだ。地上を行くしかないが、それでは護衛がグドンだけだと許可が出なかった。

 急遽、影狼チーム3頭が派遣されて、偵察と警護を担当することに決まった。


 「チョビ達も疲れているのにゴメンでしゅ・・」

 「「「バウバウ」」」

 謝るヘラに、気にするなと答える影狼チームであった。


 この付近では、チョビ達の気配がしただけで、大半の動物は逃げ出してしまうようになっていた。オークの丘から三日月湖に掛けては、流れの羆でも出ない限り安全である。

 ゴブリンやオークなどの亜人達も、この領域には足を踏み込まなくなっていた。彼らにとって、不吉な丘として認識されたのである。


 ただし、フロストリザードマン達は、逆に良く見かけるようになった。オークの丘の主が、穏健派のダンジョンマスターで、元「下弦の弓月」のハクジャのパトロンだと知れ渡った為である。

 今も5・6人の集団が、どこかに狩りに行くのか、横切っていく途中で、手を挙げて挨拶をしていった。

 グドンも手を挙げて応えたが、ヘラは両手が塞がっているので頭を下げるだけに留めた。

 

 「リザードマンとは友好的なのね」

 その様子を見たタラが尋ねた。

 「しょうでしゅね・・ハクジャしゃんがこの地域の長老会に加われたしょうでしゅ。なので加盟クラン扱いみたいでしゅよ」

 「そうなんだ、この湖沼地域に広い勢力を持つ、リザードマンと友好的なら安心ね・・」

 「敵対しぃていたクランもあったのでしゅが、滅びましゅた・・」

 「「滅んだんだ・・」」


 ヘラは、自滅したというニュアンスを込めたかったようなのだが、姉弟子二人は素直に、ダンジョンマスターの怒りに触れたのだと解釈した・・・



 やがて、三日月湖が見えてくると、フィッシュボーンへ向かっている別の集団が目に入った。

 どうやら、南のドワーフ移住村からやって来た特使らしい。

 ヘラ達は、特に気にせず近づいていったが、ニコだけは、見知らぬ集団に警戒したのか、一足先にフィッシュボーンに逃げ込んだ。


 するとしばらくして向こうも気がついたのか、声を掛けて来た。

 「やあ、確か君はハクジャと同じ眷属の・・ヘラさんだったかな」

 ヘラは遠くから一度見た事がある相手だと気がついた。


 「えっと、リュウジャさん・・でしゅたよね?」

 「そう、丁度良かった、『不凍湖の竜』のリュウジャが訪ねてきたと伝えてくれないか」

 「御用件はなんでしゅか?」

 「酒を都合して欲しいという相談でね」


 「「「ああ、なるほど」」」


 それを聞いた全員が、何が起きたかを悟って、納得した・・・






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ