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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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秋の大市

 ビスコ村は、秋の大市で賑わっていた。

 周辺の村や街から、収穫の終った穀物や野菜が運び込まれて、村の広場に所狭しと積み上げられていた。

 大量の穀物は、まず駐留軍に買い付けられて倉庫へと運び込まれる。次にビスコ村の宿屋や酒場に買われていき、残ったものを村人が売り買いする事になる。


 開拓村、それも最前線のビスコ村では、外壁の外で農業を営むのは自殺行為である。敷地の中に家庭菜園ほどの非常用の畑はあるが、殆どは外部から買い込んでいるのが実情だ。年間を通して商人は来るが、一年のうちでこの時期が、最も賑やかになる・・


 穀物とは逆に、獣肉や魚類は、村で豊富にとれる。

 野生の動物は狩りきれないほど住み着いているし、魔獣も討伐すれば、膨大な可食部分があった。

 ナビス湖での漁は危険が伴うが、魚影が濃いので、命知らずの漁師が、昼間だけ漁に出る。たまに冒険者を護衛に雇って、大掛かりな漁も行われていた。

 そうして取れた獲物を塩漬けにしたり、燻製にしたりして保存しておいたものを、穀物や野菜と交換するのである。


 また、職人たちは手仕事で蓄えた現金で、嗜好品や冬の備えを買うことになる。

 冒険者の多いこの村では、宿屋や酒場にそれなりに現金がおちる。さらに武器や防具は修繕や買い替えが必須なので、鍛冶屋や防具屋は、下手な街の店よりも繁盛していた。

 ただし、労力に見合うほどには儲かってはいない・・

 何故なら、手を抜いたり、ぼったくりをすれば利に敏い冒険者が離れていくからである。

 冒険者が減れば、村の防備力も下がる。その結果、モンスターに蹂躙されて村が滅ぶ危険が増す。なので、この村で鍛冶屋や防具屋を営んでいるのは、開拓の初期から関わっていた古参の者しか居なかった。

 

 そして農業と同じく、ビスコ村で見かけないものに牧畜がある。

 理由も農業と同じで、安全に家畜を飼える敷地がなかった。外壁の外で放牧すれば、その日の内に狼の餌食になってしまう土地柄である。

 食肉なら野生の動物を狩れば良いし、毛皮や革も取れる。唯一、乳を採る為に乳牛と山羊が数頭飼われているだけであった。

 それ故に、家畜の売買は、殆ど行われていなかった・・・



 「やはり、山羊や羊は売られていないな・・」

 大市を巡りながら、家畜商を探していたハスキーが呟いた。


 「売れない品を持ち込む商人は居ないってことだぜ、相棒」

 ビスコ村で山羊や羊が売られていたのを見たことのないスタッチが答える。


 「宿屋で山羊の乳を使った料理が出るから、もう少し需要があるのかと思っていたが・・」

 「そこらは、独自のルートがあってだな、買い手の決まった家畜は大市には出てこないんだよ」

 「確かに、これでは買えても1頭ぐらいが関の山だな・・」

 「とっとと、南の街へ行こうぜ。筍の里なら、まだ出物があるかもな」

 とは言え、ビスコ村でやっておく必要がある案件が幾つか残っていた。


 そこへ冒険者ギルドに寄っていたビビアンとソニアが合流した。

 「お、やけに早いけどもう済んだのか?」

 スタッチの呼びかけに、二人は首を振った。


 「ダメダメさね。受付嬢に捕まっちまったよ」

 「4人揃って話が聞きたいって。あれはお願いというより命令ね」

 処置なしと肩を竦める二人をハスキーがフォローする。


 「まあ、事が大氾濫に関わる以上、あの受付嬢なら、そう言うだろうな・・こちらも予想以上に不作なんで、まずギルドの報告から済ませるとするか・・」

 4人は、色々な事を諦めて、冒険者ギルドへと足を向けた・・・



 待ち構えていた受付嬢に、1階奥の会議室へ通されると、容赦ない追求を受けて、全てを吐かされた。

 「まず、大氾濫の観測報告を。それから時系列順に事態の推移をお願いします。他勢力の協力があったと聞きましたが、そこも詳しく。最北湖で大物を討伐したという目撃報告も受けています。いつの間にかレベルも上がっているようですが、その関係でしょうか?さらに・・・」


 「ちょ、ちょと待ってくれ、俺らはアンタみたいに一辺に幾つも聞き取れないし、話せねえよ」

 スタッチの抗議に、受付嬢は少しだけ追求を緩めた。


 「いいでしょう、ですが虚偽の報告だけはしないように・・したら、私にも考えがありますので・・」

 受付嬢の気迫に、4人はゴクリと固唾を飲み込んだ・・

 「考えとは・・」


 「今は知らない方が幸せでしょう」

 彼女の瞳が、不気味な光を放った・・・



 「それでは、大氾濫は終息したとみて宜しいですね?」

 「確証はないが、ほぼ間違いないだろう・・レッドバックウィドウが黒衣の沼に撤退していったのは確認しているし、その後、偵察部隊らしきものも見かけなくなった。数も大分減らしたし、しばらくは大人しくなるはずだ・・」


 「では、その件は依頼達成ということで処理しておきます。後ほど受付で報酬を受け取って下さい」

 「ああ、念のため黒衣の沼方面に誰か偵察に行かせてくれ・・」

 「手配済みです」

 「そ、そうか・・」


 「次に、この他勢力の協力ですが・・地勢的に関わりそうなのが、1つしか思い当たらないのですが?」

 「いや、それはだな・・」

 言い淀むハスキーを受付嬢は容赦なく追い詰める。


 「別に私は、貴方方がどこの勢力と手を組もうと、それがギルドの不利益にならない限り、追求するつもりはありません。その結果、他の冒険者から裏切り者と蔑まれようが、逆恨みで寝込みを襲われようが、それは貴方方の自由ですから」


 「それって暗に脅してるわよね」

 ビビアンが、即座に噛み付いた。


 「いえ、事前にリスクを提示しているだけです。某地下組織との密約が、バレなければ問題には成りません。ギルドとしても伝があれば安心ですし、専属で依頼を回すことも出来ますし」

 「なら、良いでしょ」

 「ですが、隠しておいて後で広まると、泥を被るのは貴方方です。お零れに与ろうと擦り寄ってくる者や、某洞窟に侵入して手痛い目にあった者が、仕返しの矛先を向けてくる可能性があります」


 「なら、どうしろって言うのよ」

 「全部打ち明けてギルドに丸投げするか、いっそ某地下墓地に雇用されるかですね」

 「打ち明けたら、ギルドが保護してくれるっていうの?」

 「可能な限りですが」


 「もし、後の方を選んだらどうなるさね?」

 「その場合は、ギルドは特に何もしませんね。関連する依頼を優先して回すぐらいでしょうか」

 「ギルド以外はどう出るさね?」

 「予測でしかありませんが、警備隊からは監視対象、他の冒険者からは要注意人物扱いでしょうか」

 「あまり、嬉しくないさね・・」

 とは言え、少し前のソニアであれば、隣の冒険者がダンジョンマスターと雇用契約を結んだと聞けば、まずは正気を疑い、その後で少し距離を置いただろう・・


 「なら、悩んでも仕方ねえだろう。俺らは隠し事が得意な訳じゃねえしな」

 スタッチが、考え込む3人を押しのけて、受付嬢に相対した。


 「だけど、この話を聞いてから、逃げ出したりはしないでくれよ」

 「誰に向かって言っているのですか?」

 

 「皆もいいな、ここはギルドに預けるぜ」

 他の3人も頷いた。


 そして4人は全てを話し始めた・・・




 




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