コアを探して
転生から意識を回復した僕はダンジョンマスターとしての試練に立ち向かう。だがいきなり寝耳に槍衾はハードルが高すぎるんじゃないでしょうか?神様・・
うつ伏せで呼吸を整えながら周囲の様子を観察する。
天井はこれ以上下がってくることはないようだ。顔を横に向けると寝ていた石棺に槍が数本突き立っているのが視界に映る。
あのままだったら確実に2度目の転生だったね。部屋の感じが古代エジプトぽかったから石棺だと勝手に想像してたけど、今見ると直方体の石の塊だね。蓋があるような横線は見えないや。そういえば明かりはどこから?・・・
窮屈な体勢から顔を反対に向けると、部屋の隅に松明がころがっているのが見えた。
あれは壁の上の方に据え付けてあったやつか、落下した天井がこそぎ落としたんだ、杜撰なつくりだなー。でも今はそれがありがたい。この部屋の外も明かりがあるとは限らないからね、拾っとこう。
僕は匍匐前進しながら松明に近づくと、火傷しないように持ち手を握った。反対側の隅には火の消えた別の松明があったので、それも予備に拾っておく。2本の松明をピッケル代わりに水平の石壁を這っていくロッククライマー、それがいまの僕だ。
部屋を横に移動したので今まで足元側だった壁に出口があるのがわかった。 ざっと見回してこの部屋自体は9mから10m四方で、天井までは5・6mあったと思うけどいまは60cmぐらい。中央に診察台ぐらいの大きさの石の台がある。僕が寝ていたやつだ。
なんだろう、改造でもされかかったんだろうか?それとも生け贄?とにかく目が覚めたとたんに槍が降ってくるってどんな無理ゲーですか。ハードモードですか、そうですね。
気を取り直して、この部屋から脱出を試みよう。精神衛生上いつまでも槍の穂先を背負っているのはよくないからね!先端恐怖症にならないといいな。
出口の幅は2mぐらい、高さは60cmだよ、今はね。ギリギリまで近づいて外の安全確認、右左っと。
廊下みたいだね、横幅3mぐらいで左右に延びています。動くものなし、物音もなし、臭いは松脂が焦げたような匂いがする、あ、僕の持ってる松明だね、へへへ。
1分ほど、様子をうかがっていたけど、何かいれば天井の落ちたあの轟音を調べにこないことは、まあないだろうから、勇気をだして部屋から這い出ます。 ニョロっとね。
ああ、なんか久々に背伸びできる・・・天井が高いっていいよね。
伸身と屈伸運動をしてたらズボンの膝と袖の肘が破けているのに気づいたよ。 そして自分がかなり質素な中世風の服装をしているのにも気がついた。麻かなにかで荒く編んだ長袖の上着に、腰は紐で縛るタイプの麻のズボン。革底を皮ひもで縛るだけのサンダル。それだけだった。そして先ほどのロックスライディングで4箇所擦り切れてます・・・泣けるよね。
よし、まともな服を探しに探索開始だ!・・・ボケても誰もつっこんでくれないのがソロの辛いとこだよね。
廊下の先を照らしてみると、部屋から出て右はすぐに十字路になっていて、その先にある正面の廊下には向かい合わせで2つの扉があるのがなんとなく見える。
廊下は扉の先に少し延びてから行き止まりになってるみたい。後ろを振り返って反対側を照らすと、廊下のつくりは左右対称みたいで十字路と2つの扉で、ちょっと先で行き止まり。ということで何かに遭遇するまでぐるっと廊下を歩き回ってみました・・・
元の場所まで戻れました。それでわかったこと。廊下には何もいないし、何も置いてない。松明すらもない。手持ちが切れたら真っ暗だよこれ。
廊下は井桁の形につながっていて、九つの区画に区分されてるかんじ。というのは1区画だけ扉の見当たらない壁だけの場所があったんだ。
便宜上最初の部屋の出口がある方が北と仮定すると、9区画の中心には周囲を廊下で囲まれた最初の部屋がある。
この釣り天井部屋には扉のない出口が北壁にあるだけで、周囲の廊下には他の区画の扉もない。北西、北東、南東の角部屋3つには隣接する廊下に木製のがっしりした扉がついていた。
で、北と東の部屋にはやはり2つ扉がついていたんだけど、これは青銅製でしかも覗き蓋が目の高さについていた。なんか刑務所の独房みたいなかんじで。
さらに南と西の部屋は、やはり青銅の独房扉なんだけど1つしかなく、南西の角部屋はまったく扉がなかった。そして木製の扉と青銅の扉は全部向かい合わせで配置されているんだ。
これって木製の扉を開けると向かい側の青銅の扉が開いて、中から受刑者がでてくるパターンだよね。さてどうしようか・・・
コアが在りそうなのは南西の角部屋だけど、現状では入り方がわからない。
隠し扉なのか、転送魔方陣でもあるのか、金のマトックでも隠されてるのか。一応安全なうちに隠し扉だけは調べておこうかな、廊下の突き当たりも重点的に・・・・ ・・・・・ ・・・・・・
なかった。
そして喉が渇いた。お腹も減った。松明が一つ燃え尽きた。
各方面からタイムリミットが押し寄せてきたので、どこかの扉を開けたいと思います!ちなみに廊下と部屋の壁を丹念に調べた結果、以上の事が判明しました。
北の独房(勝手にそう呼んでいます)の中から「チューチュー、カリカリカリ」という音、
東の独房から「カタカタカタ」という音、
西の独房から「ギャ、ギャ、グエッ、ギャ」という話し声がします。
北東の角部屋の木製扉だけ他より少し冷たい。南の独房からは音がしない。
というわけで西の独房の囚人はゴブリン(またはその亜種)、北がジャイアントラット、東がスケルトンであると想定して行動します。
南はわかりません。あと西の囚人は2名以上いるようなので後回しです。
以上の予想からトライするのは北東の角部屋の南側の木製扉です。
東独房の北向きの青銅扉が連動して開くんじゃないかな、開かないといいな、ま、ちょっと覚悟はしておけ、てなもんで、せいの!
角部屋の木製扉はちょっと重いものの、片手でなんとか押し開けることができた。
そしてやはりというか向かい側の青銅の扉が呼応するようにギギギギギーと金属の軋む音をたてながら内側に開いていく。
角部屋に飛び込んで独房からでてくる何かをやり過ごすこともとっさに考えたけど、中身の答え合わせをしたい欲求がまさって、部屋の主を探してしまったんだ。
現れたのは予想通り、理科室の番人、人体全身骨格模型、スケルトンさんです!
予想と違ったのはこのスケルトン、武器をもっていません。
素手の骸骨ってなんか滑稽ですよね?怖さも半減です。アゴをカタカタいわせて両手を突き出して襲ってきますが、手に持った松明で2・3度叩いたら壊れてしまいました。
あれ?・・・・そうか低級なアンデッドって火属性が弱点だったね。そこらへんは前世の常識(ゲーム内の)と一緒なんだ。床に散らばった遺骨にお祈りを捧げておきます。
せっかくだし開いた東独房の中を探索しようと角部屋の扉から離れたら、ゆっくりですが自動で閉まり始めます。それに連動して向かい側の青銅扉も閉まり始めました。
慌てて木製扉を開き直すと呼応するように閉まるのがとまりました。これ何かでストッパーの代わりにしないと独房探索はやばそうです。素直に角部屋に入りましょう。
北東の角部屋は9m四方のがらんとした部屋で天井の高さは6mほどです。北東の隅の天井付近から清水が湧き出していて床に溜まって池のようになっていました。ミッションコンプリートです。
え?違う?やだなー、まずはミッション「飲み水を確保せよ」をクリアしたっていうことで。
これでこの湧き水が飲料に適さないとかいったら超ハードモードだけど、さすがにそれはないよね?念のため手ですくってちょっとだけ舐めてみる・・・・冷たくて美味しい・・・・あとは止まらなかったよ。
ふーーー減量中のボクサーみたいに、身体の細胞が水分を吸って活性化していくのが実感できる。先へ進む気力が回復してくる。
「僕はまだ戦える」。