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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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あの母にしてあの姉がありこの妹がいる

投稿が遅くなりました。申し訳ございません。

  東部大森林のツンドラエルフクラン「静かなる冬の木立」にて


 「それでは、クルス・スノーホワイトよ、報告をせよ」

 「はっ、長老会議の禁足令を破って、クランを出奔した2名は、レッドベリー家の家宰及び、守備隊副隊長と判明しておりました。両名は、身分を偽って開拓村に潜入、冒険者ギルドを通じて、人族の冒険者パーティーを雇用し、オークの墓場へ送り込んだ模様です」


 「なんと、不可侵条約を結んだ相手に、秘密裏に雇った者を送り込んだとなれば、我らの信義を疑われましょう・・」

 「なに、どこかの没落しかけた家が、暴走しただけだ。奴らに全ての責を負わせて、相手側には賠償金でも払えばよかろうて」

 「冒険者ギルドも手抜かりな・・身元の確認もせずに仲介するとは・・」

 

 「その件につきましては、当事者からの聞き取りで、依頼を請け負ったのが王都を本拠地にするパーティーで、ビスコ村のギルドの通達を蔑ろにした結果だと報告がありました」


 「ふむ、それでは賠償金の分担をギルドに負わせるのは難しいか・・」

 「それより、冒険者のパーティーとやらは、どうなったのです?」


 「はっ、追跡者チェイサーが追ったのですが、一足早くダンジョンに潜り込まれました」


 「まずいではないか・・で、どうなった?」


 「はっ、冒険者パーティーは二つ名を持つ遣り手だったようですが、ダンジョン側が撃退・捕獲したのち、交渉により身柄をこちら側に預かりました」


 「よく、あちらが手放しましたね・・」

 「ふむ、引き渡して貰えたということは、冒険者を証人にして、こちらの不備を訴えるつもりは無いと見て良いのかのう」


 「当クランに関わりのあった者に唆された、冒険者の侵入に関しては、遺恨のある一部の者の暴走として納得してくれたそうです」


 「ならば、良しとするか・・」

 「ですが、出奔した2名と、かの家はどうしますか?」

 長老達は全員が、苦虫を噛み潰した様な顔をした・・


 「出奔した2名は、追跡者が補足したそうです。説得を試みるも激しく抵抗したので、止む無く排除したと・・」


 「説得という名の脅迫だったでしょうが、この場合は致し方ありませぬね」

 「うむ、奴らも、連れ戻されれば極刑が待っていることなど、百も承知だろうからな」

 「では、2名の処分に関しては、追跡者の判断を妥当とする」


 「はっ、ありがとうございます」


 「かの家の対応は、追って沙汰を下すので、待つように・・良いな・・」


 「はっ、これにて報告を終えます」


 「ご苦労、下がって良いぞ」


 

 クルスが後方に下がると、入れ替わりにシルバーリーフのベテラン士官が前に進み出た。


 「ミーシャ・シルバーリーフ、湿原地帯の異変について報告せよ」


 「はっ、大森林の西端で小動物の大移動が始まったのが、異変の発端でした」


 「確か、2週間ほど前でしたか・・」


 「はっ、それ以前にも、例年と比べて大森林に流れ込む生き物が多いという報告があがっていたのですが、はっきり異変と確信したのは、その時からです」


 「それで、彼らは何を避けてこちらに移動したのです?」


 「はっ、湿原地帯に生息する、背赤後家蜘蛛の集団に追われたと思われます」


 「馬鹿な、奴等のテリトリーは黒衣の沼周辺のはず。幾ら獲物が少ないとは言え、大森林に影響を及ぼすほどの数もいないはずだぞ」

 「まさか、レッドバックウィドウが、コロニーを形成して周囲の獣を狩り尽くしているのでは・・」

 「そういえば、この間もそんな事があったような・・あれは、百年は経ってないか・・」


 「そのまさかでありまして、背赤後家蜘蛛は50体以上のコロニーを形成して、周囲の獣と言わず亜人と言わず、全ての生きるものを襲ったようです」


 「それでは大氾濫ではないか!」

 「いかにも、黒衣の魔女が代替わりをする兆しですな・・」

 「また、傍迷惑な・・」

 「なんでも喰いますからな、あの蜘蛛の女王は・・」

 「それで、クランに被害は?」


 「はっ、偵察に向かった斥候部隊のうち、一つが戦闘になって壊滅しました。コロニーの報告は、その隊の生存者によるものです」


 「そうですか、迂闊に戦闘を引き起こした事は、斥候としては落第ですが、重要な情報を持ち帰ったことで、及第点としましょう」

 「それで、西側の警備は強化したのだろうな?」


 「はっ、大森林の警備網を西に傾けて、1個大隊を抽出し、蜘蛛の侵入に備えました。ただ、その為に東側の警戒が疎かになりまして・・」


 「なるほど、それで例の家の者が出奔できたわけだ・・」

 「それでは警備担当者の責任ではないか」

 「しかし、事の重要性を考慮すると、防備を西に集めるのは、やむを得ないかと」

 「ふむ、その件については後ほど検討しようか・・それで、蜘蛛は来たのか?」


 「はっ、第一波は偵察らしく少数でしたので、封殺しました。攻殻は固く、弓矢は通用しづらいのですが、魔法が効きますので・・」


 「第一波ということは、次もあったのですね?」


 「はっ、偵察の半日後にコロニーと思しき蜘蛛の集団と接敵、こちらにも被害が出ましたが、撃退することに成功致しました」


 「被害の数は?」


 「死者2名、重軽傷者14名です。重傷者はクランに搬送し、軽傷者は、前線で治療後、復帰しています」


 「レッドバックウィドウ50体は、侮れない戦力ですが、こちらのテリトリーとも言える大森林に引き込んで、その被害というのが解せませんが・・」


 「申し訳ございません、コロニーを統率する存在に気付くのが遅れまして、不覚をとりました・・」


 「なるほど、黒衣の魔女の信奉者が混ざっていれば、蜘蛛も死兵となりましょう・・こちらが1個大隊では、戦力は五分と五分ですね・・」

 「信奉者が動いているとなると、本格的に大氾濫だな・・」


 「その後、蜘蛛の偵察は何度か来たのですが、コロニーに類する集団は、現れず、現在に至ります」


 「最初の兆候から2週間・・どうやら大氾濫は自然に終結したようですね」

 「だろうな、あれは魔女の代替わりが終わるまで、荒れ狂うのが普通だ。その後、湿原が元に戻るまで、数年かかるから頭が痛いのだがな・・」

 「今回は大人しい方ではないのかな?」

 「さよう、被害が湿原の反対側に集中したようですな」

 「ならば問題はない・・黒衣の魔女も沼から出てこないなら、放置すれば良い」

 「では、監視は継続するように。さらなる異変があれば報告せよ」


 「はっ、承知致しました」

 ベテラン士官は、敬礼をして退出していった・・・



 「やれやれ、毎度の事ながら肩がこるぜ」

 ベテラン士官は、長老会議から出てくると、急に砕けた口調で話始めた。


 「いい加減、慣れた方が良いぞ、貴殿も来年には警備隊長に昇進だろう?」

 あきれた様にクルスが答えた。その口調は、最近、行方不明から復帰した姉に似てきていた。


 「よせよせ、俺が警備隊長なんか務まる柄かよ。絶対に長老と喧嘩になってすぐに降格、悪けりゃ斬首だ。自分の死刑執行許可書にサインする気なんざ、更々ねえよ」

 「相変わらずだな、それが通れば良いがな・・」


 「それより聞いたか?レッドベリー家の後始末」

 「もう長老会議では、家名も忌名にされていたな・・」

 自分の家が同じような扱いを受けていた時期もあるだけに、クルスは複雑な表情をしていた。


 「後継者の勇み足からの死亡、長老会議の通達を破っての遠征隊の全滅、そして今回の家宰と警備副隊長の出奔と暗躍だ。長老達もさすがにブチ切れてたな・・」

 「あの場では明言されなかったが、レッドベリー家は除籍になるらしい・・」

 「おいおい、本当かよ。今後は六家でやっていくのか?」

 「いや、他のクランに呼びかけて、十宗家のうちのどこからか、分家を招集するようだ」


 「なるほどな・・老人が考えそうな策だな」

 「離散する者達の事を考えるとな・・」


 「おい、だからと言って、お前の家で雇うとか言い出すなよ」

 「ダメかな・・」

 「当たり前だろう、どうみても家の没落の元凶はお前の家だぞ。拾ってもらって恩に着る奴もいるだろうが、それ以上に恨みに思って、復讐を謀る奴がでるに決まってるだろうが!」

 

 「しかしな・・」

 「しかしも、だがしもねえんだよ!だいたいお前の家系は、剛毅なくせに、どっかで甘ちゃんなんだよ。いつか寝首かかれるぞ!」

 「ああ、だから母親は、首の筋肉も鍛えろと言っていたのか・・」


 「そういう問題じゃねえ!」








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