さらば、暫しの別れの時だ
「ゴチになったわね、次は家に来たら歓待してあげるわ」
マリアは、そう言い残して、リンを連れて帰っていった。
騎乗用の大型のグレイウルフ4頭は、一人のゴブリン・ウルフライダーに先導されて、東へと駆けていった。
懸命に鞍にしがみ付くリンと、グレイウルフを押しつぶしかねないゴブシロードの巨体が、微妙に旅の不安を掻き立てていた・・・
「とは言え、僕がとやかく言うことじゃないよね・・」
「マリア様は、厳しい方でいらっしゃるようですね」
カジャが見送りながら呟いた。
確かに、振り落とされそうなリンにも、へたばりそうなグレイウルフにも平等に厳しいよね・・
「私はご主人様にお仕え出来て幸せ者です」
眷属に甘すぎるってマリアには怒られるけどね。
「甘やかされて堕落するのは、眷属側に気の緩みがあるからです。ご主人様の厚意を、当たり前と受け止めるような不届き者は、私とロザリオ様で矯正しておきます」
それがテオでも?
「あの方は、厚意は素直に受け止めて、その分を相手に返すことの出来る方です」
なんか、惚気られた?
「そうとって頂いても結構です」
カジャは、普段通りに、テラスの後片付けを指揮し始めたけれど、その尻尾は照れたように丸まっていた。
そして、六つ子達も、出立の用意を始めていた。
「とにかく、一度ビスコ村に戻って、セレンの事を家族に相談してみる・・」
「どうせ父さんと母さんなら『一人ぐらい増えても、どうってことない』って言うだろうけどね」
「部屋も、うちらの分が空いているし、大丈夫でしょう」
「ただし、セレンがビスコ村に慣れるかどうかが問題だな」
「村に他にドワーフは・・居なかったか」
「冒険者の中に見かけた気もするが、定住はしてなさそうだったな・・」
結局、無理そうならまたここに戻ってくるということで話がついた。
アルマジロは、セレンが離れたがらないので、やはり村まで連れて行くことになった。
本人よりも、村では問題になるかも知れなかったが・・
「大人しいだで、平気だと思うだども?」
心配する六つ子にノーミンが話し掛けた。
「いや、問題を起こしそうなのは、冒険者とかなんだ・・」
調教された牽引アルマジロは、そこそこ貴重なので、盗もうとする輩が出る可能性があるという。
「なるほどだ、餌を与えたら、そのままついて行きそうではあるだな」
実際には、アルマジロはちゃんと飼い主を認識して行動はしている。ただし、知らない人物に荷馬車などで運ばれることになっても、身の危険を感じなければ、暴れて逃走とかはしなさそうであった。
悩む六つ子に、アエンが助け舟を出した。
「なら、この防犯チョーカーをどうぞ」
胸のポケットから取り出したのは、緑色をした首輪だった。
「これは?・・」
「家畜の盗難を防ぐ為に開発した魔道具です。まだ量産は出来ないのですが、2つはありますので、差し上げますよ」
「それで、効果は?」
「首輪の方は子機にあたりまして、親機はこれになります」
再びポケットから取り出したのは、手のひらに乗る大きさの、キノコの人形だった。
「この親機の人形から、子機の首輪が100m以上離れると、人形が鳴きます」
「ほう、それは便利だな」
「ねえ。ねえ、それ首輪を小さくして、持ち物とかに着けられないの?」
「これ以上の小型化はまだ、難しいですね。それと人里を離れた場所で親機が鳴くと問題が・・」
不穏な発言をしたアエンに視線が集中した。
「鳴き声を聞いたモンスターが集まって来ます」
「「「シュリーカーかよ!」」」
どうやらキノコの人形は、警報を発するキノコ型のモンスターを真似して作られたようだ・・・
「まあ、村に置いておく分には、役立つかな」
「確かにな、有り難く頂いておこう・・」
だが、村に戻るまでは、同じ小袋にでも仕舞っておくしかなかった。うっかり片方を落として、森の真ん中で鳴かれたら、何が寄って来るか分からないからだ・・
同行してきたナーガ族の二人の見習い薬師は、ここで六つ子とはお別れである。
「皆様のご恩は忘れません」
「お近くを通られた際は、ぜひお立ち寄り下さい」
タラとミラの二人は、にこやかに六つ子に手を振っていた。
大勢のドワーフ達にも見送られながら、六つ子とセレンは、ビスコ村へと出立していった・・・
「さて、お客さんは全員帰ったから、あとは身内で遣り残したことを終わらせていこうか」
『あいあい』
「コア、まずは残った死骸を、ボーンサーペント以外を全て吸収して」
『ぱくぱく』
「次に、ナーガ族二人を眷属化。あっと、二人ともそれで良いんだよね?」
「「お世話になります」」
『うぇるかむー』
二人のスキャンデータはほぼ同じだった。
ナーガ・ノービス・メディシン(タラ&ミラ):蛇人族 見習い薬師
種族:亜人 召喚ランク5 召喚コスト250
HP24 MP17 攻撃4(+1すりこ木) 防御4(+1丈夫な服)
技能:耐寒、誘惑、採集、薬草学、調合
特技:温度感知、精霊呪文(タラ土Lv3、ミラ水Lv3)
タラが土呪文使いで、ミラが水呪文使いの違いがあるだけだ。
「光呪文はまだなんだね」
「残念ながらナーガ族は、光の精霊呪文とは相性が悪く・・」
「・・最初に発現するのは水か土が、ほとんどなのです」
「まあ、二人には薬の調合を担当してもらうから、光呪文はゆっくりでいいからね」
「「はい、頑張ります!」」
「コア、ヘラの治療室の並びに、9マス部屋を拡張して、木の扉を設置して」
『とんてんかん』
「ベッドや布団の予備は、ドワーフの倉庫にあるから、グドン、手伝ってあげて」
『オデ、ベッド運ぶ』
「あら、素敵な殿方ですこと・・」
「本当に、見事な筋肉ですわ・・」
ナーガ族の二人にとっては、グドンは逞しい戦士に見えるらしい。
人里では、ハーフオークとして疎まれることはあっても、女性にちやほやされた事の無いグドンは、ただ戸惑うばかりであった。
「オデ、オデ、仕事しないと・・」
「お姉しゃま!グドンがこまっているでしゅ!」
ヘラが珍しく声を荒げて、二人の姉弟子を叱った。
「あら、珍しい・・ヘラでも怒ったりするのね」
「あ、そうか、もう徴つけたのね?そうでしょ?」
「つけてましぇん!」
顔を真っ赤にして怒るヘラを、二人は微笑ましく見守っていた・・・
「・・徴って何?・・」
僕はカジャにこっそり尋ねた。
「・・ナーガ族には、独占したい男性が出来ると、固有の徴をつける習慣があるそうです・・」
「・・でも、それだと不公平にならない?・・」
「・・徴をつけたナーガ族は、それ以降は他の男性には手を出さなくなるそうですから・・」
「・・なるほどね・・」
今の所は、ヘラにはまだ恋愛は早いみたいだし、グドンは騎士的な感情しか持っていなさそうだ。
でもいつかは、ヘラからユニコーンのニコが離れていく日が来るのかも知れない・・・
『ぽっ♪』




