二つ名は女帝ですが
投稿が大変遅くなりました。申し訳ございませんでした。
オークの丘、特設テラスにおける焼肉パーティーは、未だに続いていた。
「レバーうめー、鉄分うめー」
「血だ、血が足りねえ、もっと肉をくれ」
「豆は身体に良いんだよ・・豆さえ食ってれば人は生きていける・・」
おかしなテンションで、料理を食い漁っているのは、元気を取り戻した、六つ子の弟3人であった。
二日間ほど、水と麦粥しか口に出来なかった所為か、今は貪るように焼肉や野菜を頬張っていた・・
するとそこに、
「良い匂いさせてるじゃない、ワタシの分もあるんでしょうね」
と、勝手に混ざろうとした人物がいた。
「え?誰?」x3
いきなり登場したその人物は、放浪者風のボロいフード付きのローブに身を隠しているが、声や身体つきから、どうやら女性のようだとわかる。
彼女の背後には、同じくローブに身を隠した、屈強な戦士風の巨漢が佇んでいる。
唖然とする六つ子3人とは違い、残りの眷属とゲストは、一斉に闖入者に警戒をした。
しかし彼女は、その物々しい雰囲気をものともせずに、手近にあった菜箸で、食べ頃の肉を摘もうとした。
バチッ
その瞬間、見えないバリアが、彼女の箸を弾いた。
「ちょっと、焼肉の摘み食いも敵対行動扱いなわけ?少しは融通きかせなさいよね!」
彼女がそう叫ぶと、闖入者の二人の足元に魔法陣が浮かび上がり、ゲスト認定された。
それを見て、眷族達は誰が来たのかを理解して、警戒を解いた。
だが逆に、六つ子達は、フードを外して正体を現した相手に驚いていた。
「茶髪に黒い瞳にポニーテール・・」
「自分ではカッコいいと思っている、放浪者風のローブ・・」
「巨漢の従者を従えての、遣りたい放題・・まさか・・」
「「「女帝マリア!?」」」
焼肉を頬張りながら、マリアが睨んだ。
「アンタ達、ゴブリンの餌にするわよ・・」
「ごめんなさい!!」x6
六つ子は揃って土下座した。
キョトンとしたセレンが、見よう見まねで一緒に土下座をしたが、三つ指ついて挨拶しているようにしか見えなかった・・・
その頃のコアルーム
『ごぶますー』
え?マリアがもう来たの。呼んだの2日前なのに、えらく早いね。
『ばうばう』
なるほど、ウルフライダーを正式に登用したのか・・それに同乗して駆けてきたみたいだ。
「コア、マリアとゴブシロードはゲスト化して」
『らじゃー』
「それと、アエンとリンをテラスに移動するように通達」
『ぴんぽんぱんぽん』
「あとは・・接待役が必要か・・モフモフチームで手の空いているメンバーは、至急テラスへ集まって」
『ぎょうむれんらくー』
これで、なんとかなるかな?・・・
再びテラスにて
「ふーん、冒険者とかも仲間に引き入れてるんだ、順調じゃない」
マリアは、焼けた鹿肉を挟んだままの菜箸を、六つ子達に突きつけながら、呟いた。
「ひい、ふう、みい・・6人パーティーかぁ・・聞いたのは4人組だし、こいつら6人とも顔がそっくりだし、違うみたいね・・」
『例の襲撃犯の事なら、別人だな。体型がもっとバラけていた』
「ふーん、そう、ならいいわ、暴言は許してあげる」
「ありがとうございます」x6
「・・ございます?・・」
「で、そっちの小さいドワーフが、うちに来るっていう子なの?」
マリアの言葉に、六つ子は揃って首を振る。
「めっそうもない」x6
そう言いながら、セレンをリーダーの背後に隠した。
「なによ、獲って喰いやしないわよ」
『ゴブリンの餌にするとか、脅かすからだろ』
「あんなの、ほとんど嘘に決まってるじゃない」
「・・少しは本気なんだ・・」x6
「ワタシも忙しいんだから、とっとと会わせて欲しいんだけど・・」
そう言いつつ、箸を動かす手は止まらなかった。
そうこうするうちに、アエンとリンが連れ立って、テラスに現れた。
「マリア、久しぶり!あいかわらず凄い食欲ね?!」
「ハイ!、アエン。でも、ついこの間、会って話をした気がするんだけど・・」
「そうだけど、私にはとても長い時間が経ったような気がしてるの。だから貴女の元気な顔を見れて嬉しいわ・・」
「ねえ、アエン、そろそろ紹介してよ・・」
長々とキャラバンの苦労を語り始めたアエンに、痺れを切らしたリンが、声を掛けた。
「あ、ごめん、リンの事が先だよね・・」
「ふーん、この子がうちに移住希望の変り種かあ」
値踏みするようなマリアの視線に、流石のリンも怯えていた。
「ちょっと、マリア、もう少し優しくしてあげてよね。リンが怖がってるじゃない・・」
「アタシは怖がってなんかないよ・・たかがダンジョンマスターじゃないか・・」
だが、気丈に振舞うリンの足は、小刻みに震えていた。
「ふーん、何も無理してうちに来なくても良いんだけど。役立たずに来られても、迷惑だしね・・」
「無理なんてしてません!役に立ってみせます!」
リンは、精一杯叫ぶが、その声は裏返っていた・・
「そんなこと言ってもねえ・・聞いていないのかも知れないけど、うちは眷属の大部分がゴブリンだし・・」
「知っています・・」
「ドワーフどころか、他の亜人さえいないけど?」
「それも承知です・・」
「ダンジョンコアは、平凡だし・・」
『おい、それは関係ないだろ』
「・・それはちょっと・・」
『おい、そこはマイナス評価なのか?』
「だから、同じダンジョンでも、ここならお仲間もいるわけだし、なんならリザードマンの居住地に行ってもいいわけだしね・・」
なぜか、他の移住場所を推すマリアの横を、親方が通りかかった。
「キュキュ?」
「あ、親方、元気してたでちゅかー?」
すぐに抱き抱えて、お腹を撫で回した。
「・・でちゅか?・・」
マリアの変貌に、怪訝な顔をするリン。
さらにそこに、穴熊のまーぼーとやんぼーが通りかかる。
「あらあら、二人とも立派になって、もう両脇に抱えられないでしゅねー」
「「ギュギュ?」」
「・・でしゅね?・・」
その後も次々と姿を現すモフモフ軍団に、マリアは人目も憚らずにデレデレとし始めた。
『まあ、人目を気にするマスターではないからな・・』
その姿を眺めたリンが、そっとため息をついてアエンに話し掛けた。
「ねえ、噂と大分、印象が違うんだけど・・」
「だから、いつも言ってたでしょ・・マリアは怖い人じゃないって・・」
「それにしたって、どうなのよアレは・・」
そこには、熊に抱き抱えられながら、両手で穴熊を撫で回し、ハリモグラを膝に置いて、だらしない笑みを浮かべるモフラーが居た・・・
『マスター、涎ぐらい拭けよな・・』
「うへへへ」
「なんか、逆に心配になってきたよ・・アレは大丈夫なの?」
「えっと・・たぶん・・」
アエンの返事にも、若干の戸惑いが混じっていた。
「まあ、女帝の別な一面も見れたし、これで腹は決まったよ。アタシはマリアの所に行くから」
「そう、ならもう止めないけれど、辛くなったら相談してね」
「苦労に耐えられなくなるより、愛想を尽かす方が先になりそうなんだけど・・」
『うちのマスターが、色々すまん・・』
「でゅへへへへ」




